Collarに光の花の降る

夕凪

文字の大きさ
上 下
7 / 32

しおりを挟む

 目の前が真っ暗になった。 
 もうダメだ、と柚木は絶望した。

 十八歳で分化した子もいる、と三隅は言っていたけれど、その可能性は限りなく低いように思われた。

 その日、柚木は自分がどうやって学校から家まで帰ったか覚えていない。
 三隅の母が作ってくれた夕飯も食べずに、自室のベッドでひたすらに体を丸めていた。
 今から死刑を告げられる、囚人のような気分だった。

 階段を上ってくる足音がして、部屋の前でそれは止まった。
 軽やかなノックが三隅の来訪を教えてくる。

 柚木はのろのろと布団から出て、ドアを開けた。
 王子様が甘い笑みを浮かべながら、柚木の頭をひと撫でして入ってきた。

「結果はどうだった?」

 いつものように、三隅の問いが向けられる。
 いや、いつもより少し硬い声音だろうか。
 義務検診は今年で終わりなので、きっと三隅も、例年よりも結果が気になっているのだろう。

 柚木は体の横で両手をぐっと握った。

 Usualだった、と、三隅に伝えなければならない。
 三隅に伝えて、そして……。

 この先、三隅にSubのパートナーができるのを、ただ、指を咥えて眺めなければならないポジションに、収まるのだ。


 唇を開いた。
 しかし声が出ない。
 呼吸だけがひゅっと漏れて、息苦しさに泣きそうになった。

 三隅の双眸がひたと柚木を見つめている。
 早く答えなくてはいけない。

 柚木は肩を震わせて息を吸い……。

「……さ、Sub、だった」

 と、消え入りそうな声でそう告げた。

 言った瞬間に、途方もない後悔と自己嫌悪に襲われた。
 王子様の薄茶色の目が、スローモーションのように丸くなる。

「柚、本当? Subだった?」

 真顔で問われて、柚木はおずおずと頷いた。
 そうしてしまってから、自分がいま、謝罪する絶好の機会を逃したことを自覚する。

 嘘ついてごめんなさい、やっぱりUsualだった、と。
 いま、謝るべきだったのに。

 不意に三隅の手が背に回った、と思ったら、強い力で抱きしめられていた。
 後頭部を掻き抱かれ、彼の胸に頬を押し付ける形となる。

 三隅が、全身をわななかせるようにして、ゆっくりと吐息するのがわかった。

「……よかった」

 ぽつり、と、独白のつぶやきが耳に落ちてきた。

 柚木がSubで良かった、と、三隅はそう言ったのだった。

 叫び出したいほどの衝動が、足の底から脳天を突き抜けてゆく。

 柚木はSubじゃない。Usualだ。
 Domの三隅を満たせる存在ではないのに。

 王子様の抱擁が、あまりに熱くて。
 抱きしめられて、死ぬほどしあわせだったから。

 この腕を失くせない、と、改めて自身の恐ろしいまでの執着に身震いした。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

いとしの生徒会長さま 2

もりひろ
BL
生徒会長は代わっても、強引で無茶ブリざんまいなやり口は変わってねえ。 今度は女のカッコして劇しろなんて、ふざけんなっつーの!

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

孤狼のSubは王に愛され跪く

ゆなな
BL
旧題:あなたのものにはなりたくない Dom/Subユニバース設定のお話です。 氷の美貌を持つ暗殺者であり情報屋でもあるシンだが実は他人に支配されることに悦びを覚える性を持つSubであった。その性衝動を抑えるために特殊な強い抑制剤を服用していたため周囲にはSubであるということをうまく隠せていたが、地下組織『アビス』のボス、レオンはDomの中でもとびきり強い力を持つ男であったためシンはSubであることがばれないよう特に慎重に行動していた。自分を拾い、育ててくれた如月の病気の治療のため金が必要なシンは、いつも高額の仕事を依頼してくるレオンとは縁を切れずにいた。ある日任務に手こずり抑制剤の効き目が切れた状態でレオンに会わなくてはならなくなったシン。以前から美しく気高いシンを狙っていたレオンにSubであるということがバレてしまった。レオンがそれを見逃す筈はなく、シンはベッドに引きずり込まれ圧倒的に支配されながら抱かれる快楽を教え込まれてしまう───

獣人王と番の寵妃

沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

ド陰キャが海外スパダリに溺愛される話

NANiMO
BL
人生に疲れた有宮ハイネは、日本に滞在中のアメリカ人、トーマスに助けられる。しかもなんたる偶然か、トーマスはハイネと交流を続けてきたネット友達で……? 「きみさえよければ、ここに住まない?」 トーマスの提案で、奇妙な同居生活がスタートするが……… 距離が近い! 甘やかしが過ぎる! 自己肯定感低すぎ男、ハイネは、この溺愛を耐え抜くことができるのか!?

処理中です...