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狼と名もなき墓標
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「クラウス様は齢五歳で我々の存在を知りました。そして、マリウス様も。マリウス様の方はライカンスロープなるものが本当に存在するのかを確かめるために、敢えて隠し通路を辿ってきたようです」
「えっ?」
「好奇心旺盛な王太子殿下に、里の長も苦笑いをしていたと聞いています」
「遭難したんじゃなかったんだ」
「いえ。山道に迷ったのは本当のようですよ。迷子の二人を見つけたのが、当時里に居ついていた狼だったようです」
里に保護された二人の王子は、以降『狼』たちと交流を重ねてきたという。
クラウスが『狼』たちを私兵として雇いたいと言い出したとき、真っ先に反対したのはマリウスだった。
里の民を二度と戦には巻き込まない。それが先王たちの願いだ、と。
しかしクラウスは、『狼』たちに頭を下げ、力を貸してほしいと乞うた。
「クラウス様は仰いました。我々一族に自由を与えたい、と。そのためには国内の憂いを払い、マリウス様の理想とする平和な世をつくらなければならない、と」
マリウスの治める国。そこでは『狼』たちも誰にも憚ることなく堂々と暮らしていけるはずだ。
クラウスの熱弁を、スヴェンは、
「正直、笑ってしまいました」
と評した。
「笑った? なんで?」
「クラウス様が、あんまり的外れなことを言うので」
的外れ? そうだろうか。エミールは、『狼』たちに自由を与えたいとするクラウスの言葉は、それほどおかしくないと思うのだが。
疑問を覚えたエミールに、スヴェンが軽く首を横に振った。
「我々一族は、新たな里を与えられて以降、ミュラー家のために尽くしてきました。そこで我々は知ってしまった。主君に仕える歓びを。一族の中で受け継がれてきた体術は、主君に使われてこそ活きるんです。それに、クラウス様は勘違いをしている。我々は亡霊であることを強要されたわけじゃない。これまでに幾度も、ミュラー家からは自由になって良いと言われていたのですから」
つまりは自己満足の類だと、スヴェンは言った。
「時代はもはや変わっている。里も、それに合わせて着実に変化しています。自由になりたい者はとっくに里を出て、市井の民として生きている。残っている者は、王家に仕えたいという『亡霊』だけなんですよ」
「それ、クラウス様は……」
「もちろんご存知です。ですからあのひとは我々に、ひと言命じるだけで良かった。私のために尽くせ、と」
「でも、そんなふうには言わないよね、ラスは」
「はい。クラウス様は我々に、契約せよと仰いました。主君と従者として、対等な契約を」
主従で対等とは、またおかしな言葉だ。
エミールの感想に、スヴェンも同意する。
「『狼』はクラウス様個人に仕える私兵として、クラウス様の命令を遵守します。ただ、クラウス様はこうも言いました。私の命令が聞くに値しないと思えば、従わなくて良い、と」
「逆らっていいんだ?」
「正しさの有り様は時代や立場によって移り変わる。私は私のみが正しいとは思っていない、ということも言ってましたよ」
クラウスらしい言い草だった。真面目くさって口にしただろうその光景をエミールは想像して、つい笑ってしまう。
「それを聞いてスヴェンは、このひとに仕えようって思ったんだ?」
「退屈はしなさそうでしたから」
「でも実際にはオレのお守りだったわけだし、不満はないの?」
「あなたはあなたで面白いですよ。あの『鷹』が気に入るわけだ」
「……スヴェンって、ファルケンとわりと仲良しだよね」
「…………」
スヴェンが嫌そうに顔をしかめた。
スヴェンの話が興味深く聞き入っていたので、その間疲れを忘れることができていた。スヴェンがエミールのペースに合わせて歩いてくれているのも理由の一つだろう。
エミールは足元の凹凸に気をつけて歩を進めながら、そうか、とつぶやいた。
「里への隠し通路が通っていたから、ラスはあの屋敷を新居に選んだんだ」
まったく、エミールの知らないところで色々考えている……。クラウスはあと幾つ、エミールに言ってないことがあるのだろう。
ふぅ、と肩で息をつくと、スヴェンが足を止めて「お疲れですか?」と尋ねてきた。
「ううん。正直立ち止まるより歩いてた方がまだマシかも」
座る場所があるならともかく、立ち止まると一気に疲労が襲い掛かってくる気がして、エミールは下腹を軽くさすりながら先を進んだ。
どれぐらい歩いただろう。ふと、空気が冷えてきたのを感じて、エミールはランタンを翳した。
見ればもうすこし先に、上へと伸びる階段があった。
「エミール様。ここからは灯かりを消します」
「えっ。真っ暗になるよ」
「手すりがあるので大丈夫です。私が後ろを行きますので、エミール様は前を」
上り階段は滑落の危険性があるからだろう、スヴェンが後ろへと回った。
エミールが手すりを持ったことを確認してから、スヴェンが灯かりを消した。ランタンはここへ置いていくと言う。
息を切らしながら、一段ずつ慎重に階段を上った。暗すぎて体の向きさえわからなくなる。しかしスヴェンが細やかに声をかけてくれたので、なんとか上りきることができた。
伝っていた手すりが途切れたところが最後の一段だった。ここでスヴェンが前に出て、頭上を探った。
どうやら一か所だけ動くような仕掛けになっているようだ。ずず……と鈍い音を立てて天井が開いた。
外はいつの間にか夜になっていた。雨はやんでいるようだった。雲間から月が顔を覗かせており、その光で地上は淡く照らされていた。
先に上へ上がったスヴェンが、手を差し出してくる。その手を借りながら、エミールもなんとか地下通路から這い出した。
地面は濡れていた。月明かりを頼りに周囲を見渡すと、どうやら山中に出たようだった。
「急げ、麓まで追手が来ている」
唐突に声が響いて、エミールは悲鳴を上げそうになった。
顔を巡らせると、狼面の男が立っていた。
スヴェンが怪訝に表情を曇らせた。
「追手が? やはり早すぎる」
「黒幕は誰だ」
「わからない。ただ、里のことを知らなければ、この山に向けて兵を寄越すことはしない」
スヴェンの言葉を聞いて、狼面が小さく鼻を鳴らした。
「嵌められたな」
「まさしく」
頷き合う二人に、エミールは小声で割り込んだ。
「どういう意味?」
スヴェンがこちらを向いた。その隙に狼面の男の姿がまたふっと消えた。
「エミール様。情報を整理しましょう。まずは昼間に届いた手紙からです」
「アマルからの」
「はい。それはすり替えられていた、とマリウス様は書いていました」
クラウスの行方がわからなくなった、というあの手紙。
元々の内容はなんだったのだろう。
「考えてもわからないことはいまは置いておきましょう」
スヴェンに淡々と注意され、エミール逸れそうになった思考を戻した。
アマーリエからの手紙を受け、まずスヴェンが王城へと向かった。
エミールは屋敷に残ったが、不安に耐え切れずにファルケンの元へと走った。
「『鷹』は我々『狼』とは立場が違います。あの男は存在自体が隠されているわけではない。だからあなたと近しい存在だということはすこし調べればすぐにわかる。あの男が、あなたの護衛を担っていることも」
妊娠して以降は体調が思わしくなく、娼館から足が遠ざかっていたが、彼の元へ通うことをエミールはべつに隠してはいなかったし、クラウスからも特になにも言われていなかった。
だからエミールの周囲を洗えば、ファルケンの存在には行き当たる。
「ルーが、クラウス様の私兵っていうのは」
「敵がそこまで把握していたかどうかはわかりません。ただ、クラウス様の安否が不明となり不安になったあなたは、あの男を頼った。その行動が、敵の思惑通りだったとしたら……」
「オレは……見張られていた?」
「恐らく」
自分の行動が操られていた。その衝撃にエミールは顔色を失くした。
アマーリエからの手紙を読んで居ても立っても居られなくなったエミールはファルケンに泣きついた。
その結果、どうなったか。
「……オレの傍から、ファルケンが離れた」
「『鷹』だけではありません。『狼』も二人、離れました。敵の狙いは、あなたから護衛を引き剥がすことだった」
そうとは知らず、エミールはまんまと踊らされたことになる。
「こうなると王城の混乱も、敵の仕組んだことでしょうね」
王城には、様々な情報が舞い込み、錯綜していたという。
マリウスもその対応に追われているのだろう。
つまりは、敵はクラウスの行方をくらませ、偽の情報で王城をかき回してマリウスをそちらにかかりきりにさせることで、エミールを孤立させたのだ。
「目的は、オレ……」
いや違う。エミールはひとりの体ではない。お腹の中には子どもが居る。クラウスの子どもが。
エミールは咄嗟に両手で下腹部を覆った。敵の狙いは、この子なのか。
「エミール様。いまの状況でひとつ、朗報が」
「え?」
「クラウス様は恐らく、ご無事です」
「な、なんでわかるの?」
「敵の動きが早すぎるからです」
スヴェンが唇の端で笑った。朧な月の光を受けて、彼の白金髪が淡く光っている。
エミールは侍従の目を見つめた。色素の薄い、琥珀色のスヴェンの双眸に、嘘をついている気配はなかった。
「敵の狙いはあなただ。そのあなたを捕らえるのに最大の障壁となるのが、クラウス様です。敵はクラウス様が王都へ戻ってくる前にすべてを終わらせたいのです。クラウス様の帰還を警戒しているのです」
「じゃあ……ラスは」
「ご無事です」
スヴェンが断言した。
力強い言葉だった。
エミールは安堵に涙ぐみそうになったが、泣いている場合ではない。
「じゃあオレは、ラスが戻るまで逃げればいいんだ」
「まさしく」
時間を稼げ、というマリウスの指示もあった。マリウスも、クラウスが戻ってくると信じているのだ。
エミールは深呼吸をした。冷えた空気が肺に入り込み、不安とともに外へと吐き出される。
「えっ?」
「好奇心旺盛な王太子殿下に、里の長も苦笑いをしていたと聞いています」
「遭難したんじゃなかったんだ」
「いえ。山道に迷ったのは本当のようですよ。迷子の二人を見つけたのが、当時里に居ついていた狼だったようです」
里に保護された二人の王子は、以降『狼』たちと交流を重ねてきたという。
クラウスが『狼』たちを私兵として雇いたいと言い出したとき、真っ先に反対したのはマリウスだった。
里の民を二度と戦には巻き込まない。それが先王たちの願いだ、と。
しかしクラウスは、『狼』たちに頭を下げ、力を貸してほしいと乞うた。
「クラウス様は仰いました。我々一族に自由を与えたい、と。そのためには国内の憂いを払い、マリウス様の理想とする平和な世をつくらなければならない、と」
マリウスの治める国。そこでは『狼』たちも誰にも憚ることなく堂々と暮らしていけるはずだ。
クラウスの熱弁を、スヴェンは、
「正直、笑ってしまいました」
と評した。
「笑った? なんで?」
「クラウス様が、あんまり的外れなことを言うので」
的外れ? そうだろうか。エミールは、『狼』たちに自由を与えたいとするクラウスの言葉は、それほどおかしくないと思うのだが。
疑問を覚えたエミールに、スヴェンが軽く首を横に振った。
「我々一族は、新たな里を与えられて以降、ミュラー家のために尽くしてきました。そこで我々は知ってしまった。主君に仕える歓びを。一族の中で受け継がれてきた体術は、主君に使われてこそ活きるんです。それに、クラウス様は勘違いをしている。我々は亡霊であることを強要されたわけじゃない。これまでに幾度も、ミュラー家からは自由になって良いと言われていたのですから」
つまりは自己満足の類だと、スヴェンは言った。
「時代はもはや変わっている。里も、それに合わせて着実に変化しています。自由になりたい者はとっくに里を出て、市井の民として生きている。残っている者は、王家に仕えたいという『亡霊』だけなんですよ」
「それ、クラウス様は……」
「もちろんご存知です。ですからあのひとは我々に、ひと言命じるだけで良かった。私のために尽くせ、と」
「でも、そんなふうには言わないよね、ラスは」
「はい。クラウス様は我々に、契約せよと仰いました。主君と従者として、対等な契約を」
主従で対等とは、またおかしな言葉だ。
エミールの感想に、スヴェンも同意する。
「『狼』はクラウス様個人に仕える私兵として、クラウス様の命令を遵守します。ただ、クラウス様はこうも言いました。私の命令が聞くに値しないと思えば、従わなくて良い、と」
「逆らっていいんだ?」
「正しさの有り様は時代や立場によって移り変わる。私は私のみが正しいとは思っていない、ということも言ってましたよ」
クラウスらしい言い草だった。真面目くさって口にしただろうその光景をエミールは想像して、つい笑ってしまう。
「それを聞いてスヴェンは、このひとに仕えようって思ったんだ?」
「退屈はしなさそうでしたから」
「でも実際にはオレのお守りだったわけだし、不満はないの?」
「あなたはあなたで面白いですよ。あの『鷹』が気に入るわけだ」
「……スヴェンって、ファルケンとわりと仲良しだよね」
「…………」
スヴェンが嫌そうに顔をしかめた。
スヴェンの話が興味深く聞き入っていたので、その間疲れを忘れることができていた。スヴェンがエミールのペースに合わせて歩いてくれているのも理由の一つだろう。
エミールは足元の凹凸に気をつけて歩を進めながら、そうか、とつぶやいた。
「里への隠し通路が通っていたから、ラスはあの屋敷を新居に選んだんだ」
まったく、エミールの知らないところで色々考えている……。クラウスはあと幾つ、エミールに言ってないことがあるのだろう。
ふぅ、と肩で息をつくと、スヴェンが足を止めて「お疲れですか?」と尋ねてきた。
「ううん。正直立ち止まるより歩いてた方がまだマシかも」
座る場所があるならともかく、立ち止まると一気に疲労が襲い掛かってくる気がして、エミールは下腹を軽くさすりながら先を進んだ。
どれぐらい歩いただろう。ふと、空気が冷えてきたのを感じて、エミールはランタンを翳した。
見ればもうすこし先に、上へと伸びる階段があった。
「エミール様。ここからは灯かりを消します」
「えっ。真っ暗になるよ」
「手すりがあるので大丈夫です。私が後ろを行きますので、エミール様は前を」
上り階段は滑落の危険性があるからだろう、スヴェンが後ろへと回った。
エミールが手すりを持ったことを確認してから、スヴェンが灯かりを消した。ランタンはここへ置いていくと言う。
息を切らしながら、一段ずつ慎重に階段を上った。暗すぎて体の向きさえわからなくなる。しかしスヴェンが細やかに声をかけてくれたので、なんとか上りきることができた。
伝っていた手すりが途切れたところが最後の一段だった。ここでスヴェンが前に出て、頭上を探った。
どうやら一か所だけ動くような仕掛けになっているようだ。ずず……と鈍い音を立てて天井が開いた。
外はいつの間にか夜になっていた。雨はやんでいるようだった。雲間から月が顔を覗かせており、その光で地上は淡く照らされていた。
先に上へ上がったスヴェンが、手を差し出してくる。その手を借りながら、エミールもなんとか地下通路から這い出した。
地面は濡れていた。月明かりを頼りに周囲を見渡すと、どうやら山中に出たようだった。
「急げ、麓まで追手が来ている」
唐突に声が響いて、エミールは悲鳴を上げそうになった。
顔を巡らせると、狼面の男が立っていた。
スヴェンが怪訝に表情を曇らせた。
「追手が? やはり早すぎる」
「黒幕は誰だ」
「わからない。ただ、里のことを知らなければ、この山に向けて兵を寄越すことはしない」
スヴェンの言葉を聞いて、狼面が小さく鼻を鳴らした。
「嵌められたな」
「まさしく」
頷き合う二人に、エミールは小声で割り込んだ。
「どういう意味?」
スヴェンがこちらを向いた。その隙に狼面の男の姿がまたふっと消えた。
「エミール様。情報を整理しましょう。まずは昼間に届いた手紙からです」
「アマルからの」
「はい。それはすり替えられていた、とマリウス様は書いていました」
クラウスの行方がわからなくなった、というあの手紙。
元々の内容はなんだったのだろう。
「考えてもわからないことはいまは置いておきましょう」
スヴェンに淡々と注意され、エミール逸れそうになった思考を戻した。
アマーリエからの手紙を受け、まずスヴェンが王城へと向かった。
エミールは屋敷に残ったが、不安に耐え切れずにファルケンの元へと走った。
「『鷹』は我々『狼』とは立場が違います。あの男は存在自体が隠されているわけではない。だからあなたと近しい存在だということはすこし調べればすぐにわかる。あの男が、あなたの護衛を担っていることも」
妊娠して以降は体調が思わしくなく、娼館から足が遠ざかっていたが、彼の元へ通うことをエミールはべつに隠してはいなかったし、クラウスからも特になにも言われていなかった。
だからエミールの周囲を洗えば、ファルケンの存在には行き当たる。
「ルーが、クラウス様の私兵っていうのは」
「敵がそこまで把握していたかどうかはわかりません。ただ、クラウス様の安否が不明となり不安になったあなたは、あの男を頼った。その行動が、敵の思惑通りだったとしたら……」
「オレは……見張られていた?」
「恐らく」
自分の行動が操られていた。その衝撃にエミールは顔色を失くした。
アマーリエからの手紙を読んで居ても立っても居られなくなったエミールはファルケンに泣きついた。
その結果、どうなったか。
「……オレの傍から、ファルケンが離れた」
「『鷹』だけではありません。『狼』も二人、離れました。敵の狙いは、あなたから護衛を引き剥がすことだった」
そうとは知らず、エミールはまんまと踊らされたことになる。
「こうなると王城の混乱も、敵の仕組んだことでしょうね」
王城には、様々な情報が舞い込み、錯綜していたという。
マリウスもその対応に追われているのだろう。
つまりは、敵はクラウスの行方をくらませ、偽の情報で王城をかき回してマリウスをそちらにかかりきりにさせることで、エミールを孤立させたのだ。
「目的は、オレ……」
いや違う。エミールはひとりの体ではない。お腹の中には子どもが居る。クラウスの子どもが。
エミールは咄嗟に両手で下腹部を覆った。敵の狙いは、この子なのか。
「エミール様。いまの状況でひとつ、朗報が」
「え?」
「クラウス様は恐らく、ご無事です」
「な、なんでわかるの?」
「敵の動きが早すぎるからです」
スヴェンが唇の端で笑った。朧な月の光を受けて、彼の白金髪が淡く光っている。
エミールは侍従の目を見つめた。色素の薄い、琥珀色のスヴェンの双眸に、嘘をついている気配はなかった。
「敵の狙いはあなただ。そのあなたを捕らえるのに最大の障壁となるのが、クラウス様です。敵はクラウス様が王都へ戻ってくる前にすべてを終わらせたいのです。クラウス様の帰還を警戒しているのです」
「じゃあ……ラスは」
「ご無事です」
スヴェンが断言した。
力強い言葉だった。
エミールは安堵に涙ぐみそうになったが、泣いている場合ではない。
「じゃあオレは、ラスが戻るまで逃げればいいんだ」
「まさしく」
時間を稼げ、というマリウスの指示もあった。マリウスも、クラウスが戻ってくると信じているのだ。
エミールは深呼吸をした。冷えた空気が肺に入り込み、不安とともに外へと吐き出される。
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