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番外編
女子会*
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「ラ、ライト……ッ、も……っ、ゃ……、ぁあ……っ」
前へ逃れようとする腰を引き戻されたかと思うと、ちゅ……っ、と背中に吸い付かれ、ルージュはぞくぞくと身体を震わせる。
「ルージュ、背中、弱いよね」
「……あ……っ!」
くす、と楽しそうに笑ったライトが、背筋を唇で愛撫してきて、びくりっ、と腰が波打った。
「や……、ぁっ、あっ、あ……っ」
背後から腰を高く上げるような格好で深々と貫かれ、自身を支えられなくなったルージュは、シーツに縋るように身悶える。
「や、ぁあ……っ! 跡……っ、つけ、ちゃ……っ」
ちゅ……っ、ちゅ……っ、と、軽いリップ音を立てながら吸い付かれる度に腰が跳ねる。
ぞくぞくとした甘美な熱に襲われて、じわりと涙が滲んだ。
「あ……っ、だ、めぇ……っ!」
背中がこんなに感じてしまうものだとは知らなかった。
軽く揺さぶられながら背中のあちこちに唇を這わされると、頭の中が白くなる。
「うん。だから見えない場所に、ね?」
「ぁあ、ん……っ」
背中がルージュの弱点の一つだと知ったライトは、ここ最近そこを執拗に攻め立てるのがお気に入りの行為になっている。
――特に、今夜は満月だ。
月が光に満ちる時、ライトはとても意地悪くなる。
感じすぎてしまって嫌々と首を振っても、そう簡単に許してもらえない。
それでも。
「可愛い、ルージュ……」
「あ……っ」
指先で胸元の果実を弾きながら耳元で囁かれ、生理的な涙が溢れ出す。
「好きだよ。愛してる……」
耳の奥へ欲に濡れた声を落とされて、ぞくぞくと腰が震えた。
「ルージュ……」
「ゃ……、ぁあ…………っ」
緩やかだった律動が激しくなり、ルージュの口からは甲高い嬌声が零れ落ちる。
「ぁ……っ、あっ、あ……っ」
ライトが腰を打ち付ける度に蜜口からは愛液が溢れ出し、ルージュの白い内股を濡らしていく。
室内には二人が交わる淫猥な水音が響き渡り、その厭らしさにさえ煽られる。
「ぁ……っ、ぁあ……っ、ん、ラ、イト……ッ!」
背筋を昇ってくる甘美な熱に涙を零し、ルージュはぞくぞくと身体を震わせていた。
◈◈✼◈◈┈┈┈┈◈◈✼◈◈
空は快晴。
絶好のピクニック日和に、ルージュはアメリアを含む友人三人と中庭で昼食を囲っていたのだが……。
「……やっぱりライトも狼だったか」
一人先に食べ終えたアメリアが突然放った不穏なセリフに、ルージュは思わず口の中身を吹き出してしまいそうになった。
「ア、アメリア……ッ? な、なにっ?」
藪から棒に一体なにを言い出すのかと赤くなったルージュへと、アメリアは自分の鎖骨付近をトントン、と指先で叩いてみせる。
「ついてるわよ? キ・ス・マー・ク」
「!? え……っ!?」
一方、思わず言われた場所を手で隠す仕草をしてしまったルージュに、他の二人からは黄色い悲鳴が上がる。
「うそぉ~!? ルージュ、本当なの!?」
「やだっ、そこのところ詳しく!」
そんなところが服の上から確認できるはずもないというに、顕著な反応を示したルージュに、アメリアの探るような目が向けられる。
「……やっぱり……」
「! 引っ掛けたの!?」
それを確認するために嘘をついたのかと、ルージュは赤くなった顔でアメリアへ抗議する。
と、アメリアは、全く悪びれる様子もなく、小さく肩を竦めていた。
「ん~? 今のは嘘だけど、この前チラッと見えた気がして」
アメリアが言っているのは、恐らく先日、一緒に着替えた時のことだろう。
だが、例えそうだとしても、見える位置には残っていないはずなのだけれども……。
「普通にしてれば見えない場所だったけどね。でも、だからこそ逆に、ね」
「……っ」
たまたま見えてしまった、普通では見えない場所に残された小さな鬱血の跡。そんな場所だったからこそ、逆に確信してしまったと告げてくるアメリアの洞察力には返す言葉が見つからない。
思い出すのは、湯浴みの際に目に入ってしまう自分の身体。
見える場所に残さない代わりに、見えない場所にはあちこちライトの痕跡が残されていて、その光景を思い出すだけで顔から火を吹いてしまいそうになる。
「で? どうなのよ」
「ど、どう、って……?」
ずずい、と前のめりに真剣な瞳を向けられて動揺する。
どう、とはどういう意味なのか。
と。
「あ~! 私も気になる~っ!」
「やっぱりアレなの? ライトはベッドの中でも紳士的?」
「それともベッドの中でだけは狼になっちゃうの?」
「やだぁ~っ」
「――っ!?」
口々にピンク色の声を上げる友人二人に、ルージュは真っ赤な顔でぱくぱくと口を游(およ)がせる。
こういった赤裸々な会話をした経験がないわけではないものの、今は昼食時の学園内だ。真っ昼間からしていい話ではない。
しかも、今まではむしろ聞き手だった分、自分が話の中心になるともなれば恥ずかしくて堪らない。
「えっ!? なにその反応!? ライト、狼なの……っ!?」
「嘘嘘!? 本当に!?」
ただ真っ赤になってなにも言えずにいるルージュの反応をどう取ったのか、話は勝手に盛り上がっていく。
「だって、キスマークでしょ!?」
「やだエッチ……! ライトってそういうことしちゃうタイプだったの……!?」
「え……っ、ち、違……っ」
一人歩きどころかどんどんと膨らんでいく妄想に、ルージュが返せる言葉といえばそれくらいだ。
恥ずかしくて恥ずかしくて。どう否定すればいいのか……、そして、どこを肯定したらいいのかもわからない。
「……やっぱりヤることはヤってるのね……」
「っ! アメリア……ッッ!」
じーっ、と。なにかの犯人の反応を伺うかのような眼差しを向けられて、ルージュはなんてことを言うのだと、悲鳴に近い声を上げる。
「だってアンタたち、雰囲気変わったもの」
けれど小さく肩を落としたアメリアにそう苦笑され、つい先の話を大人しく聞いてしまう。
「ライトは相変わらず柔和で紳士的だけど……」
アメリアの言う通り、ライトは今も“理想の王子様”であることには違いない。ただ……。
「距離感て言うか……、遠慮がなくなったって言うか……」
今までであれば決して触れるようなことなどなかった場面で、ここ最近自然とルージュに触れる姿が見られるようになったというアメリアの鋭すぎる分析には、もうどこをどう突っ込んだらいいのかわからない。
表面上は特に変わっていないように見えるライトだが、ルージュもそのことには薄々勘づいていた。ただ、まさか他の人達にまで気づかれているとは思っていなかったけれど。
「時々、牽制してる感じもするし」
「あっ、それは私も感じるかも……っ!」
「“俺のもの”って主張してる時あるわよね……!」
顔を顰めて呟くアメリアに、他の二人もなぜかきゃあきゃあと同意する。
「ダメよ~、ルージュ。一線越えたからって図に乗らせたら」
「まぁ、ライトに限ってそんなことはないとは思うけど~?」
口々に声をかけてくる友人二人は、完全に面白がっている。
「でも! 最近、確かにちょっと、ライトは変わった気がする」
「え……?」
と、そこでふいに真面目な顔で考え込むように告げられて、ルージュはきょとんと瞳を瞬かせる。
「ルージュに関することだけだけどね」
くす、と笑って補足をしてきたのはアメリアだ。
「相変わらずラブラブなのは御馳走様、って感じだけど……。なんか、独占欲みたいなものが垣間見える時があるなぁ~、って」
その言葉に、思わずギクリとしてしまうのはなぜだろう。
確かにライトは“変わった”けれど、それでもライトがライトであることは変わらない。
「まぁ、でも、ライトはライトだから」
だから、眉根を下げたアメリアが零した苦笑に、ほっと胸を撫で下ろしかけた時。
「俺がどうかした?」
「! ライト……ッ!」
ふいに横からかけられた、覚えがありすぎるほどあるその優しい声に、ルージュは驚きと共に振り返る。
「ごめん。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、上の廊下からルージュの姿が見えたから……。これを渡そうと思って」
そう申し訳なさそうに謝ったライトが差し出してきたものは、先日ルージュが読みたいと言っていた本だった。
「……ありがとう」
わざわざ持ってきてくれたのかと感嘆の吐息を洩らせば、ルージュのすぐ傍ではアメリアがニヤリと意味深な笑みを浮かばせる。
「ん~? 相変わらず二人はらぶらぶね、って話?」
「アメリア……ッ」
律儀にも先ほどのライトの質問に答えてみせるアメリアに、ルージュは咎めるような声を上げる。
だが、ライトはきょとんと不思議そうに瞳を瞬かせた後、にこりとした微笑みを浮かべていた。
「ありがとう」
そしてそんなライトにやれやれと溜め息を吐き出して、アメリアは呆れたような呟きを洩らす。
「そこで御礼を言っちゃうのがライトよね……」
「? なにかおかしい?」
「……おかしくはないけど……」
この微妙な気持ちはどうやったらライトに伝わるのだろうかというような、悩まし気なアメリアの声。
「こっちが恥ずかしくなっちゃうわ」
「?」
結局は諦めたらしいアメリアの呟きに、ライトの顔へは疑問符が浮かぶ。
「たまにはライトの焦る顔が見てみたいものだわ」
そうして負け惜しみのように口にされたアメリアのセリフに、ライトは一瞬驚いたように目を丸くした後、くすりと自嘲気味に苦笑した。
「……余裕なんてあったことないよ」
「え?」
「ルージュのことに関しては、俺はいつも必死だから」
仄かな笑みを浮かべながらも真剣な目を向けてくるライトへ、その場はしん、と静まり返る。
「横から誰かに攫われでもしたらどうしよう、って」
「!」
ちら、とルージュに視線を投げて微笑むライトに、瞬時に顔が赤くなる。
「いつだって、ルージュを縛りつけておく方法を探してる」
「……え」
とてもライトのものとは思えない発言に大きく目を見張ったのは、アメリアだけでなく、ライト以外の全員だ。
「まぁ、奪わせないけどね」
それからそうにこりと微笑んだライトはいつもの柔らかな空気を纏っていて、ルージュは無意識にほっと胸を撫で下ろす。
だが、その直後。
「本当は、どこかに閉じ込めておきたいくらいだ」
そっと耳元に寄せられた唇が紡いできたその言葉に、ぞくりと背筋が粟立った。
――今にも耳へ唇が触れそうな至近距離。
「ラ、ライト……ッ」
空には、満月からはほんの少しだけ欠けた白い月。
まだまだ満月に近いこんな日は、月の影響が強く出る。
「それだけルージュのことが好きだ、ってことだよ」
くす、と笑うライトは、ライトであって、ルージュに“誰か”を思い起こさせる。
「も、もう……っ、見せつけないでよ……っ!」
「こっちが恥ずかしくなっちゃうわ……っ」
そんな二人のやり取りに、友人二人は赤くなった顔へパタパタと手を振って風を送る。
「一生離すつもりはないから」
「!」
その声色だけ聞いた時には甘いのに、ルージュへ向けられる瞳は獲物を狙う肉食獣のような色を浮かばせていて、ルージュは思わず息を呑む。
「はいはい。御馳走様」
呆れたように溜め息をつくアメリアは、もちろんそれに気づいているはずもなく。
「……覚悟して?」
ルージュにだけ聞こえる声で「わかっているよね?」と微笑まれ、ルージュはぞくりと身体を震わせていた。
前へ逃れようとする腰を引き戻されたかと思うと、ちゅ……っ、と背中に吸い付かれ、ルージュはぞくぞくと身体を震わせる。
「ルージュ、背中、弱いよね」
「……あ……っ!」
くす、と楽しそうに笑ったライトが、背筋を唇で愛撫してきて、びくりっ、と腰が波打った。
「や……、ぁっ、あっ、あ……っ」
背後から腰を高く上げるような格好で深々と貫かれ、自身を支えられなくなったルージュは、シーツに縋るように身悶える。
「や、ぁあ……っ! 跡……っ、つけ、ちゃ……っ」
ちゅ……っ、ちゅ……っ、と、軽いリップ音を立てながら吸い付かれる度に腰が跳ねる。
ぞくぞくとした甘美な熱に襲われて、じわりと涙が滲んだ。
「あ……っ、だ、めぇ……っ!」
背中がこんなに感じてしまうものだとは知らなかった。
軽く揺さぶられながら背中のあちこちに唇を這わされると、頭の中が白くなる。
「うん。だから見えない場所に、ね?」
「ぁあ、ん……っ」
背中がルージュの弱点の一つだと知ったライトは、ここ最近そこを執拗に攻め立てるのがお気に入りの行為になっている。
――特に、今夜は満月だ。
月が光に満ちる時、ライトはとても意地悪くなる。
感じすぎてしまって嫌々と首を振っても、そう簡単に許してもらえない。
それでも。
「可愛い、ルージュ……」
「あ……っ」
指先で胸元の果実を弾きながら耳元で囁かれ、生理的な涙が溢れ出す。
「好きだよ。愛してる……」
耳の奥へ欲に濡れた声を落とされて、ぞくぞくと腰が震えた。
「ルージュ……」
「ゃ……、ぁあ…………っ」
緩やかだった律動が激しくなり、ルージュの口からは甲高い嬌声が零れ落ちる。
「ぁ……っ、あっ、あ……っ」
ライトが腰を打ち付ける度に蜜口からは愛液が溢れ出し、ルージュの白い内股を濡らしていく。
室内には二人が交わる淫猥な水音が響き渡り、その厭らしさにさえ煽られる。
「ぁ……っ、ぁあ……っ、ん、ラ、イト……ッ!」
背筋を昇ってくる甘美な熱に涙を零し、ルージュはぞくぞくと身体を震わせていた。
◈◈✼◈◈┈┈┈┈◈◈✼◈◈
空は快晴。
絶好のピクニック日和に、ルージュはアメリアを含む友人三人と中庭で昼食を囲っていたのだが……。
「……やっぱりライトも狼だったか」
一人先に食べ終えたアメリアが突然放った不穏なセリフに、ルージュは思わず口の中身を吹き出してしまいそうになった。
「ア、アメリア……ッ? な、なにっ?」
藪から棒に一体なにを言い出すのかと赤くなったルージュへと、アメリアは自分の鎖骨付近をトントン、と指先で叩いてみせる。
「ついてるわよ? キ・ス・マー・ク」
「!? え……っ!?」
一方、思わず言われた場所を手で隠す仕草をしてしまったルージュに、他の二人からは黄色い悲鳴が上がる。
「うそぉ~!? ルージュ、本当なの!?」
「やだっ、そこのところ詳しく!」
そんなところが服の上から確認できるはずもないというに、顕著な反応を示したルージュに、アメリアの探るような目が向けられる。
「……やっぱり……」
「! 引っ掛けたの!?」
それを確認するために嘘をついたのかと、ルージュは赤くなった顔でアメリアへ抗議する。
と、アメリアは、全く悪びれる様子もなく、小さく肩を竦めていた。
「ん~? 今のは嘘だけど、この前チラッと見えた気がして」
アメリアが言っているのは、恐らく先日、一緒に着替えた時のことだろう。
だが、例えそうだとしても、見える位置には残っていないはずなのだけれども……。
「普通にしてれば見えない場所だったけどね。でも、だからこそ逆に、ね」
「……っ」
たまたま見えてしまった、普通では見えない場所に残された小さな鬱血の跡。そんな場所だったからこそ、逆に確信してしまったと告げてくるアメリアの洞察力には返す言葉が見つからない。
思い出すのは、湯浴みの際に目に入ってしまう自分の身体。
見える場所に残さない代わりに、見えない場所にはあちこちライトの痕跡が残されていて、その光景を思い出すだけで顔から火を吹いてしまいそうになる。
「で? どうなのよ」
「ど、どう、って……?」
ずずい、と前のめりに真剣な瞳を向けられて動揺する。
どう、とはどういう意味なのか。
と。
「あ~! 私も気になる~っ!」
「やっぱりアレなの? ライトはベッドの中でも紳士的?」
「それともベッドの中でだけは狼になっちゃうの?」
「やだぁ~っ」
「――っ!?」
口々にピンク色の声を上げる友人二人に、ルージュは真っ赤な顔でぱくぱくと口を游(およ)がせる。
こういった赤裸々な会話をした経験がないわけではないものの、今は昼食時の学園内だ。真っ昼間からしていい話ではない。
しかも、今まではむしろ聞き手だった分、自分が話の中心になるともなれば恥ずかしくて堪らない。
「えっ!? なにその反応!? ライト、狼なの……っ!?」
「嘘嘘!? 本当に!?」
ただ真っ赤になってなにも言えずにいるルージュの反応をどう取ったのか、話は勝手に盛り上がっていく。
「だって、キスマークでしょ!?」
「やだエッチ……! ライトってそういうことしちゃうタイプだったの……!?」
「え……っ、ち、違……っ」
一人歩きどころかどんどんと膨らんでいく妄想に、ルージュが返せる言葉といえばそれくらいだ。
恥ずかしくて恥ずかしくて。どう否定すればいいのか……、そして、どこを肯定したらいいのかもわからない。
「……やっぱりヤることはヤってるのね……」
「っ! アメリア……ッッ!」
じーっ、と。なにかの犯人の反応を伺うかのような眼差しを向けられて、ルージュはなんてことを言うのだと、悲鳴に近い声を上げる。
「だってアンタたち、雰囲気変わったもの」
けれど小さく肩を落としたアメリアにそう苦笑され、つい先の話を大人しく聞いてしまう。
「ライトは相変わらず柔和で紳士的だけど……」
アメリアの言う通り、ライトは今も“理想の王子様”であることには違いない。ただ……。
「距離感て言うか……、遠慮がなくなったって言うか……」
今までであれば決して触れるようなことなどなかった場面で、ここ最近自然とルージュに触れる姿が見られるようになったというアメリアの鋭すぎる分析には、もうどこをどう突っ込んだらいいのかわからない。
表面上は特に変わっていないように見えるライトだが、ルージュもそのことには薄々勘づいていた。ただ、まさか他の人達にまで気づかれているとは思っていなかったけれど。
「時々、牽制してる感じもするし」
「あっ、それは私も感じるかも……っ!」
「“俺のもの”って主張してる時あるわよね……!」
顔を顰めて呟くアメリアに、他の二人もなぜかきゃあきゃあと同意する。
「ダメよ~、ルージュ。一線越えたからって図に乗らせたら」
「まぁ、ライトに限ってそんなことはないとは思うけど~?」
口々に声をかけてくる友人二人は、完全に面白がっている。
「でも! 最近、確かにちょっと、ライトは変わった気がする」
「え……?」
と、そこでふいに真面目な顔で考え込むように告げられて、ルージュはきょとんと瞳を瞬かせる。
「ルージュに関することだけだけどね」
くす、と笑って補足をしてきたのはアメリアだ。
「相変わらずラブラブなのは御馳走様、って感じだけど……。なんか、独占欲みたいなものが垣間見える時があるなぁ~、って」
その言葉に、思わずギクリとしてしまうのはなぜだろう。
確かにライトは“変わった”けれど、それでもライトがライトであることは変わらない。
「まぁ、でも、ライトはライトだから」
だから、眉根を下げたアメリアが零した苦笑に、ほっと胸を撫で下ろしかけた時。
「俺がどうかした?」
「! ライト……ッ!」
ふいに横からかけられた、覚えがありすぎるほどあるその優しい声に、ルージュは驚きと共に振り返る。
「ごめん。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、上の廊下からルージュの姿が見えたから……。これを渡そうと思って」
そう申し訳なさそうに謝ったライトが差し出してきたものは、先日ルージュが読みたいと言っていた本だった。
「……ありがとう」
わざわざ持ってきてくれたのかと感嘆の吐息を洩らせば、ルージュのすぐ傍ではアメリアがニヤリと意味深な笑みを浮かばせる。
「ん~? 相変わらず二人はらぶらぶね、って話?」
「アメリア……ッ」
律儀にも先ほどのライトの質問に答えてみせるアメリアに、ルージュは咎めるような声を上げる。
だが、ライトはきょとんと不思議そうに瞳を瞬かせた後、にこりとした微笑みを浮かべていた。
「ありがとう」
そしてそんなライトにやれやれと溜め息を吐き出して、アメリアは呆れたような呟きを洩らす。
「そこで御礼を言っちゃうのがライトよね……」
「? なにかおかしい?」
「……おかしくはないけど……」
この微妙な気持ちはどうやったらライトに伝わるのだろうかというような、悩まし気なアメリアの声。
「こっちが恥ずかしくなっちゃうわ」
「?」
結局は諦めたらしいアメリアの呟きに、ライトの顔へは疑問符が浮かぶ。
「たまにはライトの焦る顔が見てみたいものだわ」
そうして負け惜しみのように口にされたアメリアのセリフに、ライトは一瞬驚いたように目を丸くした後、くすりと自嘲気味に苦笑した。
「……余裕なんてあったことないよ」
「え?」
「ルージュのことに関しては、俺はいつも必死だから」
仄かな笑みを浮かべながらも真剣な目を向けてくるライトへ、その場はしん、と静まり返る。
「横から誰かに攫われでもしたらどうしよう、って」
「!」
ちら、とルージュに視線を投げて微笑むライトに、瞬時に顔が赤くなる。
「いつだって、ルージュを縛りつけておく方法を探してる」
「……え」
とてもライトのものとは思えない発言に大きく目を見張ったのは、アメリアだけでなく、ライト以外の全員だ。
「まぁ、奪わせないけどね」
それからそうにこりと微笑んだライトはいつもの柔らかな空気を纏っていて、ルージュは無意識にほっと胸を撫で下ろす。
だが、その直後。
「本当は、どこかに閉じ込めておきたいくらいだ」
そっと耳元に寄せられた唇が紡いできたその言葉に、ぞくりと背筋が粟立った。
――今にも耳へ唇が触れそうな至近距離。
「ラ、ライト……ッ」
空には、満月からはほんの少しだけ欠けた白い月。
まだまだ満月に近いこんな日は、月の影響が強く出る。
「それだけルージュのことが好きだ、ってことだよ」
くす、と笑うライトは、ライトであって、ルージュに“誰か”を思い起こさせる。
「も、もう……っ、見せつけないでよ……っ!」
「こっちが恥ずかしくなっちゃうわ……っ」
そんな二人のやり取りに、友人二人は赤くなった顔へパタパタと手を振って風を送る。
「一生離すつもりはないから」
「!」
その声色だけ聞いた時には甘いのに、ルージュへ向けられる瞳は獲物を狙う肉食獣のような色を浮かばせていて、ルージュは思わず息を呑む。
「はいはい。御馳走様」
呆れたように溜め息をつくアメリアは、もちろんそれに気づいているはずもなく。
「……覚悟して?」
ルージュにだけ聞こえる声で「わかっているよね?」と微笑まれ、ルージュはぞくりと身体を震わせていた。
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