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本編
第二十六話 ライトとナイト⑤
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ジェットコースターから始まり、バイキングにコーヒーカップ。
ライトと違って感情の起伏がしっかりしているナイトとの“デート”は、思った以上に楽しいものだった。
恐る恐る入ったお化け屋敷では、ライトと同じようにナイトとも手を繋いでいたけれど、お化けが出てきた時の反応はまるで違う。ライトはさながらお姫様を守る騎士のように怖がるルージュを抱き締めてくれたけれど、ナイトはルージュをしっかりと抱き締めながらも怖がるルージュの姿を笑って楽しんでいるのだ。
思わず頬を膨らませてぽこぽこと拳を出せば、「ごめんごめん」と笑いながら謝られる。
巨大迷路にしてもそうだ。ライトとは一緒に攻略したけれど、ナイトはルージュと一緒にいたいと言いつつ、「勝負だ」と別々の道へ行き、結果、先にゴールに着いていたナイトがルージュを出迎えるという結果になっていた。出口近くでニヤニヤとしたナイトの姿を見た瞬間、ルージュは本気で悔しくなった。そんなこと、ライト相手ではありえない。
それでもこうして一緒にいればいるほどわかる。一見正反対に見える二人だが、やはりナイトはライトなのだ。
穏やかなライトに比べて子供っぽく強引な面はあるけれど、それでも根底にはルージュに対する深い優しさと愛情がある。
からかう程度のことをしても、ルージュが本気で嫌がることは決してしないし、ルージュを逞しく包み込んでくれる。
ナイトは、ライトなのだ。
そう確信すればするほど一緒にいることに違和感はなくなり、やはりナイトのことも好きだと思う。
少しだけ強引なところも、ドキリと心がときめいてしまう。
だから。
「……ねぇ、ナイト」
楽しい時間が過ぎるのは早く、すでに今は夕暮れ時。
最後に観覧車に乗ろうと誘われて、ルージュは素直に頷いた。
しばらくは少しずつ小さくなっていく景色を眺めていたけれど、会話が途切れ、沈黙が続いた時。ルージュは静かにナイトの顔を見つめていた。
「私、ナイトのことも好き」
車内に夕日が差し込む幻想的な景色の中。ナイトがルージュを観覧車に誘った意味は理解しているつもりだった。
ライトがそうであるように、きっとナイトも本質はとてもロマンチストな人間だ。
それをわかっていて、ルージュはナイトと観覧車に乗ることを拒否しなかった。
「……ルー、ジュ?」
僅かに動揺の色を浮かべるナイトに、ルージュは素直な微笑みを浮かべてみせる。
「ナイトはやっぱりライトだもの。好きだなぁ、って思う」
それは、ルージュの本当の気持ち。
「……でも……」
そこでルージュは、きゅっと唇を引き締めると大きな瞳を揺らめかせる。
「でも、思うの。ナイトは、やっぱりライトの一部なんだって」
ルージュの中で導き出された答えは、最初に二人の関係を告げられた真実と変わらない。
ナイトは、ライトの隠された本質なのだ。
つまりそれは。
「ナイトはライトで……。でもきっと、ライトがナイト、なの」
ライトは猫を被っているのだと言った。本当の自分を隠して聖人君子を装っているのだと。
その言葉が正しいのなら、ライトの真実の姿はむしろナイトに近いものという意味になる。
「……上手く、言えないけど」
そんなことを言いながら、ルージュも自分の言っていることがよくわからない。
ナイトは紛れもなくライトだけれど……。心の内にある欲望や衝動を押し殺し、誰もに優しくあろうとするライトのことがルージュは好きなのだ。
「ナイトのことももちろん好きよ? でも、やっぱり私には……っ」
「返してやるよ。ライトに」
覚悟を決めて口にしたルージュの告白に、ナイトはあっさり、やれやれ、といった様子で嘆息した。
「え?」
「ライトを呼び起こしてやる、って言ってるんだよ」
夕日を浴び、そう苦笑するナイトからはなにを思っているのかよく感情が窺えない。
「ナイト……」
ただ、なにを語るでもなく、じっとこちらを見つめてくるナイトにとくん……っ、と心音が波打った。
「……キス、してもいいか?」
静かに窺いながらルージュに向かって伸ばされるナイトの手。
観覧車はもうすぐ頂上だ。
もしかしたら、ナイトは初めからそのつもりだったのだろうかとふと思った。
最初から、ここでライトを返すつもりで。
ナイトは、紛れもなくライトなのだから。
ルージュに、とても優しくて。いつだってルージュのことを一番に想ってくれていて。
「……うん……」
ルージュが同意を示して頷いた時。二人の乗る観覧車はちょうど頂上に差しかかった。
「……」
「……」
そっと上向かされ、優しく唇が重なった。
それは、触れるだけの優しいキス。
時間にすれば、ほんの数秒の出来事だった。
「……ルー、ジュ……?」
そうして離れていった唇が、至近距離からルージュの名前を紡いだ時。
「っ! ライト……!」
目の前にいる相手が、ライトであることを確信した。
「……俺……?」
記憶が混濁しているのか、額に手をやり、動揺の色を見せるライトに、それでも喜びからじわりと涙が滲んでくる。
「ラ、イト……ッ」
もう二度と目を覚まさなかったらと、声にならない悲鳴を上げて、浅い眠りから飛び起きた夜は一度や二度のことではない。
昨夜、ナイトが目覚めたことで、ほんの少しだけ気が緩んで久しぶりに深い眠りにつくことができたけれど、それでも万が一を想像しなかったわけではない。
「……階段から落ちて……、それで……?」
「ライト……ッ! よかった……!」
記憶を手繰り寄せているライトの胸に抱きついた。
「会いたかった……! もう、目を覚まさなかったらどうしよう、って……」
安心感から、次から次へと涙が溢れ出て、ライトの胸元を濡らしていく。
「ルージュ……」
未だ混乱しているライトは、それでも反射的にルージュを抱き留め、優しく髪を撫でてくる。
「……ごめん。なんとなく、思い出してきた」
髪を撫で、ぎゅっとルージュを抱き締めて。
「心配かけて……、不安にさせて、ごめん」
申し訳なさそうに謝罪する。
「ううん、いいの」
全てはルージュを守るため。
目を覚ましてくれたならもういいと、ルージュはふるふると首を振る。
「信じてたから」
ライトがルージュを悲しませるようなことは絶対にしないと。
今はただ、少し休んでいるだけだと。
「……ライトのことも、ナイトのことも」
絶対に目を覚ますと、ライトのことを信じていた。
そして、満月の夜に目覚めたナイトが、ライトのことを呼び起こしてくれることを。
「ナ、イト……?」
そこでルージュの口から出た名前に、ライトは不思議そうに眉を寄せる。
「……俺……?」
「ライト……?」
やはりまだ夢と現実の境目がはっきりしていないようなライトに、ルージュは不安気に顔を上げる。
記憶を探るかのようなライトの視線の動きに、本当に脳に異常はないのだろうかと心配になってくる。
けれど。
「……チュロス、食べたよね?」
「え……? う、うん……」
口にされた確認に、思わず頷きながらも困惑する。
確かにチュロスは食べたけれど、今日のそれはナイトとのことだ。
つまりライトが聞いているのは、昔ここに来た時のことだろうか。
「ルージュの好きなタピオカミルクティーも半分こした」
「……え……?」
だが、次に口にされた質問に、ルージュの瞳はみるみると大きくなっていく。
タピオカミルクティーを半分こしたのも、今日のナイトとの思い出だ。
つまり、それは。
「ライト……? もしかして、記憶が……?」
驚きつつも恐る恐る問いかけるルージュに、ライトもまた信じられないという表情を浮かばせる。
「……ナイトだった時の記憶がある」
「え……っ!?」
それは、なにを意味するのか。
そして、ライトに、ナイトだった時の記憶があるということは。
「……さっき、ナイトとキスした?」
「……え」
不意に真剣な瞳で見下ろされ、思わず身体が固まった。
「ナイトのことも好きだ、って言った?」
「ラ、ライト……?」
ルージュのことを見つめるライトの瞳の奥には、明らかに嫉妬の色が覗いている。
「だ、だって、それは……っ」
「俺、本当は嫉妬深いって言ったよね?」
そう言ってルージュの頬に触れてくる掌はとても優しいものだというのに、なぜかふるりと肩が震えた。
「ラ、ライト……ッ!?」
「上書きさせて」
驚くルージュに向かい、優しく向けられるライトの微笑み。
「え……っ」
上書き、のその意味はもちろん。
「ルージュ……。好きだよ……」
「っ」
いつにない強引さで抱き寄せられ、反射的に目を閉じる。
ライトとのキスは、もちろん嫌ではない。
「……ルージュ……」
ライトの吐息が口元にかかり、ぎゅ、とさらに硬く目を閉じて、その唇を受け入れかけた時。
「っ、ナ、イト……!? 邪魔するな……っ」
唇が重なる寸前で発せられたライトの叫びに、ルージュはすぐに開けた目を丸くする。
「え……? ラ、ライト……?」
そして、困惑するルージュの瞳に飛び込んできた光景は。
「オレは諦めたわけじゃねーからな」
それは、明らかにナイトのもの。
さらには。
「な、にを……っ」
同じ唇で動揺の声を洩らすのはライトだ。
「ルージュだって、こんなくそ真面目なヤツよりもオレの方がいいだろ?」
「お前みたいなヤツがルージュに相応しいわけないだろ……!」
ルージュに迫るナイトを止めるのはもちろんライトだけれど、それは当然ライト自身の身体でもある。
「今日のルージュ、ライトとデートした時よりも楽しそうだったもんな?」
「そんなわけないだろ……!」
まるで一人二役をしているかのような目の前のやりとりに、ルージュは言葉を失った。
「オレはルージュのことを愛してるんだよ……!」
「俺だってルージュのことを世界中の誰よりも愛しいと思ってる……!」
(……ライトとナイトが、会話してる……?)
一つの同じ身体で。二つの人格がルージュを巡って火花を散らす。
なんだかとても恥ずかしい告白をされているような気もするが、困惑したルージュには理解が追いつかない。
「ルージュ! オレを選べ……っ!」
「ナイト! 黙れよ」
言い争うナイトとライトの前で、ルージュは完全に固まった。
「ルージュはオレのことを認めてくれるよな?」
「ルージュは俺のことが好きだよね?」
「……ラ、イト……? ナ、イト……?」
一つの身体で二人から詰め寄られ、思考回路がショートする。
『ルージュのことが好きだ』
重なって聞こえる二人の声は気のせいか。
「……え……? えぇぇぇぇ……!?」
観覧車が降車地点に降りた時、ルージュのなんとも情けない悲鳴が辺りに響いていた。
ライトと違って感情の起伏がしっかりしているナイトとの“デート”は、思った以上に楽しいものだった。
恐る恐る入ったお化け屋敷では、ライトと同じようにナイトとも手を繋いでいたけれど、お化けが出てきた時の反応はまるで違う。ライトはさながらお姫様を守る騎士のように怖がるルージュを抱き締めてくれたけれど、ナイトはルージュをしっかりと抱き締めながらも怖がるルージュの姿を笑って楽しんでいるのだ。
思わず頬を膨らませてぽこぽこと拳を出せば、「ごめんごめん」と笑いながら謝られる。
巨大迷路にしてもそうだ。ライトとは一緒に攻略したけれど、ナイトはルージュと一緒にいたいと言いつつ、「勝負だ」と別々の道へ行き、結果、先にゴールに着いていたナイトがルージュを出迎えるという結果になっていた。出口近くでニヤニヤとしたナイトの姿を見た瞬間、ルージュは本気で悔しくなった。そんなこと、ライト相手ではありえない。
それでもこうして一緒にいればいるほどわかる。一見正反対に見える二人だが、やはりナイトはライトなのだ。
穏やかなライトに比べて子供っぽく強引な面はあるけれど、それでも根底にはルージュに対する深い優しさと愛情がある。
からかう程度のことをしても、ルージュが本気で嫌がることは決してしないし、ルージュを逞しく包み込んでくれる。
ナイトは、ライトなのだ。
そう確信すればするほど一緒にいることに違和感はなくなり、やはりナイトのことも好きだと思う。
少しだけ強引なところも、ドキリと心がときめいてしまう。
だから。
「……ねぇ、ナイト」
楽しい時間が過ぎるのは早く、すでに今は夕暮れ時。
最後に観覧車に乗ろうと誘われて、ルージュは素直に頷いた。
しばらくは少しずつ小さくなっていく景色を眺めていたけれど、会話が途切れ、沈黙が続いた時。ルージュは静かにナイトの顔を見つめていた。
「私、ナイトのことも好き」
車内に夕日が差し込む幻想的な景色の中。ナイトがルージュを観覧車に誘った意味は理解しているつもりだった。
ライトがそうであるように、きっとナイトも本質はとてもロマンチストな人間だ。
それをわかっていて、ルージュはナイトと観覧車に乗ることを拒否しなかった。
「……ルー、ジュ?」
僅かに動揺の色を浮かべるナイトに、ルージュは素直な微笑みを浮かべてみせる。
「ナイトはやっぱりライトだもの。好きだなぁ、って思う」
それは、ルージュの本当の気持ち。
「……でも……」
そこでルージュは、きゅっと唇を引き締めると大きな瞳を揺らめかせる。
「でも、思うの。ナイトは、やっぱりライトの一部なんだって」
ルージュの中で導き出された答えは、最初に二人の関係を告げられた真実と変わらない。
ナイトは、ライトの隠された本質なのだ。
つまりそれは。
「ナイトはライトで……。でもきっと、ライトがナイト、なの」
ライトは猫を被っているのだと言った。本当の自分を隠して聖人君子を装っているのだと。
その言葉が正しいのなら、ライトの真実の姿はむしろナイトに近いものという意味になる。
「……上手く、言えないけど」
そんなことを言いながら、ルージュも自分の言っていることがよくわからない。
ナイトは紛れもなくライトだけれど……。心の内にある欲望や衝動を押し殺し、誰もに優しくあろうとするライトのことがルージュは好きなのだ。
「ナイトのことももちろん好きよ? でも、やっぱり私には……っ」
「返してやるよ。ライトに」
覚悟を決めて口にしたルージュの告白に、ナイトはあっさり、やれやれ、といった様子で嘆息した。
「え?」
「ライトを呼び起こしてやる、って言ってるんだよ」
夕日を浴び、そう苦笑するナイトからはなにを思っているのかよく感情が窺えない。
「ナイト……」
ただ、なにを語るでもなく、じっとこちらを見つめてくるナイトにとくん……っ、と心音が波打った。
「……キス、してもいいか?」
静かに窺いながらルージュに向かって伸ばされるナイトの手。
観覧車はもうすぐ頂上だ。
もしかしたら、ナイトは初めからそのつもりだったのだろうかとふと思った。
最初から、ここでライトを返すつもりで。
ナイトは、紛れもなくライトなのだから。
ルージュに、とても優しくて。いつだってルージュのことを一番に想ってくれていて。
「……うん……」
ルージュが同意を示して頷いた時。二人の乗る観覧車はちょうど頂上に差しかかった。
「……」
「……」
そっと上向かされ、優しく唇が重なった。
それは、触れるだけの優しいキス。
時間にすれば、ほんの数秒の出来事だった。
「……ルー、ジュ……?」
そうして離れていった唇が、至近距離からルージュの名前を紡いだ時。
「っ! ライト……!」
目の前にいる相手が、ライトであることを確信した。
「……俺……?」
記憶が混濁しているのか、額に手をやり、動揺の色を見せるライトに、それでも喜びからじわりと涙が滲んでくる。
「ラ、イト……ッ」
もう二度と目を覚まさなかったらと、声にならない悲鳴を上げて、浅い眠りから飛び起きた夜は一度や二度のことではない。
昨夜、ナイトが目覚めたことで、ほんの少しだけ気が緩んで久しぶりに深い眠りにつくことができたけれど、それでも万が一を想像しなかったわけではない。
「……階段から落ちて……、それで……?」
「ライト……ッ! よかった……!」
記憶を手繰り寄せているライトの胸に抱きついた。
「会いたかった……! もう、目を覚まさなかったらどうしよう、って……」
安心感から、次から次へと涙が溢れ出て、ライトの胸元を濡らしていく。
「ルージュ……」
未だ混乱しているライトは、それでも反射的にルージュを抱き留め、優しく髪を撫でてくる。
「……ごめん。なんとなく、思い出してきた」
髪を撫で、ぎゅっとルージュを抱き締めて。
「心配かけて……、不安にさせて、ごめん」
申し訳なさそうに謝罪する。
「ううん、いいの」
全てはルージュを守るため。
目を覚ましてくれたならもういいと、ルージュはふるふると首を振る。
「信じてたから」
ライトがルージュを悲しませるようなことは絶対にしないと。
今はただ、少し休んでいるだけだと。
「……ライトのことも、ナイトのことも」
絶対に目を覚ますと、ライトのことを信じていた。
そして、満月の夜に目覚めたナイトが、ライトのことを呼び起こしてくれることを。
「ナ、イト……?」
そこでルージュの口から出た名前に、ライトは不思議そうに眉を寄せる。
「……俺……?」
「ライト……?」
やはりまだ夢と現実の境目がはっきりしていないようなライトに、ルージュは不安気に顔を上げる。
記憶を探るかのようなライトの視線の動きに、本当に脳に異常はないのだろうかと心配になってくる。
けれど。
「……チュロス、食べたよね?」
「え……? う、うん……」
口にされた確認に、思わず頷きながらも困惑する。
確かにチュロスは食べたけれど、今日のそれはナイトとのことだ。
つまりライトが聞いているのは、昔ここに来た時のことだろうか。
「ルージュの好きなタピオカミルクティーも半分こした」
「……え……?」
だが、次に口にされた質問に、ルージュの瞳はみるみると大きくなっていく。
タピオカミルクティーを半分こしたのも、今日のナイトとの思い出だ。
つまり、それは。
「ライト……? もしかして、記憶が……?」
驚きつつも恐る恐る問いかけるルージュに、ライトもまた信じられないという表情を浮かばせる。
「……ナイトだった時の記憶がある」
「え……っ!?」
それは、なにを意味するのか。
そして、ライトに、ナイトだった時の記憶があるということは。
「……さっき、ナイトとキスした?」
「……え」
不意に真剣な瞳で見下ろされ、思わず身体が固まった。
「ナイトのことも好きだ、って言った?」
「ラ、ライト……?」
ルージュのことを見つめるライトの瞳の奥には、明らかに嫉妬の色が覗いている。
「だ、だって、それは……っ」
「俺、本当は嫉妬深いって言ったよね?」
そう言ってルージュの頬に触れてくる掌はとても優しいものだというのに、なぜかふるりと肩が震えた。
「ラ、ライト……ッ!?」
「上書きさせて」
驚くルージュに向かい、優しく向けられるライトの微笑み。
「え……っ」
上書き、のその意味はもちろん。
「ルージュ……。好きだよ……」
「っ」
いつにない強引さで抱き寄せられ、反射的に目を閉じる。
ライトとのキスは、もちろん嫌ではない。
「……ルージュ……」
ライトの吐息が口元にかかり、ぎゅ、とさらに硬く目を閉じて、その唇を受け入れかけた時。
「っ、ナ、イト……!? 邪魔するな……っ」
唇が重なる寸前で発せられたライトの叫びに、ルージュはすぐに開けた目を丸くする。
「え……? ラ、ライト……?」
そして、困惑するルージュの瞳に飛び込んできた光景は。
「オレは諦めたわけじゃねーからな」
それは、明らかにナイトのもの。
さらには。
「な、にを……っ」
同じ唇で動揺の声を洩らすのはライトだ。
「ルージュだって、こんなくそ真面目なヤツよりもオレの方がいいだろ?」
「お前みたいなヤツがルージュに相応しいわけないだろ……!」
ルージュに迫るナイトを止めるのはもちろんライトだけれど、それは当然ライト自身の身体でもある。
「今日のルージュ、ライトとデートした時よりも楽しそうだったもんな?」
「そんなわけないだろ……!」
まるで一人二役をしているかのような目の前のやりとりに、ルージュは言葉を失った。
「オレはルージュのことを愛してるんだよ……!」
「俺だってルージュのことを世界中の誰よりも愛しいと思ってる……!」
(……ライトとナイトが、会話してる……?)
一つの同じ身体で。二つの人格がルージュを巡って火花を散らす。
なんだかとても恥ずかしい告白をされているような気もするが、困惑したルージュには理解が追いつかない。
「ルージュ! オレを選べ……っ!」
「ナイト! 黙れよ」
言い争うナイトとライトの前で、ルージュは完全に固まった。
「ルージュはオレのことを認めてくれるよな?」
「ルージュは俺のことが好きだよね?」
「……ラ、イト……? ナ、イト……?」
一つの身体で二人から詰め寄られ、思考回路がショートする。
『ルージュのことが好きだ』
重なって聞こえる二人の声は気のせいか。
「……え……? えぇぇぇぇ……!?」
観覧車が降車地点に降りた時、ルージュのなんとも情けない悲鳴が辺りに響いていた。
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