乙女ゲームの世界では、王道パターンな行動は厳禁です！ ～ヒロインは悪役令嬢を救いたい～

③ ヒロインチートはいりません！

　あぁぁぁ……！どうしよう！
　ドンピシャで私の好みなの！！
　逃げたくない！お近づきになりたい！
　でも、逃げないと……！！

　私は今パニック状態です。
　彼は、コーエン・ローゼンハイム。現王の年の離れた弟だったりします。
　紫と碧の綺麗なオッドアイに、王家に多い金色の髪。とにかく見惚れてしまうほどの彼は、ゲームには一切、名前も姿も、なんなら存在そのものが出てきません！
　大変問題児な彼は、一応私と同じ魔法学園に通っているはずだけど、滅多にその姿を見かけることはない。つまりサボタージュの常連です。そのくせ成績がいいところが憎らしい。
　……じゃなくて！
　そんな彼の容姿は、ドンピシャで私の好みだったりします！でも性格は言わずもがな。
　うん、だからね？最終的にはないわけよ。あり得ない。ナイナイナイ。

　だからやっぱり全速力で逃げることにしました。
　逃げるが勝ち！っていい言葉もあることだしね！

「お前……！」

　なにやら引き止めるような声が聞こえた気もするけど無視無視無視！
　関わり合いたくないの、ごめんなさい。

「さようなら……！」

　どうか私のことは忘れてください。




　*****




　しばらくたって、悪役令嬢様からお城まで呼び出しがありました。もう学校は卒業しちゃったので。
　うん。私、親友だからね！しかもただの親友じゃなくて大親友だからね！ゲームと違って本当に綺麗で可愛い悪役令嬢様は、ゲームでのあの虐めはなんだったのだろうと思うくらい性格がいいです。身分とかで人を判断したりしない、将来の王妃様の鏡！
　そんな婚約者を優しげな瞳でみつめている王子様。
　今日もお似合いです。素敵。
　ゲームでは見られなかったその姿は、どれだけ見ても感動ものです。私、本当に頑張ったなぁ……、としみじみしちゃう。

「ごめんなさいね。こんなところに呼び出して」
「アンジェリーナ嬢に会って貰いたい人がいてね」

　お二人の言葉に嫌な予感しかしない。
　え……、帰っていいかな、今すぐに！不敬かなー。不敬だよねー。いくら2人がお優しいからって。

「……コーエン」

　殿下が部屋の奥の方へ顔を向けました。
　前世の記憶でいうところのスウィートルームみたいな部屋は、ティールームの向こうに別の部屋がいくつかある作りをしていて、その部屋の一つから誰かが出てきました。
　誰か、って言ったけど、しっかり殿下が名前を呼んでるけどね！
　あぁぁぁぁ！なんでぇ……！

「彼女で間違いないか？」
「……あぁ」

　間違いないってなんですかぁ！
　怖いよ怖いよ怖いよぉ……！
　これ、この前の敵前逃亡のこと怒ってます？王族を前にあんな風に逃げるなんて無礼なことこの上ないもんね！そりゃ怒るよね！
　逃げたくて逃げられなくて、大親友であるはずの悪役令嬢様に助けを求めるように涙目を向けても、彼女はにこにこと楽しそうに笑っているだけ。
　なんでぇ！

「それじゃあオレたちはこれで失礼するよ」
「え……」

　出ていこうする殿下たちに、縋るような目を向ける。
　いや、それちょっとまずいでしょ……？未婚の女性を男性と2人きりにするの。しかもこの部屋、恐らく奥にはベッドルームもあったりするよね？なに考えてるの？
　言い忘れてたけど、もう終わっちゃったこのゲーム、一応18禁だったからね！
　貞操観念、建前だけで結構緩いのよ！

「ごめんなさいね。アンジェリーナ。これから私たちデートなの」

　卒業しちゃいましたからねー。結婚するまでは今までみたいにしょっちゅう会えないですもんねー。
　頬を染めて謝る悪役令嬢様、本当可愛いわぁ～。
　思わず「いえいえごゆっくり～」と送り出しそうになって我に返る。

「や、あの、ちょっと……」
「コーエン。くれぐれもアンジェリーナ嬢を頼んだぞ」

　愛しい婚約者様の肩を抱き、殿下はにこにこと部屋を出ていこうとしています。

「……あぁ」

　あぁ、ってなにーー！？
　なんでなんで！？どうしてこんなことになっちゃってるの！？
　フラグは全部叩き折ったはずなのに、こんなところで新たなフラグですか！？
　もうゲーム終わっちゃったし、対処法なんてわからないよー！

「……アンジェリーナ」

　私の心の中の懇願空しく扉の向こうへ2人が消えると、コーエン様が声をかけてくる。
　うん。いきなり呼び捨てですか？さすがだね！

「な、なんでしょう……？」

　びくびくしながら振り返る。
　やっぱりマズかったよねー。王道パターンの1つの出逢い方ですものねー。
　コーエン様は攻略対象者ではないけれど、私、一応このゲームのヒロインですから。
　そう！ヒロインだから！(2回言うよ！)

「オレの婚約者になってくれ」

　ひぃぃぃぃ！？
　直球ストレートぉぉ！！
　ていうかなんでなんで！？
　嘘でしょ！？今まで話したこともないのに！

　あぁ、あれですか。
　コレ、ヒロインチートってヤツですか？
　油断すると誰からも好かれちゃうって……。
　そんなチートいらないなぁ……。
　なんか惚れ薬使ってるみたいな卑怯な感じがするから……。

「アンジェリーナ」

　いーやぁーー！
　そんな顔でみつめないで！
　顔も声もモロに好みなの！
　ドキドキ止まらなくなっちゃうから止めて！

　近づいてくるコーエン様からじりじりと後方へと逃げながら、私はぐるぐるになった思考回路で一生懸命逃げ道を探していた。