攻略なんてしませんから!

梛桜

文字の大きさ
上 下
45 / 71
上位試験開始

決勝戦です(ルチル視点)

しおりを挟む

 火魔法を展開しようと集中していると、いきなり私の周りを黒い靄が包みました。視界がやっと晴れたと思ったら、何故か木の上に真っ黒の豹や大きな狼の群れに取囲まれています。どうしていきなりこんな森の中に放り込まれたのか分からない。呼べば来るといってたギベオンは、何度呼んでもこないし返事も聞こえてこない。

「いや、こな…で…っ」

『グルルル…ッ』

「ギベ、オン…っ、たす、助けて!」

 いつも呼べば本当に来てくれたのに、もしかしてアズライト様との戦いに気が向いてるから、私の事なんて忘れてるの?他に誰を呼べばいいの?分からない、こんな猛獣に囲まれてたら怖くて動けない…っ

(誰か、誰…?誰が来てくれるというの?皆優しくしてくれるけど、私、一人だと何をしていいのか分からない)

 グルグルと心の中が戸惑いでいっぱいになって、視界が滲んでいく。ギベオンの闇属性の魔力と同じ気配がするのに、私はギベオンと一緒に戦ってこなかったから、どういう魔法なのかも分からなくて、余計に混乱してしまう。

『ルチルレイ!目を覚ましなさい!』
「……だ、れ?」
「貴女はしっかりと自分を持っています、幻術に惑わされる事はありません!」
「マウシット…様」

 キラリと光るのは、いつも掛けている眼鏡だと知っているけど、そうじゃないのも知っている。貴族科の優等生で、魔力は何もないとぼやいていたけど、マウシット様はいつも私に沢山の知らない事を教えてくれていた。
 アメーリア様は何でも出来て凄いと言った時も『あいつ等は規格外なんだ』って、苦虫を噛み潰したみたいな顔をして、そっと頭を撫でてくれた。皆は厳しいとか鬼とか言うけど優しくて温かい人。

「私、頑張ります!」
「あら、ルチルレイが復活したみたいね。残念」
『アリア、ごめん。僕のせい』
「アイクお兄様を大笑いさせたのは私ですもの、オブシディアンは悪くありませんわ」

 アメーリア様の腕の中には、黒い毛並みの子猫が納まっている。アメーリア様の守護聖獣のオブシディアン様は、闇の属性を操る黒猫。アメーリア様は闇魔法だって、光魔法だって上達が早い。でも、それはアメーリア様が守護聖獣達を大好きで、自分から仲良くなろうと頑張ったから。
 それなら、闇の狼のギベオンだって同じ。

「もしかして、オブシディアン様の幻術?」
「ルチル、大丈夫?ごめんね、助けられなくて…。アイクってあんなに大笑いするんだね、初めて見たよ」
「リモナイト王子様」
「ルチルレイは自分で抜け出しました、ラズーラ殿下やジャスパーはどうですか?」
「大丈夫だよマウシット、ラズ兄様とジャスパーだもん。ちょっと疲れてる感じはするけど、僕の光魔法で回復するから」

 にっこりと天使の笑みを浮かべマウシット様とやり取りをすると、少しぼんやりとしていた私の手をそっと握り締めてくれた。温かいリモナイト王子様の手。微かに光が零れているのは、怪我をしていないか光魔法を掛けてくれているから?

「大丈夫か?ルチルレイ。アリアめ、光魔法に我と子猫を閉じ込めるなどと…」
「光魔法、ハウライトの。ギベオン、私も闇魔法の『夢幻術レヴリースト』使える?」
「勿論だ、我を誰だと思っている?アリアよりも強力なものを使えるぞ」

 心外だと眉間に皺を寄せたギベオンだけど、直ぐにいつもの意地悪な笑顔を浮かべて、真っ直ぐに私に手を差し伸べてくれる。

「力を貸してギベオン。『夢幻術レヴリースト』展開、アメーリア様に私と同じ動物は逆効果だから、違う夢を見せて!」

 人型になったギベオンがぎゅっと強く手を握り締めて、私から魔力を吸い取っていく。『嵐火フレムテンペスト』が不発で良かった、魔力がまだ沢山残っているもの。コレだけあれば、闇属性に耐性のあるアメーリア様にだって効果ある。
 黒い靄のようなものがアメーリア様目掛けて飛び、眼を丸くして戸惑うアメーリア様の姿。私が使われた大きな猛獣だらけも十分怖いと思うけど、何かアメーリア様に効くか本当に分からない。

(何を見せればアメーリア様を無力化できるかしら?動物でもないし、魔は光魔法を使いそうだし…)

 どうしたらいいのか迷っている間に、ギベオンが何か考えてくれたのかアメーリア様に向けた闇魔法に何かをしている気がする。まだまだ私の鍛錬が少ないからか、ギベオンが本気で闇魔法を使うと私には分からない。

「ギベオン、何をしているの?」
「アリアの気をそらせるものがないか、試している」
「…やり過ぎないでね?アメーリア様は大変だけど、これは試験で…」
「アリア!?」

 闇魔法に包まれるアメーリア様を見つめていたリモナイト王子様が、急に大きな声を出して敵の陣営へと走りだした。何事かと追い駆けたら、何の夢を見ているのかアメーリア様が大粒の涙を流して泣いていた…。

「ど、どうなっているの!?何をしたのギベオン!」
「…ハウライト、何か知っているのか?」
「……今、それは話せません。アリア、アリア目を覚ましてください」
「うにゃあ!(ハウライト、駄目!)」
「今は。『夢幻術レヴリースト』が掛かっている、オブシディアンの弱い闇魔法とは違うからな。直ぐには呼び戻せまい」
「アリア、何があった?しっかりしてアリア!アメーリア!」

 床に座り込んでしまったアメーリア様、その肩をリモナイト王子様がそっと包み込み、アイドクレーズ様も試合をそのままにアメーリア様に呼びかけています。マウシット様と一緒に観戦席にいたマーカサイト様を、アズライト様が慌てて連れてきたのか、抱え込んで運んできました。

「アメーリア姉様、待っていてください。状態異常回復ステイトヒール!」

 回復魔法でマーカサイト様の上をいくのは、今のこの学園にはいないとマウシット様に聞いています。きっと回復して元に戻ると思っていたのに、アメーリア様の様子をじっと見つめているマーカサイト様が難しい顔をしている?

(どうしたのかしら…)

「ギベオン様、アメーリア姉様にどんな魔法をかけたのですか?これは只の夢ではありません」
「我の闇魔法を全力で使った、ルチルレイが苦手とするものを送ってきたので、アリアが深く求めているものを夢に視るようにしてみたが」
「それなのに、涙を流しているというの?」

 誰もが困惑するその状況で、動ける人は誰もいない。アズライト様が獣化して、アメーリア様に擦り寄ったりハウライト様とオブシディアン様も一緒になって、アメーリア様が喜ぶモフモフ天国(アイドクレーズ様の提案)をしてみたけど、虚ろな瞳のアメーリア様は正気に戻らない。

「これは、棄権します。アリアを救護室へ連れて行かせてください」
「がう」
「ああ、アズラがそのまま乗せてくれるかい?その方がアリアも癒されるだろう」
「僕も行く!アリアについていたい!」
「リィ殿下は試験の閉会式があります。優勝なのですから、先生方から証を貰ってください」

 ハウライト様だけでは光魔法は使えないと、昨日アメーリア様に聞いていました。マーカサイト様の回復魔法が駄目なら、リモナイト王子様の光魔法ではどうかしら?

「あ、あの!リモナイト王子様の光魔法はどうですか?闇魔法の効果を祓ってみるとか…」
「残念だけど、僕じゃ守護聖獣の力には及ばない。アリアと一緒になら出来たかもしれないけど、それか、可能性は…」

 しゅんと困った顔をしたリモナイト王子様が、観戦席にある特別席へと視線をむける。いつの間にやってきたのか、其処には神殿の法衣を着たとても綺麗な人が試合を見ていた。
 あれがきっと、アメーリア様が言っていた、ルミエール様なのかしら?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...