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花の朔祭編
其の十一
しおりを挟む案の定立ち往生している王族専用馬車ですが、中から耳障りな声が大きな声で喚いているので良くわかります。リーユお嬢様寝たふり大変でしょうね、早く終わらせてしまいたいのですが、此処で動いてしまうと祭りの雰囲気を壊してしまうばかりか、王族が最悪だと分からせてしまいますよね。
(私達にすれば、そんな評判はどうでもいい事なんですが)
宰相様が心血注いで頑張ってこられたこの国です、息子は兎も角叔父上様を敬愛しておられるリーユお嬢様ですので、今此処で王族の恥を晒してしまうのは望まれない事でしょう。
「寧ろ、王族の膿を出す感じでいいんじゃないですか?」
「それは私も思いました」
「ですよね、イスラにある程度見物客の整理をして貰えばいいと思いますが?」
「ゼルクが目立つんですよ、あの顔ですから」
私の言葉に、ルファがこっそりと舌打ちしてますね。華やかで綺麗な顔のゼルクは意識しなくても女性の視線を集めます。そして、見事な剣の腕は周りの男性に憧れを抱かせるようで、つまりゼルクは目立ちます。
ルファは小柄で女性のような綺麗な顔立ちをしていますが、本人が闇の仕事をしていただけに、気配を消してしまうと動いていても分かりません。見つからず目立たずに何かをする時には、打って付けの人材です。
「ルファでしたら、速いのですが」
「それだけじゃ、リーユ様が納得されないんでしょ?僕だって分かってるよ」
「後でゼルクを闇討ちしますか?」
「……我慢しますよ」
顔は納得してませんが、リーユお嬢様を想って無理矢理納得してくれたようです。留まったままの馬車と苛立ちを隠さないエアレズ様、そして母上のクリステラ=シナゼツ妃。短気なままのあの方でしたら、そろそろ動いても可笑しくはありません。
「コレだから、城下に来るのは嫌なのよ!こんな、魔女の瞳の女の為に!」
「は、母上…、今動かせますので!」
「早くして!」
(ああ、この方は変わらない)
記憶を思い出したくも無い遠い昔、私がまだ王族の籍を持っていた捨てた過去。魔道具でもある『魅了の宝石』は私の母が嫁入り道具として、アイクロメア王国に持ち込んだものだった。その頃のアイクロメア王国は、枯れ果てた緑を復活させた聖女の力を持つ側妃の誕生に沸きあがっていたそうだ。
本来なら正妃になってもおかしくなかったのに、正妃教育から逃げ出したクリステラ側妃の代わりに、遠方の王家から母が選ばれたのだ。その代わりに沢山の食物の援助を受けたと、母が辛そうに語っていた。
(手配をしたのが、宰相殿だったのだろうな)
お亡くなりになったマリアーナ奥様は、この国の王太子だった現国王陛下の婚約者候補だったと聞いていた。つまり、クリステラ側妃と国王陛下を一応取り合ったと思われる。だが、実際は違ったようで、マリアーナ奥様は婚約者候補に選ばれた時点で、見聞を広める為に隣国のライラクス国へ一年の留学を決行、見事クリステラ側妃を回避されました。
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