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花の朔祭編
其の三
しおりを挟むガラガラと車輪の音をさせて、公爵家の馬車が王都の中心へと目指していく。御者台に座っているのはイスラとゼルクです。急な対応をする時はゼルクの『直感力』とイスラの遠距離を攻撃できる力がとても役に立ちます。
「花の朔祭りなら、美味しい紅茶の茶葉が手に入るかしら?」
「そうですね、この時期でしたら花茶を初め沢山出ていると思いますよ。勿論お茶に合わせたお菓子も売っているはずです」
「楽しみだわ」
馬止めについてみると、やはりごった返している祭り会場。予想はしていたので、前もって予約を取っていた高級宿屋へと向かい、其処から移動をするとことにしました。しかし、宿についてからゼルクの華やかな顔が何やら気難しそうです。
こういう祭りに繰り出してしまうと、華やかな顔をしているゼルクは女性の目を惹き付けてしまいます。リーユお嬢様の執事を務める者としては、悩みの種ではありますがリーユお嬢様に並んで遜色ないのは有用です。
「ゼルク、何か?」
「…殺気には程遠いけれど、悪意には違いないってとこか」
「一番賑わう祭りですからね、私達はリーユお嬢様に何事も無いように御守りをするだけです」
「勿論です。ただ、この気配は覚えがありますよエアヴァル様」
綺麗な顔が悪い顔をすると一気に悪役顔になりますね、実際は只の体力馬鹿なんですけどね。私が何を考えていたのか気付いたのか、ジッと睨み付けて来るゼルクに微笑みを向けると、肩を竦めて溜息を零して居ました。
「お待たせしました、準備出来ましたよ」
「本当にそっくりで、僕も吃驚しました!」
宿に取ったリーユお嬢様の部屋から出てきたのは、リーユお嬢様と同じく艶やかな黒髪を束ねた小柄な女性。これは、祭り対策にやっているルファエルの変装です。
(背の高さは違えど、後姿はリーユお嬢様にそっくりですね)
「年々腕を上げてきてるとは思ってたけど…」
「そりゃ、只側に居るだけではありませんからね」
「では、今日の祭りは手筈通りにいきましょうか」
「はい!」
祭り会場へと向かう前に、ルファエルの姿にリーユお嬢様も嬉しそうに抱き付いて居ました。侍女と祭り見学を装って頂く予定でしたが、友達のほうがいいと可愛い我が儘を言われたので、その様に行動する訂正をいれ、会場に歩き出しました。
「エアヴァル様」
「もう、ですか?」
「近寄っては着ていませんが、先にリーユお嬢様の目的の場所を済ませてから見物の方が宜しいかと」
「そうですね」
折角楽しそうに笑みを浮かべるリーユお嬢様の表情を曇らせる事は、執事としてしてはならないことですからね。変装したルファエルと腕を組んで楽しそうに歩くリーユお嬢様の後ろを、私とゼルクとイスラで付き従い、様子を伺うことに致しましょう。
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