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花の朔祭編
其の一
しおりを挟む朝の清々しい空気を胸に吸い込み、壁に取り付けられた暦を確認する。今日から花の月です。リーユお嬢様が楽しみにしていらした、花の朔祭りが開催される日です。
「おはようございます、エアヴァル様。今日の紅茶は花の香りのするものを選んでみました」
「おはよう、ルファエル。丁度いいですね、リーユお嬢様も喜ばれるでしょう」
「エアヴァル様、春の花が丁度見頃になっていると庭師さんが言ってました!」
「おはようイスラ、挨拶はきちんとしてくださいね」
「あ、はい。おはようございます!」
紅茶の準備をするルファエルと話をして、今度は掃除をしているイスラと飾る花の話をして、食堂へと顔を出すとゼルクが鼻歌を歌いながら準備をしていました。無駄に上手い歌声をリーユお嬢様がお好きだと仰られるので、歌う事を止めはしませんが。
「楽しそうですね、ゼルク」
「エアヴァル様、おはようございます。昨日久し振りにお嬢様のお力を拝見したからでしょうかね?昔の事を思い出してつい」
「楽しそうなのはいいですが、準備を間違えないでくださいよ?」
「解ってますよ、今日はお出掛けですよね?」
「リーユお嬢様が楽しみにしている、花の朔祭りですからね」
花の朔の日は、盛大な祭りが行われるので学園は勿論お休みです。まぁそうでなくても、リーユお嬢様は卒業式まで学園に行く事はないんですけどね。
執事の制服を確認して、外していた銀のフレームの眼鏡を掛け扉をノックする事なく、そっと開いた。光を遮る重いカーテンを開け、柔らかな光がリーユお嬢様のベッドを照らしていく。
「リーユお嬢様、朝で御座います」
「ん……」
「昨夜は夜更かしでもされましたか?」
「ヴァル…」
「はい、此処に」
時折、こんな風に朝の目覚めが悪いのは、きっと昨日沢山『神の加護』を使った所為でしょう。魔力が尽きるほどでは無いにしても、目が疲れると仰っていたのを思い出す。
呼ばれるままに枕元へと向かうと、白くて細い腕が首に回って抱き締められた。
「リーユお嬢様」
「お姫様は、王子様のキスじゃないと目覚めませんのよ?」
微笑む果実のような口元、細められた潤んだアメジストの瞳。微笑みを返して眼鏡を取り、柔らかな唇へとゆっくり自分のを重ねた。恥ずかしげに微笑む瞳と目が合って、額を合わせていると、扉をノックする音が聞こえルファエルが入ってくる。
ルファエルの視線が一人だけズルイと言いたげな顔をしていますが、コレは私だけの特権です。貴方達が自分だけの役割の時に狙っているの知ってるんだからな。
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