悪役執事

梛桜

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プロローグ

其の五

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 加護の力は持つ者の魔力量によって強弱が出る。リーユお嬢様の魔力は膨大で、安定するまで目隠しを外せなかったのだ。『魅了の瞳』は、場合によってはとても危険な力となる。
 だけど、目隠しのままでは生活も不便だし。かと言って魅了の瞳の所為で、誰も仕える事が出来ないのでは?と心配されていたが、マリアーナ様が眼鏡越しとリーユ様の瞳を隠す事によって力を受け付けないと仰って、産まれて間もないリーユお嬢様の瞳を隠されたのだと聞いている。

 私が、そんなリーユお嬢様に助けられたのは、お嬢様がまだ五歳の時。

 今でも思い出す、氷の月の凍えるような寒さの中、私は母と一緒に長年住んでいた場所を追い出された。原因は母の浪費と侍女達への高慢な態度、そして父の正妻への嫌がらせ。
 よくまぁそんなに思いつくものだと、十歳になったばかりの私は呆れていた。止めようとすると、手が飛んでくるので口を挟む事もいつしかしなくなっていた。父もそんな母を持て余していたのを知っている。

(マリアーナ様も、よくあんな母の性格を見抜けたものだ。学園で逢った事があると聞いていたが…)

 母はマリアーナ様を警護していた騎士に捕まり、今はどうなったのか行方は聞いていない。二度と私の前に現れることが無いようにだけは、公爵様が計らってくれている。マリアーナ様を思い出すと、母の暴言も一緒に思い出してしまうから、普段は忘れているのに。

「あの馬鹿も、どうして手紙なんて…」
「どうかしたの?ヴァル」
「いいえ、本日は如何過ごされますか?」
「そうね、手紙も気になる事だし学園へ行こうと思います。ヴァルも一緒に来て」
「はい、仰せの通りに」

 手を差し出し、お嬢様が歩く手伝いをする。この手が無く目を閉じたままでも、リーユお嬢様はこの屋敷なら端から端まで移動できる。だけど、私や専属の執事が側に居るときは、必ず手を出して身を任せてくださる。そんな些細な事が、とても嬉しいのです。

「ねぇ、ヴァル。明日は花の朔の日でしょう?執事の皆と一緒に行きたいわ」
「人が多いですよ?」
「ヴァル達が一緒だもの、平気よ。あ、でも…。お仕事沢山あるなら無理はしないで?」
「リーユお嬢様の願いが、何よりの優先事項です」

 リーユお嬢様の花の様な笑顔で、私達の心は満たされていくのです。願いを叶える事が何よりも幸せで、そんなリーユお嬢様に何かをしようと思う者がいるのなら、全力で排除するまでです。




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