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一年目。
日常其の二
しおりを挟むルチルレイさんの奇行というか貴族としてでの問題行動は、王族や上位貴族に馴れ馴れしいというだけでは終わりませんでした。私の目の前には、眉間に皺を寄せたマウシット様と小さな子供の様に唇を尖らせたリィ様。
どうやって嗅ぎ付けたのか、見つけることが出来たのか、王族が執務室としている部屋にルチルレイさんが現れるそうです。
「執務室に…ですか?」
「ええ、どうやって場所を聞き出したのかは分かりませんが、ラズーラ殿下やリモナイト殿下の執務の邪魔をしていて困っています」
「あの子が部屋に来てるくらいなら、アリアだって当然きてもいいじゃない。だってアリアは僕の御学友なんだよ?」
「ですがリィ様、私はお菓子係で執務には関わらない約束ですので…」
「執務室でもアリアの淹れた紅茶が飲みたいー!お菓子も食べたいー!」
ええいこの駄々っ子、可愛いなちくしょう。
口を尖らせて机に頬を寄せつつも、じっと私を見つめてくるウルウルの大きな瞳。色合いは同じのはずなのに、どうしてこの王子様はこんなにも可愛さと色気を醸し出してくるのか。
色気が溢れてるし、可愛いが過ぎるし、あざと可愛いリィ様ってなんでこんなにも尊いのでしょうか!誰か、お客様の中にリィ様について語れる方はいらっしゃいませんでしょうか!?
(いやいや、落ち着け私)
「わかりました、後でラズ殿下の分もご一緒に、執務室へとお持ちいたしますわ。お邪魔にならないように、直ぐに退出もいたしますので」
「本当に!? 直ぐに帰っちゃうのは残念だけど、それでも嬉しいよ、ありがとうアリア」
「あいにく、茶葉まではお好みに合わせて…。とはいきませんが」
「いいの!アリアのお菓子だけでも楽しみだもん」
ニコニコと嬉しそうな笑顔でやる気を出しているリィ様を、マウシット様は微笑みを浮かべて見つめていました。ここの所、ルチルレイさんに困っていた所為か、眉間に皺ができているのがデフォだったので、ちょっと心配になっていたんです。
マウシット様は魔力があるとしても魔力量は少ないので、二年次はやはり貴族科へと進まれるそうなのです。同じクラスでリィ様を補佐を出来るのは今年度だけです。それを凄く楽しみにしていたのに、やってくるルチルレイさん。真面目なマウシット様は、ルチルレイさんを執務室から追い出す面倒を一手に引き受けているようです。
(せめて、リラックス出来るようなハーブティーのほうがよかったかなぁ?)
ゲームでは知ることのできない裏での生活や、攻略者様達の素の表情とか、こんなに傍で堪能できるのは、とっても幸せなんです。ここに紙とペンをください!と言いたいです。
だけど…。
確かに『ゲームでなら』攻略開始は二年生になってからがスタートです。だけど、この世界で目覚めて何年も過ごしているのに、未だにゲームだと思えと言われるほうが無理でしょ?
「あら? 確かここの廊下に警備の方がいたはずなんですけど…?」
ぽつりと零れた言葉に返ってくる返事が無いことで、今日はギベオンと一緒でなかった事に気が付いた。辺りをキョロキョロと人がいないのを確認して、ほっと安堵の息を吐き出す。
(危ない危ない、ついギベオンがいると思ってた)
今日ギベオンは別行動です。
『気になる事がある』と走ってる馬車から飛び出したのですが、後で屋敷に勝手に帰ると伝言が飛んできました。危ないことをするのは心臓に悪いので、今後は止めていただきたいので帰ってから説教決定です。
そして、この廊下を警護しているはずの、近衛騎士団の方がいません。ざっくりとした場所だけは、アイクお兄様から聞いてはいました。緊急の用事がある時のみ、ここの警護の人に声をかけるようにと教えて頂いていたのです。
「どうしてですか!? 私は頑張っている皆さんにって差し入れを持ってきただけです!」
「ですから、何度も何度も説明している通り、此処へは関係者以外の立ち入りは禁止です!」
言い合う声に奥へと視線を向けると、今日も既にきていたようで。ルチルレイさんを追い出そうと、近衛騎士の方が頑張っていました。その更に奥には苦笑を浮かべているアイクお兄様と、頭を抱えているジャスパー様。嫌悪感を顔に出しまくっているマウシット様。きっとその奥にある部屋が王族の執務室になるのでしょう。
(私が入っていいのは此処までだから、ルチルレイさんを引っ張ってくるのは無理ですよねぇ)
どうしようかと見つめていると、私に気が付いたアイクお兄様がそっと近寄ってきました。ルチルレイさんに捕まらない様に若干遠回りしてました。
「アリア、どうしたの?」
「あの、此方を皆様の休憩の時にでもお持ちしたのですが…」
「ああ、ありがとう。だけどね、アリアこれは持って帰ってくれるかな?」
アイクお兄様が困った顔をして、そっと私の差し出したバスケットを押し戻してきました。この差し入れはリィ様もご存じのはずなのですが…。
「アメーリア嬢、申し訳ない。今後一切差し入れは受けとらないことに、つい先程決まったのです。折角ですが、ラズーラ殿下の決定を違える事は出来ません」
「マウシット様」
「一人でも例外を作ってしまうと、ちょっと大変でね」
固く閉ざされた執務室、困った顔のアイクお兄様とマウシット様。たったそれだけだったのに、私の胸がドクドクと嫌な音を立て始める。追い出されているとか、何か言われているわけではないのに。当然の事だとわかっているのに。
どうして、こんなにも拒否されているように感じるの?
今まで、みんなと一緒に笑ったりしていたのに。
「申し訳ございません、お邪魔いたしました」
バスケットを胸に抱え、ゆっくりと一礼をして私は無意識に足を動かしていた。
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