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幼少期を楽しみましょう

私のジョブは侯爵令嬢ですよ

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 男の子と並んで座り、ぽりぽりとクッキーを齧るのを『小動物みたい』と眺めていたら、王宮からバタバタと忙しそうに走る足音が聞こえてきました。音に耳を澄ませていたら、段々近付いてきた。一人とかじゃなくて数人かな?
 
「リモナイト王子様ー!」
「第二王子様、どちらですかー!?」
「お返事をしてくださいー!」

 人を探す声はとても焦っている。リモナイト王子の名前は、しっかりと覚えています。ええ、勿論。攻略対象者の名前ですからね、覚えてますよ。視線だけを動かして、もぐもぐと口を動かしている男の子をジッと見つめる。
 金色の髪(は鳥の巣頭)、不思議な色合いの瞳(やっとハイライトついた)、(青)白い肌に薄紅に染まった頬と赤い唇。

(だろうなとは思ってたけど、やっぱり本人かー…)

 頭を抱えたくなりましたが、不安がるといけないので微笑みは貼り付けたままです。
 しかも、今日逢う予定だったリモナイト王子が此方に居るということは、お父様も未だにお仕事中でしょうね。国王陛下と王妃様も探させているでしょうし。
 よっこらせっと立ち上がり、スカートの汚れを軽く落とすと、私はゆっくりと礼をとり微笑みを浮かべる。そろそろ中庭に戻らないとね。

「侍女がお探しのようですわね、私は父の元へと戻りますわ」
「…いっちゃうの?」

 (ウッ!?)

 帰る宣言したら、うるうるの瞳に射抜かれた!ドキューン!って感じで。アメーリアは精神にダメージを受けた。
 ぐはっ。HPゲージを一気に削られましたわ…。いや、そもそもHPゲージがあるのかも知らんけど。
 吐血も辞さない攻撃を受けましたが、表に出さないのが令嬢らしいです。気合と根性で顔には出しません。

「中庭のガゼボでお待ちしておりますわ、此方のお菓子はその時にお渡し致します」
「そっちも、おかし?」
「ええ、此方はケーキですよ。一緒に召し上がりませんか?」
「いく!ぼくもいっしょにいく!」

 おお、今度は尻尾フリフリの小型犬が見える。ぎゅっと掴まれるドレスの裾に、後ろ髪が思いっきり引かれます。
 探してる侍女さんには悪いけど、このまま一緒に行った方がいいのかなぁ?でも、この格好で中庭に行くのは王家としてのなんたらが~とはあるのかもしれないし…。うーん。

「アリア?こんな所で何をしているの?国王陛下と王妃殿下にお逢いしてると思ったんだけど」
「アイクお兄様」
「ん?この子がアイクの妹…って、リィ、こんな所に隠れていたの?」

 困っていたらこんな時こそ最強お兄様、アイドクレーズお兄様の登場です。妹のピンチに颯爽と現れるアイクお兄様流石ですわ。そのお隣には、頭上には天使の輪を輝かせたサラサラの肩までの金色ストレートの髪に、晴天の爽やかな空の様な青い瞳、赤い唇は優雅な微笑みを浮かべたこれぞ王道メイン攻略者の王子様の登場です!

「にいさま」
「侍女が探していたよ、今日は父上と母上と一緒に、菓子職人と会う予定だったんだろ?しっかりとご挨拶して王宮に引き抜かないと、美味しいお菓子を食べられないよ?」
「そ、うでした、でも、しらないひといやです…。でも、あのね、このおかしもおいしいの」
「クッキー?何処で貰ったんだい?見た事がないお菓子だね」
「あのね、もらったの!」

 たどたどしい話し方で一生懸命兄王子様にお話をする、リモナイト王子様可愛い尊い。これで私と同じ年なんですよねー。誰ですか七歳+αでしょって言ってる人は。それは内緒ですよ!今の私はぴちぴちの七歳です!
 と言うか、聞き捨てなら無い単語も出てきましたよね?王宮に引き抜きだと?お菓子を作っている菓子職人とか何ですかそれ、私は趣味のお菓子作りですよ。ラーヴァの為のお菓子だってんの。
 ちらりとアイクお兄様を見ると、困った笑みを浮かべているので理解した。

 引き抜きは断固拒否だ!

 というか、侯爵家の令嬢を引き抜いてお菓子係りには出来ないでしょう。我が儘をいってラーヴァのお菓子を作ってますけど、王宮に要請されたらどうなるんでしょう?無理矢理作るのは嫌だなぁ…。

(どういった風に王妃様に伝わったのでしょうねぇ…。今日のお茶会って、お菓子のお礼じゃなくて引き抜き合戦だったのか。お父様後で問い詰めさせて頂きます)

「兎に角、準備をしないとね。髪がぐしゃぐしゃだ。アイクは妹君を連れて先に中庭へと行くといい。失礼になるが、挨拶はその時にゆっくりとさせて貰うよ」
「はい、アリア行こうか」
「はい、アイクお兄様。御前、失礼致します」

 ゆっくりと礼をして、アイクお兄様の手に引かれて中庭へと戻りました。お父様はご挨拶だけだと言ってましたが、全然挨拶だけじゃ無いじゃないですか。
 まぁ、可愛いリモナイト王子様と凛々しくも可愛いラズーラ王子様を見れたのは目の保養だったけども。落とし所が必要ですね。リモナイト王子様の為のお菓子は作るけど、材料は王宮持ちとかね。

 その時の私は、このお菓子で再び一騒動あると予想はしていませんでした。あっても、ラーヴァが拗ねるだろうなーってくらいです。お菓子を作ってるのが私だと知った、国王陛下と王妃殿下は流石に引き抜きを切り出しませんでしたが、ラズーラ王子様の目が光ったのは…、気のせいですよね?ね?


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