上 下
21 / 25
乙女ゲームの王子様

大事なのは会話ですよ

しおりを挟む

 簡単な嘘や張ったりは続きませんので、最初にアレク様と始めたのは『前世の情報の擦りあわせ』です。前世の情報と言っても、何処に住んでたとか私生活の話とかはどうでもいいのでしてませんよ。何処まで乙女ゲームの情報を持っているかです。其処だけで十分。
 『妹に手伝わされていた』との申告どおり、たいした情報は有りませんでしたが、それでも王族としての今までの記憶があるのは助かりました。

「結局宰相は自分の血族である、第二王子を王太子としたいんですよね」
「だろうな。俺は第一王子でも、母上は隣国の王女だし一ヶ月早く生まれたというだけだ。教育も第二王子に施されるものに比べればいい加減だし」
「それは、これからどうにでもなります。フローライト家が後ろに着くのですから、無様な真似はさせませんよ。覚悟なさってくださいね」
「厳しいなぁ…」

 顔を顰めてうーんと唸ってますが、肝心な部分も聞いておりませんでした。ゲームの趣旨のままで行くと、第一王子様は悪役令嬢ことイオフィエル=ジークフリード嬢に恋心を抱いているのですよね。

「で、イーフィとのご関係は?」
「幼馴染み」
「第一王子として他の御感情は?」
「……まぁ、いいな、とは…」
「婚約者の目の前で浮気発言ですか、良い度胸ですね」
「ちょ、まってよ!聞いたのそっちだよね!?」
「迂闊な発言をなさるからですわ。言っておきますけど、ハーレムエンドなんて血迷ったら物理的な血の海を見せますのでお覚悟なさってくださいませ。駆逐して差し上げますわ」

 にっこりと微笑みだけは儚げで可愛らしい令嬢のものを浮かべると、目に見えて顔を青から真っ白にさせるアレク様が面白いです。一応婚約者としての肩書きは容認しましたが、それは学園に通っている間だけです。それが、あの乙女ゲームの制限時間ですから。

「言葉と顔があってないし! 駆逐すんなし!」
「私は、私だけを見てくれる方がいいのです。乙女ゲームの攻略者とか論外ですわ」
「結構一途ってか、乙女志向なんだ?と言うか、俺だって当て馬王子だし、モブだし」
「失礼な、十分乙女でしょう?私は名もなき令嬢なのですがねー」

  打てば響くその受け答えに、クスクスと笑みを零し、ばしばしとテーブルを叩きながら文句を言うアレク様に『無作法ですわよ』と注意することも忘れない。躾は大切です。
  普通に笑っている私を見たのが初めてなので、目を丸くして凝視してますが、それも止めさせないといけませんわね。そして、一緒に二人で笑い合っていると、カサッと小さく草を踏む音が聞こえてきました。

(誰かしら…、ワザと音をさせるならクレイオ兄様でしょうけど)

  リアン兄様は気配を一切感じさせませんし、フォル兄様はガサツな音をあえて立てる方です。ルシアン兄様は瞬間移動なので、何も言いません。

「それにしても、宰相が父上に言っていたのとは全然違うよ。このフローライト領も、セラフィナも」
「何を言われていたのか、とても気になりますわね」
「名も聞かない、才能無しの無能令嬢だったかな?力が無いのなら、是非とも人質として俺の婚約者として確保しておくべきだと」

  ボキッと可愛くない音が手元から聞こえてきました。
  あら嫌だわ、お気に入りの羽ペンがいつの間にやら折れてました。手に馴染んで書きやすくなっていたのに残念ですわね。
  宰相の発言から、私の精霊使いの能力が王都に知られたのでは無いという事が解りました。ですが、まだ学園にも通っていない幼子に対して無能ですって?

「せ、セラフィナ?もしかして、何か不味い事言った、よな?」
「何でもありませんわ、それで?宰相は他になんと?」
「え、えっと…狂戦士バーサーカーだらけの考え無し一族なら、末の子供をとれば手出しは出来ない、弱体化させもう一度忠誠を誓わせるのもたやす……」

  次は最後まで言い切る事が出来ませんでした。
  ふわりと抱き上げられる私の体は、いつの間にかクレイオ兄様の腕の中に。私が座っていた椅子には、いつの間にかリアン兄様が微笑みを浮かべて座っています。背後には執事のアズナブルの姿もあります。

「来月以降の宰相の領地への、魔石は三倍に値上げだ。魔物の素材は二倍にしろ、文句を言うなら売る必要は無い。冒険者ギルドへはフォルスを向かわせた。今後一切、我が領地出身の冒険者が宰相の領地での魔物討伐を受ける必要は無い」
「はっ、畏まりました」
「セラフィナ姫は、暫く離れて下さい。とっても危険ですからね」

  素早いリアン兄様もですが、私を姫抱っこしてニコニコ笑みを浮かべているクレイオ兄様も怖いですわ。目が笑ってませんからね、二人共。

「リアン兄様、クレイオ兄様、落ち着いて下さいませ。どうせ学園へ入学してしまったら、いつかは知られてしまう能力です」
「我が一族への暴言は流せないよ、セラフィナ」
「それにつきましては、一切お止め致しませんわ」
「あ、ああああの、私はどうして」
「国王陛下の返事を聞かせて頂きましょうか、それにより此方の返答も考えさせて頂きましょう」

  ニコニコ笑顔のリアン兄様を正面に、蛇に睨まれたカエルってこんな感じかしら?と、暢気に考えて見守っていた私でした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

風は遠き地に

香月 優希
ファンタジー
<竜の伝説が息づく大地で、十七歳の青年は己を翻弄する逆境を打破できるのか> 啼義(ナギ)は赤ん坊の頃、"竜の背"と呼ばれるドラガーナ山脈の火山噴火の際に、靂(レキ)に拾われ、彼が治める羅沙(ラージャ)の社(やしろ)で育つ。 だが17歳になった啼義に突き付けられたのは、彼の持つ力が、羅沙の社の信仰と相反するものであるという現実だった。そこから絡(もつ)れて行く運命に翻弄され、彼は遂に故郷を追われてしまう。 体ひとつで未知なる地へ放り出された啼義は、新たな仲間との絆を深めながら、自らの道を探し、切り開こうと奮闘する。 テーマは"逆境の打破"。試練を力に変えて、希望を紡ぐ冒険ファンタジー。 <この作品は、小説家になろう、カクヨム、pixivでも掲載しています>

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

最強の龍『バハムート』に転生した俺、幼女のペットになってしまう

たまゆら
ファンタジー
ある日俺は、邪龍と恐れられる最強のドラゴン『バハムート』に転生した。 人間の頃と違った感覚が楽しくて飛び回っていた所、なんの因果か、変わり者の幼女にテイムされてしまう。 これは幼女と俺のほのぼの異世界ライフ。

かりそめの侯爵夫妻の恋愛事情

きのと
恋愛
自分を捨て、兄の妻になった元婚約者のミーシャを今もなお愛し続けているカルヴィンに舞い込んだ縁談。見合い相手のエリーゼは、既婚者の肩書さえあれば夫の愛など要らないという。 利害が一致した、かりそめの夫婦の結婚生活が始まった。世間体を繕うためだけの婚姻だったはずが、「新妻」との暮らしはことのほか快適で、エリーゼとの生活に居心地の良さを感じるようになっていく。 元婚約者=義姉への思慕を募らせて苦しむカルヴィンに、エリーゼは「私をお義姉様だと思って抱いてください」とミーシャの代わりになると申し出る。何度も肌を合わせるうちに、報われないミーシャへの恋から解放されていった。エリーゼへの愛情を感じ始めたカルヴィン。 しかし、過去の恋を忘れられないのはエリーゼも同じで……? 2024/09/08 一部加筆修正しました

カニバル ーすべてを喰らう者ー

未達歌
ファンタジー
 ―― 僕は最後のハンニバル。メギドの丘にて愛しき君を待つ ――  かつてこの世界には竜と魔法と9つの国が存在した。どの時代も人間同士の戦争が絶えず、国と人と大地とは疲弊しきっていた。そんな中、大陸の中央にあるオリジン帝国皇帝は旗を揚げて宣戦布告した。  「――これより、オリジン帝国は全世界へ“最後の聖戦(ハルマゲドン)”を布告する」  聖戦が始まって80年近い年月が経ち、7つの国を落とした帝国は世界の殆どを統治していた。残る国はただ一つ。そんな巨大な帝国に住むブランという少年は帝都に存在する唯一の”黒い肌”の貴族だった。  黒い肌、黒い髪、水色の瞳。彼を構成するすべての要素が帝国の貴族には赦し難い呪いの証。ブランは何故生きているのかすら理解できないまま、15歳の洗礼式を迎える。  これはすべてを失った少年が、“すべてを喰らう”物語である。

Fragment-memory of future-Ⅱ

黒乃
ファンタジー
小説内容の無断転載・無断使用・自作発言厳禁 Repost is prohibited. 무단 전하 금지 禁止擅自转载 W主人公で繰り広げられる冒険譚のような、一昔前のRPGを彷彿させるようなストーリーになります。 バトル要素あり。BL要素あります。苦手な方はご注意を。 今作は前作『Fragment-memory of future-』の二部作目になります。 カクヨム・ノベルアップ+でも投稿しています Copyright 2019 黒乃 ****** 主人公のレイが女神の巫女として覚醒してから2年の月日が経った。 主人公のエイリークが仲間を取り戻してから2年の月日が経った。 平和かと思われていた世界。 しかし裏では確実に不穏な影が蠢いていた。 彼らに訪れる新たな脅威とは──? ──それは過去から未来へ紡ぐ物語

処理中です...