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乙女ゲームの王子様
本題をききましょう
しおりを挟む第一王子様が目覚めたのは、それから七日後でした。流石に王宮へと返すわけにもいきませんので、フローライト家で看病する事になりましたよ。ええ、突然やってきて本題もまだです。
やっと目覚めた『アレクシス=ガーデンクォーツ第一王子殿下』に、もう一度丁寧に名前を告げると、顔を青褪めさせていたので、この人はゲーム経験者、もしくは知っている人なのだと確信もしました。
「それで、第一王子殿下。我がフローライト領には何の用件で?」
「…私の婚約者筆頭候補である、セラフィナ・コーディエ=フローライト嬢に会いに」
「婚約者筆頭候補?うちの末の娘が?」
熊さんのように厳ついお父様を前に、ガッチガチに固くなっている王子様ですが、どうにか用件を口に出来たようです。
それにしても、筆頭婚約者候補ですか。全く持ってそんな話は聞いていないのですけど、どうしてでしょう?そんな話があったら……。兄様達が総出で潰してるはずです。
「その話は、陛下に即行でお断りしたはずですが?」
「え?で、でも宰相が、フローライト辺境侯爵家のセラフィナ嬢を婚約者として決定すると…」
「そもそも、その話を陛下がした瞬間にぶった切って断りましたが?側にいた宰相がその話を持ち出すなど、可笑しな話ですな」
うわぁ、反論は許さんって滅茶苦茶良い笑顔ですよ。お父様。
第一王子様を連れてきたのは、パーティランクではDレベルと言う下から数えるほうが早いパーティでした。他の側近や侍従も無し。完全に、フローライト領に責任を被せるか暗殺待ったなしの、扱い酷いな!?って立場ですよ。
「幾ら同じ年でも、アレクシス第一王子殿下には婚約者候補として、ジークフリード侯爵家のイオフィエル嬢がいらしたはずです」
「イーフィは、シャムシエルの婚約者に…」
「何分辺境の地ですのでな、連絡や情報が遅い土地です。第一王子殿下がお越しになったと、此方は突然聞かされたのです」
「そんな!宰相は、既に連絡も返事も着ていると!」
スイの補助能力『気配隠蔽』を使ってお父様の執務室に潜り込みましたが、何度かリアン兄様の視線が此方へと向けられます。あれは気付かれてますわね…。お父様は武力重視の戦士型ですので、魔力察知の能力は低いのですが、リアン兄様は魔力察知も優れていますからね。
ジッとリアン兄様を見ていると、ポンポンと小さくお膝を叩いています。これは、ここにおいでという合図。やっぱり気付かれてるー!
(あとで、大人しく叱られますわ。今はリアン兄様の膝に座ります)
『アカン、あのにーちゃん絶対わかっとるわぁ。此処の兄弟察知力凄いねん』
『気配ば消すてらだげで、魔力は消すてねはんでね』
『両方消した方が良かったんかー?せやけどやりすぎたら嬢ちゃんの気配あらへんって大騒ぎやしなぁ』
クオンとスイが話をしていますが、本当に猫妖精の言葉って不思議。言葉を話してしまうとお父様にも王子様にも気付かれてしまいますので、リアン兄様の手をそっと握り締める事にしました。ニコニコと良い笑顔の兄様ですが、目の前の王子様は真っ青で今にも倒れてしまいそうですわね。
私と同じ年齢なら十歳です。そんな子供に大人二人が詰め寄れば、話をまともになんて怖くて出来ません。特に、今の前世の意識に引っ張られている王子様なら尚更です。其れまでの横柄な態度の馬鹿王子ならふんぞり返っていたでしょうけど。
(この様子ですと、前世は成人後に亡くなったのかもしれませんね)
「父上第一王子殿下となると、王太子となる可能性も有りますよね?そうなると、セラフィナにはお妃教育が義務付けられますが…」
「ふむ…」
(それはイヤですわ!!)
リアン兄様の言葉に、私は首を横に振って答えましたが膝をポンポンと宥めるように叩かれました。話を大人しく聞いていなさいという事でしょうけど、王妃とか王子妃なんて堅苦しいのは絶対嫌です。政略結婚反対!
第二王子殿下の婚約者に決定している、イオフィエル様には悪いですけど、幾ら政略結婚でも王族なんて面倒で家族とも中々会えないような地位は絶対嫌です。
ぎゅーっとリアン兄様の手を握り締めていると、笑いを堪えているのか肩を震わせるリアン兄様が感じられます。
「フローライト家は、セラフィナに政略結婚は望んでいない」
「ですが、この件は父上…、国王陛下からの王命です。」
「それは、妃殿下の背後に寄るものでしょう。側妃様は我が国の公爵家の姫君でしたからな、妃殿下は隣国の王女といえど親交の為に差し出された政略結婚」
(妃殿下は人質、側妃様は本来は王妃となる人だった。と、いう事ですね)
のらりくらりとお父様は交わしていますけど、子供相手に本気にはなっていません。今の宰相は王家に貸しがあるとはいえ、国王陛下よりも権力が強そうなのは如何なものでしょう。しかも第二王子殿下の母親である側妃様のご実家ですか。
そりゃあのゲームで、兄である第一王子が死んでもあっさり王位継承して王太子となりますわね。寧ろ第二王子が王太子になるように働きかけますわね。
『なぁ嬢ちゃん、あの王子さん何で顔色悪いん?』
(コレが乙女ゲームに関係された世界なら、自分の寿命があと五年だからでしょうね。それと、ゲーム経験者なら分かるヒロインの設定性格でしょうか。私はやりませんでしたが、ハーレムエンドもありましたので)
『それって一人で沢山の男ば相手にするってやづ?悪女だね』
(事実は小説より奇なり、とも申しますので、どうなるかは分かりませんけどね。ですが、悪役令嬢と呼ばれているイーフィは良い子ですよ?)
『知っとるん?』
(ええ、お友達ですので)
攻略がどうのとか王子様の命運は興味ありませんが、お友達のイーフィが悪役令嬢というのは首を傾げたくなります。死刑も追放も宰相の掌で転がされるのは、如何なものでしょう?しかも、私を引き出すという事は、フローライト領にも何か言い掛かりをつけたいと見ました。
「父上、お話を受けてみてはいかがでしょう?」
「宰相の腹を探るのに、セラフィナを哀しませるのはなぁ…」
「大丈夫です、セラフィナなら分かってくれますよ」
膝にいる私の頭をそっと撫で、口元に微笑みを浮かべるリアン兄様にゾクリと寒気を感じつつも、私はきゅっと手を握りコクンと頷きました。
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