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乙女ゲームの王子様
触れないのが一番です。
しおりを挟むカタカタと物音がして、第一王子様が目を覚ましたのだと思って扉をノックしたのだけど、返事が有りませんでした。おかしいと思って中を覗いたら、呆然と自分の手を見ている王子様の姿。
私の顔を見て目を見開いて驚いて、口をパクパクさせて叫びたい事があったけど、声が出なかったようです。
「お目覚めですか?アレクシス=ガーデンクォーツ第一王子殿下」
「…え?誰っ、て?」
「貴方様ですわ、アレクシス第一王子殿下」
私の言葉にキョトンとして首を傾げて、目を瞬かせて、今度は頭を抱えて項垂れてしまいました。本当に忙しい王子様ですわね。
「お、おれ、俺が…第一王子?しかも、アレクシスだと…?」
「混乱なさっているようですが、ご自分の事お分かりですか?」
「も、もしかして…俺に、弟がいる、とか?しかも名前が、シャムシエルとかいう…」
「はい、その通りですわね」
もしかして、煩いから眠らせようとクオンに投げつけて貰った『眠りの粉』の量が多かったかしら?それとも眠りに落ちた時に頭でもぶつけたかしら?とても変な驚き方をしている。
そう、コレはまるで。
自分が転生者だと自覚した小説の主人公みたい。
「な…っ、何で、俺が当て馬王子なんだよ!?」
「あら。あらあら?」
第一王子は叫び声を上げたかと思えば、頭を抱えてまたベッドへと戻ってしまいました。まぁ簡単に言ってしまえば、気絶されたのですけどね。前世の記憶と現在の記憶が鬩ぎあっているのかもしれません。
眠っている王子様の額に触れてみれば、知恵熱なのかとても熱くなっています。クオンに熱冷ましの薬を貰って、誰かメイドの誰かに冷やすものをお願いしたほうが良さそうです。
(それにしても…)
『どないしたんやー?嬢ちゃん』
「クオン、この方、私と同じ転生者のようです。しかも、同郷のようですわ。あと無限収納から熱さましお願いします」
『へぇ~。そら、珍しいなぁ。はいよ』
「驚きが薄いですわよ、クオン」
『……へ、へぇ~!!そら驚きやなぁ!!』
白々しく言い直して居ましたが、クオンは私が前世から持ち込んできた精霊石の可能性が多大に有ります。寧ろ、今の第一王子の発言で又霧が晴れたような感覚なのですが、クオンとルビィは私にとっての所謂『チート』なのではないのでしょうか?
個数無制限に時間経過なしの無限収納なんて、どんな職業になるとしても重宝しても不要になる事は無い。今では着替えに食事に、緊急時に必要な装備は一か月分は軽く確保できています。家族で亡命する事があっても、余裕で成し遂げてみせますわ。
(まぁ、亡命するよりは、うちの家なら独立宣言したほうが早いですけど)
辺境の侯爵家というものは、何かに秀でているが故なのです。
お父様やお母様、兄様達の出鱈目な戦力。私の補助に特化された精霊使いの能力。異世界に転生しただけだと思って居ましたが、どうやらそれだけでは無さそうです。
「乙女ゲーム『胸に輝く君の宝石』当て馬王子の、アレクシス=ガーデンクォーツ第一王子殿下ですわね。婚約者の名前は全く出てませんでしたけど、王子様ですものね婚約者くらいは居てもおかしくありません」
『なんやその恥ずかしい題名』
「大体の乙女ゲームというものはそんなものですわ。アレクシス王子は、第一王子なのに攻略対象ではありません。メイン攻略対象である第二王子殿下とは対立関係、そして、初恋の少女を第二王子殿下の婚約者として盗られ、散々ヒロインと第二王子の仲を反対し邪魔をし、断罪の場面では初恋の令嬢の代わりに暗殺者に命を投げ出す当て馬王子です」
『うわぁ…、身も蓋もない設定やな』
げんなりとしているクオンに私も同意ですが、この第一王子様の酷い設定なのはそれだけでは有りません。命を投げ出したのにも関わらず、守った令嬢は王族の命を奪ったと有罪となり死刑が第二王子ルート。第二王子の婚約者は、其の他にもやりすぎだろレベルのバッドエンドが待ってますのよ。
そして、第一王子と婚約者をなくしてヒロインとラブラブエンドになったメイン攻略者は、手に手を取り合って国を治めていく良い国王になるのを宣言するという。
(私は攻略サイトを見て『うへぇ』となりましたけど、折角購入したので一周しました。ええ、根性と声優さん目的買いするとこうなります。たまにヒットすると沼に嵌っていくのですけどね)
「私は、この乙女ゲームの世界に転生するほど思い入れは無いのですが…」
『嬢ちゃんがこの世界に転生したのは、偶然ってやつやろ』
「重なり合う偶然も、多ければ必然となりますのよ?クオン」
『そうは言うけど、ほんまに何にも無いかも知れんやろ?まぁ、知らんけど』
そっぽを向いてしまったクオンに苦笑を浮かべ、熱さましの薬草を煎じて貰いましょうか。と、王子の客室を後にしました。第一王子の婚約者候補だけであるなら、私は何も巻き込まれる事はありません。平穏が一番ですから。
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