11 / 13
幕引きは迅速に
準備は迅速に
しおりを挟む私の言葉に開いた口が塞がらないのか、陛下が固まっています。
え?今更ですよね?上級貴族の殆どは、キディング様を愛妾にされた時点でご存知でしたよ?私は其れまでキディング様を知りませんでしたから、分かりませんでしたけど。
ラフィット兄様やレイラート殿下が苦い顔をなさる訳です、私の婚約を受け入れたのは、私が幼い少女であったから。その後の数々の浮気は、全て下級貴族のデビューしたての少女ばかり。一年と持たないはずです、皆少女のままの様相ではなく、女性になろうと努力して陛下に向き合っていたのですから。
(キディング様が、陛下の御子を身篭らないように努力(避妊薬を服用)していたのも当然ですよね)
大人の女性となって陛下に尽くそうとした、今までの恋人だと噂された令嬢達。少女のままの可憐さを保ち、幼い事を隠しもせずに陛下の庇護欲を掻き立て続けたキディング様。
幼い少女のままであれば、陛下も初めて逢った時のまま、笑顔を私に向けてくれていたでしょうけど、私は年々女性として成長していく。少女のまま時が止まったようなキディング様とは正反対だったのです。
「クリスティアラ様、一旦後宮へ参りましょう」
「そうね。では陛下御前失礼いたします、荷物を纏めなければいけませんもの。お世話になりましたわ、ごきげんよう」
私の側に控えていたのはジュリアーナと護衛騎士のアシュリーとケイリオスの三人です。他の侍女の姿が見当たらないので、きっと先に後宮の部屋で片づけを始めているでしょう。
最後に微笑みを浮かべ、頭上に輝いていた王妃の証のティアラを陛下の玉座へとお返し致しました。
「陛下とキディング様との御子を、楽しみにしておりますわ」
「く、クリスティアラ、待て!」
「デスロット様、どちらへ行かれるのですか!?」
断罪劇をしようとしていた陛下とキディング様と、王妃の席にいた私との距離は、そう簡単に詰めれるものではありません。間には今までのやりとりに呆けている貴族がいるのです。私へと伸ばされる陛下の手は空を切り、引き止めるキディング様の腕は鎖のような枷となるでしょう。
「クリスティアラ様、こちらへ」
「王宮仕え専用の廊下ですわ、此方でしたら陛下が追い駆けるよりも早く後宮へ戻れます」
「ミルフィー、サラ。ラフィット兄様に連絡は?」
先導するミルフィーの背に問いかけると、ミルフィーもサラもにこりと微笑みを浮かべて『既に』と短く答えてくれました。今頃はラフィット兄様からお父様と宰相様に話がいっている頃でしょう。
離婚を言い渡されたことで、陛下は前女王陛下の遺言を破棄されました。
一つ目は王家の借財を公爵家へ返済すること。
コレは私が外交や政務をする事で赤字を無くし、公爵家へと返済致しました。現在は赤字でも黒字でもありません。ゼロなのです。愛妾のキディング様が使いこまなければ、多少は残りましたのにね。
二つ目は王妃は必ず私にすること。
この約束は、陛下だけではこの国を統治する事が出来ないからです。陛下は外交が不得手な上、国民からの人気が驚くほど有りません。婚約者がいるのに浮気三昧だったのが理由ですね。
三つ目は、私と陛下との長子でなければ次代と認めないこと。
前女王陛下は、自分が居なくなってしまった後の事をとても心配されておりました。公爵家からの嫁である私が後ろ盾になるならば、子が多少の愚王でもどうにかなるからでしょう。
自分の子まで愚王になられるのは嫌ですからね、教育はしっかり施す予定でした。もう関係有りませんけどね。
「クリスティアラ様、ドレスのお着替えを」
「動きやすいのを用意致しました、宝石類は一足先に公爵家へとお届けしております」
「馬車を後宮の出口につけてきます、アシュリー任せる」
「馬の確保は出来ている、御者に言え」
後宮の部屋に戻るなり進められる準備はまるで夜逃げのようですが、この部屋に居ては陛下が何を仕向けてくるか分かりません。もしかしたら、仕掛けてくるのは陛下以外かも知れませんしね。今夜中に公爵家へと向かうように手筈は整えてあります。
「こんなに簡単に、離縁を申し出てくれるとは思いませんでした」
「目的は達成できたからどうでもいいわ、とっくにお父様が離縁の手続きを整えてくださっているもの」
何時から怖いと感じていたでしょう。
陛下が下級貴族の少女を手に入れて、其れを怒る私に困った顔をしつつも口元には笑みを浮かべていたのを。
私が嘆くほどに、怒るほどに、幼い反応を見せるたびに、陛下に浮かぶ微笑みがとても怖くて気持ち悪かった。
「やっと、側を離れられるわ」
ぎゅっと握り締めていた掌を開き、そっと安堵の溜息を零したのでした。
3
お気に入りに追加
2,047
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる