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幕引きは迅速に

準備は迅速に

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 私の言葉に開いた口が塞がらないのか、陛下が固まっています。

 え?今更ですよね?上級貴族の殆どは、キディング様を愛妾にされた時点でご存知でしたよ?私は其れまでキディング様を知りませんでしたから、分かりませんでしたけど。

 ラフィット兄様やレイラート殿下が苦い顔をなさる訳です、私の婚約を受け入れたのは、私が幼い少女であったから。その後の数々の浮気は、全て下級貴族のデビューしたての少女ばかり。一年と持たないはずです、皆少女のままの様相ではなく、女性になろうと努力して陛下に向き合っていたのですから。

(キディング様が、陛下の御子を身篭らないように努力(避妊薬を服用)していたのも当然ですよね)

 大人の女性となって陛下に尽くそうとした、今までの恋人だと噂された令嬢達。少女のままの可憐さを保ち、幼い事を隠しもせずに陛下の庇護欲を掻き立て続けたキディング様。
 幼い少女のままであれば、陛下も初めて逢った時のまま、笑顔を私に向けてくれていたでしょうけど、私は年々女性として成長していく。少女のまま時が止まったようなキディング様とは正反対だったのです。

「クリスティアラ様、一旦後宮へ参りましょう」
「そうね。では陛下御前失礼いたします、荷物を纏めなければいけませんもの。お世話になりましたわ、ごきげんよう」

 私の側に控えていたのはジュリアーナと護衛騎士のアシュリーとケイリオスの三人です。他の侍女の姿が見当たらないので、きっと先に後宮の部屋で片づけを始めているでしょう。
 最後に微笑みを浮かべ、頭上に輝いていた王妃の証のティアラを陛下の玉座へとお返し致しました。

「陛下とキディング様との御子を、楽しみにしておりますわ」
「く、クリスティアラ、待て!」
「デスロット様、どちらへ行かれるのですか!?」

 断罪劇をしようとしていた陛下とキディング様と、王妃の席にいた私との距離は、そう簡単に詰めれるものではありません。間には今までのやりとりに呆けている貴族がいるのです。私へと伸ばされる陛下の手は空を切り、引き止めるキディング様の腕は鎖のような枷となるでしょう。

「クリスティアラ様、こちらへ」
「王宮仕え専用の廊下ですわ、此方でしたら陛下が追い駆けるよりも早く後宮へ戻れます」
「ミルフィー、サラ。ラフィット兄様に連絡は?」

 先導するミルフィーの背に問いかけると、ミルフィーもサラもにこりと微笑みを浮かべて『既に』と短く答えてくれました。今頃はラフィット兄様からお父様と宰相様に話がいっている頃でしょう。
 離婚を言い渡されたことで、陛下は前女王陛下の遺言を破棄されました。

 一つ目は王家の借財を公爵家へ返済すること。
 コレは私が外交や政務をする事で赤字を無くし、公爵家へと返済致しました。現在は赤字でも黒字でもありません。ゼロなのです。愛妾のキディング様が使いこまなければ、多少は残りましたのにね。

 二つ目は王妃は必ず私にすること。
 この約束は、陛下だけではこの国を統治する事が出来ないからです。陛下は外交が不得手な上、国民からの人気が驚くほど有りません。婚約者がいるのに浮気三昧だったのが理由ですね。

 三つ目は、私と陛下との長子でなければ次代と認めないこと。
 前女王陛下は、自分が居なくなってしまった後の事をとても心配されておりました。公爵家からの嫁である私が後ろ盾になるならば、子が多少の愚王でもどうにかなるからでしょう。
 自分の子まで愚王になられるのは嫌ですからね、教育はしっかり施す予定でした。もう関係有りませんけどね。

「クリスティアラ様、ドレスのお着替えを」
「動きやすいのを用意致しました、宝石類は一足先に公爵家へとお届けしております」
「馬車を後宮の出口につけてきます、アシュリー任せる」
「馬の確保は出来ている、御者に言え」

 後宮の部屋に戻るなり進められる準備はまるで夜逃げのようですが、この部屋に居ては陛下が何を仕向けてくるか分かりません。もしかしたら、仕掛けてくるのは陛下以外かも知れませんしね。今夜中に公爵家へと向かうように手筈は整えてあります。

「こんなに簡単に、離縁を申し出てくれるとは思いませんでした」
「目的は達成できたからどうでもいいわ、とっくにお父様が離縁の手続きを整えてくださっているもの」

 何時から怖いと感じていたでしょう。
 陛下が下級貴族の少女を手に入れて、其れを怒る私に困った顔をしつつも口元には笑みを浮かべていたのを。
 私が嘆くほどに、怒るほどに、幼い反応を見せるたびに、陛下に浮かぶ微笑みがとても怖くて気持ち悪かった。

「やっと、側を離れられるわ」

 ぎゅっと握り締めていた掌を開き、そっと安堵の溜息を零したのでした。

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