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第一章

溺れる鴉 7

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 と、その時。

(今……何か聞こえたような……?)

 カチャカチャと食器を扱う物音以外に、何かが聞こえたような気がした。こんな山奥だ。野生の動物がしばしば小屋周辺にやって来ることもある。とりわけ今夜は美味い鍋を囲んだのだ。匂いを嗅ぎつけてやって来たという可能性もある。

 だが、レイヴンは妙な胸騒ぎを覚えた。

(何だろう……何か、嫌な予感がする……)

 もしやと思いレイヴンは逡巡した後、シンへ用を足しに行くと言って一人小屋の外に出ようとした。

「一人で平気か?」

「え……?」

 意外な声掛けにぎくりとするレイヴンは、一瞬言葉を詰まらせる。すぐに、灯りを持っていくから大丈夫だと答えると、「何だ。ズボンを下ろすのを手伝ってやろうと思ったのに」と、本気なのか冗談なのかわからない調子で返された。

「暗いから、足元に気をつけるんだぞ」

「……はい」

 心の内を見透かされているような声掛けに短い返事をした後、レイヴンは小屋を後にした。

 夜が更けるまでまだ早いが、明かりはレイヴンの住む小屋にあるのみで、辺りはすっかり闇夜に包まれている。様子を窺うだけならと手にした蝋燭を頼りに、レイヴンは小屋から離れた。

 サク、サク、と慎重に歩を進めていくと、山の少し下の方から橙色の球体が一つ、ぼうっと浮かんで見えた。

「……っ!?」

 声なく驚くレイヴンは、自分の感が正しかったことを理解した。

(提灯ってことは……村の人……? どうして……だっていつもは、こんなところまでやって来ないのに……)

 しかしこの山に村人がやって来る理由など、自分以外にない。まさか、仮病を使ったことがばれたのか。いや、違う。それは提灯の数からわかる。もしも自分を捕らえに来たのであれば、数人がかりで乗り込んで来るはずだ。

 村人はルールに厳格だ。おそらくこちらに向かってきている人間は一人もしくは二人。それも他の村人には内密にして来ているのだろう。

 ではなぜ、こっそりとやって来ているのか。それもこんな夜分に。

(考えたってわからないけれど……でも、シンさんのことだけは隠さなきゃ……)

 手燭を握る手に力を込め、意を決したレイヴンは、向こう側にある提灯のある方へ向かった。

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