上 下
18 / 63
第一章

聖なる力の秘密 10

しおりを挟む
「さて、オレはもう一度休むとするよ。少し疲れた……」

「はい。おやすみなさい」

 シンの手が離れるなり、レイヴンはもう一度頭を下げ、すぐさま椅子から立ち上がろうとした。その時……

「あ、あの……?」

 一回り以上は大きいシンの手が、レイヴンを引き留めた。どうしたのかとシンを見つめると、彼もまた不思議そうにこちらを見上げた。

「触れると回復を早めるんだろう?」

 その言葉にハッとした。シンがさっそくレイヴンの願いを叶えようとしていることがわかったからだ。

(無茶苦茶だけど、約束は守ってくれる人なんだな……)

 すぐにレイヴンは掴まれた手とは反対の手を、シンのそれに重ねた。

 よく見ると、横になるシンの呼吸が浅く乱れているのがわかる。終始、平然としていた為、彼の容態が悪化していることに気づけなかった。

(でも、どうして? 血を飲んだばかりなのに……)

 別段、派手に動いたわけでも、ましてや暴れたわけでもない。それなのに、血を飲んだばかりの彼の容態が悪化する理由がわからなかった。

 力の効果が弱くなっている? と自身を疑いつつも、レイヴンは握る手に力を込めた。

「……なあ、レイヴン」

「はい」

「レイヴンの身体に触れる場合、治癒能力による回復具合は接する面積に比例するのか?」

 不意の質問に、レイヴンはきょとんと目を丸くさせた。

 シンの質問の意図がわからず視線を宙へ上げた後、

「そう……ですね。このまま僕が両手でシンさんに触れていれば……より回復は早いと思います」

 と、答えた。実際、今のように両手でシンの手を握っていれば、片手で握っているよりも回復は早くなる。

「あー……なるほど」

 汗ばむ額に、シンは手の甲を翳した。さすがのシンも容態が悪くなったことで心細くなったのかと、心配したレイヴンは彼を覗き込んだ。

 その次の瞬間……。

「わっ!?」

 レイヴンの口から悲鳴が上がった。

 突然、強い何かによって身体を引っ張られ、バランスを崩したレイヴンはベッドの上に倒れてしまったのだ。

 パッと目を見開くと、シンの顔が互いの息のかかる位置にあった。

「こうすれば、より早く回復するってことか」

「し、シンさん!?」

 倒れた身体に絡みつくのは、鋼のように逞しいシンの両腕。

 レイヴンはシンによって抱き竦められていた。

「ああ。確かに、手を握られていた時とは違うな」

 蛸の吸盤が肌に吸い付くように、密着する身体。あまりに唐突なシンの行動に、レイヴンは声を震わせる。

「あ、あのっ……あのっ、し、シンさんっ……」

 戸惑いと怯えがレイヴンの身体を支配する。まるで蛇に睨まれた蛙……いや、大蛇に絡まれた蛙のように動けなかった。

 それをいいことに、シンはといえば……

「抱き心地もいいし……ついでに匂いもいいときた」

「んっ……は、離……離して……やっ……鼻、当てないでぇ……」

 レイヴンにこれでもかと抱きつき、あまつさえその鼻先を彼の細い首筋へ擦り付けている。

 か弱くも嫌々と声を上げるレイヴン。

 それをシンは一蹴した。

「無理。こちとら怪我人……いや、死にかけだから」

「シンさっ……やぁっ……」

「あ~、最高。このままもう一眠りするわ」

「だ、だめ……」

「おやすみ、レイヴン。永遠に目覚めなかったら、悪いな」

「えっ!?」

 サラリと恐いことを言ったかと思うと、シンはレイヴンを抱きしめたまま、スヤスヤと眠りについてしまった。

「ね、寝ないでっ……! 離して~っ……!」

 レイヴンの悲痛な声だけが、小屋の中で虚しく響いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

弟いわく、ここは乙女ゲームの世界らしいです

BL
――‥ 昔、あるとき弟が言った。此処はある乙女ゲームの世界の中だ、と。我が侯爵家 ハワードは今の代で終わりを迎え、父・母の散財により没落貴族に堕ちる、と… 。そして、これまでの悪事が晒され、父・母と共に令息である僕自身も母の息の掛かった婚約者の悪役令嬢と共に公開処刑にて断罪される… と。あの日、珍しく滑舌に喋り出した弟は予言めいた言葉を口にした――‥ 。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...