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第一章
聖なる力の秘密 9
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「殺し、た……」
レイヴンは僅かに目を見開き、シンの言葉を繰り返したものの、それ以上は何を言うでもなく、ただ静かに目を伏せる。
「オレが恐い?」
調子を崩さず、シンがレイヴンへと尋ねた。
レイヴンは彼に視線を合わせると、緩やかに首を振った。
「いいえ」
そして両手を前に揃えると、シンに向かって旋毛を見せた。
「ありがとうございます。質問に答えてくださって……」
正直に言えば、目の前の男が誰かを殺したという事実に、驚きはあった。決して許容できる行いでもない。だが、シンは余所者だ。どういった経緯で人を殺していたとしても、レイヴンには関係がなく、また知ったところで何もできない。
それ以前に、すでに大きな罪を犯したことのあるレイヴンに、彼を咎める権利はないのだ。
ようやく疑問が解明された。この事実に、彼は質問に答えてくれたシンへ素直に礼を言った。
そんなレイヴンを見て、シンはポカンと口を開けた後、くしゃりと破顔した。
「最高だな。レイヴンは」
そう言うと、シンはゴロンとレイヴンの方へ身体を傾ける。
「今のは質問のうちに入らなかったから、近日中にスリーサイズを測って、答える準備をしておくよ」
「? はあ……」
なぜシンはスリーサイズに拘るのだろう? いや、そもそもレイヴンにはスリーサイズというものがわからない。返事をしようにも、気の抜けた相槌しか出なかった。
対するシンは楽しいのか、笑いながら自身の口元へ人差し指を立てた。
「嘘。代わりに、レイヴンの願いを一つだけ聞くよ」
「願い?」
「そう。願い事」
唐突な発言をするシンに、レイヴンは視線を泳がせる。
「で、でも……」
「今すぐ言えって話じゃない。また何か考えておいてくれ。なければそれでいいし」
眠いのか、シンは大きな欠伸をした。またも交換条件を出されてはと、やや警戒をしたレイヴンだが、このまま入眠するならばと、シンに向かって口を開いた。
「じゃあ……一つだけ、約束してください」
「ん?」
「この村は昔から閉鎖的で……あ、村はこの山の下にあるんですけれど。その村は、あんまり外の人と関わりたくない人が多くて。だからその…………その…………シンさんの今の怪我が治ったら…………」
その願いは最後まで口にできなかった。
出ていってほしい。それだけのことが、レイヴンにはとても言い難いものだったのだ。
彼は申し訳なさそうに俯いた。刹那の後、ギシ……とベッドの軋む音が聞こえた。
「わかった」
何もかもを許すようなその優しげな声とともに、レイヴンの前髪に温かいものが乗った。
(この手は本当に、誰かを殺したのだろうか?)
レイヴンは思いながら、「ごめんなさい……」と言葉をひり出した。
「何で謝るの」
頭上でシンが可笑しそうに笑った。
本当によく笑う。不思議な男だと改めて思うのと同時に、レイヴンの胸は締め付けられるように苦しくなった。
レイヴンは僅かに目を見開き、シンの言葉を繰り返したものの、それ以上は何を言うでもなく、ただ静かに目を伏せる。
「オレが恐い?」
調子を崩さず、シンがレイヴンへと尋ねた。
レイヴンは彼に視線を合わせると、緩やかに首を振った。
「いいえ」
そして両手を前に揃えると、シンに向かって旋毛を見せた。
「ありがとうございます。質問に答えてくださって……」
正直に言えば、目の前の男が誰かを殺したという事実に、驚きはあった。決して許容できる行いでもない。だが、シンは余所者だ。どういった経緯で人を殺していたとしても、レイヴンには関係がなく、また知ったところで何もできない。
それ以前に、すでに大きな罪を犯したことのあるレイヴンに、彼を咎める権利はないのだ。
ようやく疑問が解明された。この事実に、彼は質問に答えてくれたシンへ素直に礼を言った。
そんなレイヴンを見て、シンはポカンと口を開けた後、くしゃりと破顔した。
「最高だな。レイヴンは」
そう言うと、シンはゴロンとレイヴンの方へ身体を傾ける。
「今のは質問のうちに入らなかったから、近日中にスリーサイズを測って、答える準備をしておくよ」
「? はあ……」
なぜシンはスリーサイズに拘るのだろう? いや、そもそもレイヴンにはスリーサイズというものがわからない。返事をしようにも、気の抜けた相槌しか出なかった。
対するシンは楽しいのか、笑いながら自身の口元へ人差し指を立てた。
「嘘。代わりに、レイヴンの願いを一つだけ聞くよ」
「願い?」
「そう。願い事」
唐突な発言をするシンに、レイヴンは視線を泳がせる。
「で、でも……」
「今すぐ言えって話じゃない。また何か考えておいてくれ。なければそれでいいし」
眠いのか、シンは大きな欠伸をした。またも交換条件を出されてはと、やや警戒をしたレイヴンだが、このまま入眠するならばと、シンに向かって口を開いた。
「じゃあ……一つだけ、約束してください」
「ん?」
「この村は昔から閉鎖的で……あ、村はこの山の下にあるんですけれど。その村は、あんまり外の人と関わりたくない人が多くて。だからその…………その…………シンさんの今の怪我が治ったら…………」
その願いは最後まで口にできなかった。
出ていってほしい。それだけのことが、レイヴンにはとても言い難いものだったのだ。
彼は申し訳なさそうに俯いた。刹那の後、ギシ……とベッドの軋む音が聞こえた。
「わかった」
何もかもを許すようなその優しげな声とともに、レイヴンの前髪に温かいものが乗った。
(この手は本当に、誰かを殺したのだろうか?)
レイヴンは思いながら、「ごめんなさい……」と言葉をひり出した。
「何で謝るの」
頭上でシンが可笑しそうに笑った。
本当によく笑う。不思議な男だと改めて思うのと同時に、レイヴンの胸は締め付けられるように苦しくなった。
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