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第一章
聖なる力の秘密 1
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翌朝ー
暖かみのある白い光を浴びて、シンは深い眠りから目を覚ました。
辺りを確認するように視線だけを動かすと、今にも崩れそうな歪さのある天井がまず目に入った。木材でできたそれはあちこちが腐っており、その僅かな隙間から陽光が射し込んでいることがわかった。
続いて木材と畳を合わせて作られたベッドから上体を起こすと、隣りにある滑り出しの窓を押し開いた。木材のそれからはパタパタと強い水滴音が落ち、縁を鳴らした。
サアッと乾いた風が吹き込んだ。湿った土の匂いが鼻孔を擽り、雨が降ったことを知らせていた。
「雨男だな……オレは」
独り言を口にしながら視線を反対側へやると、一人の青年がベッド横に置かれた椅子に座って眠っていた。首を傾け静かな寝息を立てる青年は実に無防備で、シンの目には子供のように幼く映った。
そして視線をさらに下へ落とすと、青年は寝ながらも、シンの手を握っていた。
「……ん」
吹き込む風が寒いのか、青年の眉間に皺が寄る。シンは自身にかけられた布を一枚捲ると、青年の身体に覆わせた。
「なかなかいい城だ」
シンは小屋の中を見渡しながら呟いた。人ひとりであれば充分に過ごすことのできる広さのそこは、あまり物が見当たらず、一言で言えば殺風景。さらに中央には、自分が着ていたマントや衣服が、部屋の角と角を繋いで取り付けられた紐に被せる形で干されており、全体的に暗い印象を与えていた。
シンは自身の首から下を見下ろした。着ていた衣服の代わりに、布地一枚で作られたと思しき継ぎ接ぎの上着が今の自分を覆っていた。しかしサイズが合っていない。身体の前で重ね合わせて腰紐で縛るタイプのそれは、肩幅に余裕がなく、袖の長さも足りていない。不格好であることは明白だった。
「さすがに下は脱がせられなかったか」
残りの布を捲って下肢を確認すると、元々着ていた下衣はそのままになっており、代わりに、眠る青年の衣服だろうものが何枚も重ねられていた。
それでも履いていたブーツは脱がせてくれたらしい。小屋の扉近くに揃えてあるのが見えた。シンの脚の形にピッタリと合わせ作られたそれを剥がすのは、さぞ困難だったことだろうと、シンは想像しながらクククと笑った。
もう一度青年の顔を見て、シンは昨日の出来事を振り返った。
『……レイヴン』
『ん?』
『僕の名前は……レイヴンです』
濡羽色のような長い黒髪を持つ青年は、律儀に自分の名を名乗ったかと思うと、シンの手を取った。
『小屋は近くです。そこまで……頑張って』
それからレイヴンは、自身が住んでいるという小屋までシンを運んだ。
レイヴンの支えもありつつ、何とか屋内へと入り込んだシンは、そこで力尽きたように気を失った。
覚えているのはそこまでだ。
「…………ぅ、あれ……?」
「おはよう。レイヴン」
シンは隣で目覚めた青年ーーレイヴンへ朝の挨拶を口にした。
暖かみのある白い光を浴びて、シンは深い眠りから目を覚ました。
辺りを確認するように視線だけを動かすと、今にも崩れそうな歪さのある天井がまず目に入った。木材でできたそれはあちこちが腐っており、その僅かな隙間から陽光が射し込んでいることがわかった。
続いて木材と畳を合わせて作られたベッドから上体を起こすと、隣りにある滑り出しの窓を押し開いた。木材のそれからはパタパタと強い水滴音が落ち、縁を鳴らした。
サアッと乾いた風が吹き込んだ。湿った土の匂いが鼻孔を擽り、雨が降ったことを知らせていた。
「雨男だな……オレは」
独り言を口にしながら視線を反対側へやると、一人の青年がベッド横に置かれた椅子に座って眠っていた。首を傾け静かな寝息を立てる青年は実に無防備で、シンの目には子供のように幼く映った。
そして視線をさらに下へ落とすと、青年は寝ながらも、シンの手を握っていた。
「……ん」
吹き込む風が寒いのか、青年の眉間に皺が寄る。シンは自身にかけられた布を一枚捲ると、青年の身体に覆わせた。
「なかなかいい城だ」
シンは小屋の中を見渡しながら呟いた。人ひとりであれば充分に過ごすことのできる広さのそこは、あまり物が見当たらず、一言で言えば殺風景。さらに中央には、自分が着ていたマントや衣服が、部屋の角と角を繋いで取り付けられた紐に被せる形で干されており、全体的に暗い印象を与えていた。
シンは自身の首から下を見下ろした。着ていた衣服の代わりに、布地一枚で作られたと思しき継ぎ接ぎの上着が今の自分を覆っていた。しかしサイズが合っていない。身体の前で重ね合わせて腰紐で縛るタイプのそれは、肩幅に余裕がなく、袖の長さも足りていない。不格好であることは明白だった。
「さすがに下は脱がせられなかったか」
残りの布を捲って下肢を確認すると、元々着ていた下衣はそのままになっており、代わりに、眠る青年の衣服だろうものが何枚も重ねられていた。
それでも履いていたブーツは脱がせてくれたらしい。小屋の扉近くに揃えてあるのが見えた。シンの脚の形にピッタリと合わせ作られたそれを剥がすのは、さぞ困難だったことだろうと、シンは想像しながらクククと笑った。
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『……レイヴン』
『ん?』
『僕の名前は……レイヴンです』
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『小屋は近くです。そこまで……頑張って』
それからレイヴンは、自身が住んでいるという小屋までシンを運んだ。
レイヴンの支えもありつつ、何とか屋内へと入り込んだシンは、そこで力尽きたように気を失った。
覚えているのはそこまでだ。
「…………ぅ、あれ……?」
「おはよう。レイヴン」
シンは隣で目覚めた青年ーーレイヴンへ朝の挨拶を口にした。
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