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俺だけだった?
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そんな風に母さんと語らいながらゆっくり過ごしていると、俺のスマホに宗佑から連絡が入った。仕事が早く終わったから今から帰宅するとのことだ。俺はいそいそと帰り支度を始めて母さんに別れを告げた。
靴を履いて玄関を出ようとしたその時、母さんがあることを思い出したように俺を引き止めた。
「そうだ、圭ちゃん。本家に行く時は必ず里中さんと一緒なのよね?」
「うん。一応そういうことになってるよ」
しかし、あれ以来は一度も宗佑と共に本家の敷地を跨いでいない。陸郎とは外で会っている為、本家の周りにすら近づいていないのだ。
ちょうど来週、陸郎と一緒に一喜の墓参りへ行く。その時に宗佑を連れて陸郎に会ってもらおうと、本家に伺う予定を立てているのだが……
「うーん……」
母さんは困った様子で眉間に皺を寄せた。
「どうかしたの?」
「本家のあの子達がねぇ……なんだか、こわ~い人達と一緒にいるっぽいのよねぇ」
本家のあの子達というのは、俺を毛嫌う従兄弟の二人のことだ。母さんもあの二人が苦手で名前すら呼ぼうとしない。そもそも、奴らの名前は何だっただろうか? 俺に至っては、彼らはその程度の人間になり下がっていた。
しかし、怖い人達とは何だろう。確かにあの二人は変人だと思うが、怖いという不穏な表現が気になった。
「類は友を呼ぶ?」
「そういうことじゃなくてね。けれどまあ、あの子達はあの子達だけでなんとかしなさいって話よねぇ。とにかく、本家に行く時は里中さんと一緒にね。一人にはならないで」
「わかった。気をつける」
二人共いい歳なのに、いまだ周りに心配をかけさせているとは。素行は良くないが、自分の尻くらいは自分で拭けという話だ。全く、いつになったら大人になるのか。
まあいい。結婚したら俺は田井中を出ていくのだ。あの二人と関わることは冠婚葬祭の時くらいになるだろう。わざわざ式を挙げるつもりはないし、挙げたとしても両親と陸郎だけを呼ぶつもりだ。
それでも、宗佑に迷惑をかけたくはない。短い間だろうが、用心はするとしよう。
その後、マンションへ帰ると、まだ宗佑は部屋に戻っていなかった。俺はもらった大福をキッチンのテーブル上に置くと、すぐにお茶の用意を始めた。先日、陸郎に買ってもらった高価な茶葉がある。せっかくだからと、この茶葉でお茶を淹れることにした。
「ふふっ♪」
茶托と湯呑み、急須を取り出してお湯を沸かす準備を始める。はやる気持ちを抑えつつ、宗佑の帰りを待ちながら手元を動かしていると、ふと戸棚のガラスに映る自分の顔が目に入った。
「綺麗、かぁ……」
今日、母さんに言われた言葉。前世の恵はそれこそ星の数ほど言われてきた。一部の人間からではなく、様々な人間からそう言われてきたのだから、誰の目から見ても美しかったのは本当だろう。
だが、現世で圭介として生まれて綺麗と言われたのは数えるほどだ。そう、宗佑しかいない。どうせ言われるのなら、格好いいの方に憧れがあるのだが、世間様は俺を見て、綺麗、格好いいとは決して言わない。
自分の頬を両手で包み込むと、少しだけ横に引っ張ってみた。
「うーん…………へへ♪」
自然と口元が綻んだ。そう。誰にどう思われようと、周りからの評価はいらない。気にならない。綺麗も、格好いいも、どうでもいい。
だって俺は俺なのだから。
そう思うことができるのも、心に余裕があるからだろう。毎日が充実している。本当にそうだ。
こんなに誰かに想われることが嬉しく、こんなに満たされる気持ちになることを、人生を二度経験して初めて知った。
初めてだ。
「ただいま、圭介」
「宗佑!」
連絡通りに早く帰宅した宗佑がキッチンで俺を見つけるなり抱き締めてくれた。服越しでもわかる、温かい宗佑の身体。愛しい人の体温は、こんなにも心地良い。
宗佑の傍にいると安心する。傍にいていいのだと、甘えていいのだと、弱さを見せていいのだと、許される気持ちになる。
多幸感。まさにそれだ。
「おかえり、宗佑」
宗佑を好きになって良かった。
宗佑に好きになってもらえて良かった。
もう一度Ωに生まれてきて、良かった。
靴を履いて玄関を出ようとしたその時、母さんがあることを思い出したように俺を引き止めた。
「そうだ、圭ちゃん。本家に行く時は必ず里中さんと一緒なのよね?」
「うん。一応そういうことになってるよ」
しかし、あれ以来は一度も宗佑と共に本家の敷地を跨いでいない。陸郎とは外で会っている為、本家の周りにすら近づいていないのだ。
ちょうど来週、陸郎と一緒に一喜の墓参りへ行く。その時に宗佑を連れて陸郎に会ってもらおうと、本家に伺う予定を立てているのだが……
「うーん……」
母さんは困った様子で眉間に皺を寄せた。
「どうかしたの?」
「本家のあの子達がねぇ……なんだか、こわ~い人達と一緒にいるっぽいのよねぇ」
本家のあの子達というのは、俺を毛嫌う従兄弟の二人のことだ。母さんもあの二人が苦手で名前すら呼ぼうとしない。そもそも、奴らの名前は何だっただろうか? 俺に至っては、彼らはその程度の人間になり下がっていた。
しかし、怖い人達とは何だろう。確かにあの二人は変人だと思うが、怖いという不穏な表現が気になった。
「類は友を呼ぶ?」
「そういうことじゃなくてね。けれどまあ、あの子達はあの子達だけでなんとかしなさいって話よねぇ。とにかく、本家に行く時は里中さんと一緒にね。一人にはならないで」
「わかった。気をつける」
二人共いい歳なのに、いまだ周りに心配をかけさせているとは。素行は良くないが、自分の尻くらいは自分で拭けという話だ。全く、いつになったら大人になるのか。
まあいい。結婚したら俺は田井中を出ていくのだ。あの二人と関わることは冠婚葬祭の時くらいになるだろう。わざわざ式を挙げるつもりはないし、挙げたとしても両親と陸郎だけを呼ぶつもりだ。
それでも、宗佑に迷惑をかけたくはない。短い間だろうが、用心はするとしよう。
その後、マンションへ帰ると、まだ宗佑は部屋に戻っていなかった。俺はもらった大福をキッチンのテーブル上に置くと、すぐにお茶の用意を始めた。先日、陸郎に買ってもらった高価な茶葉がある。せっかくだからと、この茶葉でお茶を淹れることにした。
「ふふっ♪」
茶托と湯呑み、急須を取り出してお湯を沸かす準備を始める。はやる気持ちを抑えつつ、宗佑の帰りを待ちながら手元を動かしていると、ふと戸棚のガラスに映る自分の顔が目に入った。
「綺麗、かぁ……」
今日、母さんに言われた言葉。前世の恵はそれこそ星の数ほど言われてきた。一部の人間からではなく、様々な人間からそう言われてきたのだから、誰の目から見ても美しかったのは本当だろう。
だが、現世で圭介として生まれて綺麗と言われたのは数えるほどだ。そう、宗佑しかいない。どうせ言われるのなら、格好いいの方に憧れがあるのだが、世間様は俺を見て、綺麗、格好いいとは決して言わない。
自分の頬を両手で包み込むと、少しだけ横に引っ張ってみた。
「うーん…………へへ♪」
自然と口元が綻んだ。そう。誰にどう思われようと、周りからの評価はいらない。気にならない。綺麗も、格好いいも、どうでもいい。
だって俺は俺なのだから。
そう思うことができるのも、心に余裕があるからだろう。毎日が充実している。本当にそうだ。
こんなに誰かに想われることが嬉しく、こんなに満たされる気持ちになることを、人生を二度経験して初めて知った。
初めてだ。
「ただいま、圭介」
「宗佑!」
連絡通りに早く帰宅した宗佑がキッチンで俺を見つけるなり抱き締めてくれた。服越しでもわかる、温かい宗佑の身体。愛しい人の体温は、こんなにも心地良い。
宗佑の傍にいると安心する。傍にいていいのだと、甘えていいのだと、弱さを見せていいのだと、許される気持ちになる。
多幸感。まさにそれだ。
「おかえり、宗佑」
宗佑を好きになって良かった。
宗佑に好きになってもらえて良かった。
もう一度Ωに生まれてきて、良かった。
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