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耀太、現る!
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「え?」
「耀太」
番の解消と言われ、俺は目を見開き耀太さんを見上げた。すかさず宗佑が耀太さんの名前を呼び制止をかけるも、彼の耳には入らないのか、差した指をそのまま俺にスライドさせた。
「え? じゃねえよ。話を聞いた当初は兄貴の選んだ人なら仕方ねえなって、みーんな突っ込まなかったけれどな。俺は言わせてもらうぜ。お前は兄貴に相応しくねーよ!」
「耀太っ!」
たたっ斬られるように、相応しくないと言われた。それも相手の身内から、常々俺自身が思っていたことを、だ。しかし不思議とショックではない。むしろ、今までが上手くいき過ぎていたのだ。こういった反対は甘んじて受けるべきだろう。
だが、そんな耀太さんに普段は温厚な宗佑が珍しく怒鳴った。彼を睨みつけ、それ以上は何も言うなと目で訴えている。
怒る兄に耀太さんは一瞬だけたじろぐも、すぐに噛みつくように反論する。
「だって本当のことだろ! 兄貴の認めた人だからさぞ大層な人間かと思えばこんなメンクイΩなんて……しかもコイツ自身、ぜんっぜん大したことねーじゃねえか! 結婚したらコイツが俺の義理の兄貴ってか? そんなの、ぜってーやだね!」
ああ、それは言えている。彼の言うように、俺自身に金もなければ大した学歴もないのだ。顔だって何処にでもあるような普通のものだ。それがいきなりエリートαの番で結婚相手だなど、菩薩でもなければこんな現実受け入れられないだろう。
思わず、うんうんと頷く俺だったが、残念ながらこの二人の眼中には入らなかったらしい。特に宗佑の中には。だから……
「こんな広い部屋で何不自由なく暮らしてタダ飯食わせてもらってる癖に、発情だけして子供も作れないんじゃ話になんねーよ。お前、Ωの本分忘れてんじゃ……」
「ガウッ!!」
「ひっ!?」
宗佑は咆哮した。人の顔をそのままに、喉から狼を出現させたのだ。
たちまち竦んでしまう耀太さんに、宗佑は静かな凄みを見せた。
「いい加減にしろ、耀太。これ以上、俺の大切な人を侮辱するのなら、お前であっても許しはしない」
「……っ、だ、だってよ……兄貴、コイツはっ……!」
「少なくともお前は今、圭介を傷つける言動をとった。弟と思ってここに上がらせたが、それは間違いだったようだな」
宗佑はそれまでのやんわりとした雰囲気を脱ぎ捨て、凄然と言い捨てる。それは決して、実の弟に向けるようなものではなかった。
怯みつつも弁解しようとする耀太さんは宗佑に触れようとした。
「兄貴、俺はっ……!」
「俺に触れるな」
「……っ!?」
ああ、これはいけない。そう思った瞬間、俺の身体は動いていた。俺は宗佑の前、引いては耀太さんの前に立つと、大きく声を張り上げながら腰をくの字に折り曲げた。
「申し訳ありませんでした!!」
「…………は?」
「圭介?」
頭の上に二人分の視線を感じる。二人がようやく俺を見たのだ。
傍からすれば兄弟喧嘩だ。他人の俺がしゃしゃり出るようなものではない。だが、その要因こそが俺にあるのだ。このままでは、二人の仲は変に拗れてしまう。
ならば、この不穏な空気をいっぺんぶち壊すまで。そして二人が俺に注目すればいい。仕切り直すにはこれが一番だ。
それに耀太さんの言い分は一方的に俺を貶しているのではなく、全部兄を想っての発言だ。元は仲が良いのだろう。火種が俺なら、この二人が争うのは筋違いというもの。ポッと出の俺がこの二人の仲を裂いていいはずがない。
「宗佑の優しさについ甘えてしまっていました。まず、ご挨拶に伺うべきでしたね」
俺は顔を上げ、改めて耀太さんに挨拶をした。
「俺は田井中圭介、Ωです。宗佑と番契約を結び、お付き合いをしています。彼とはまだ籍を入れておりませんが、入籍についてはまず、互いの家族にきちんと認められてからと思っています」
耀太さん同様、俺の息子……陸郎もまた結婚に反対なのだ。納得してもらうことに時間がかかるのは、仕方がない。
だが、諦めるつもりは毛頭ない。
「確かに私は当初、この人の姿をした宗佑の見た目……とりわけ顔に惹かれました。メンクイなのは本当です。事実、狼の姿の彼を受け入れられるかと聞かれたら、すぐに『はい』と頷けません」
それは俺が今、悩んでいることだ。表の部分だけで番になろうと決めたのであれば、叩かれて痛いのは当然だ。けれども、俺が宗佑に惹かれた根っこの部分を耀太さんのおかげで思い出すことができた。
俺だって、顔だけという半端な気持ちで番になったわけではないのだ。
口を挟もうとした耀太さんに被せるように、俺ははっきりと宗佑の好きな理由を告げた。
「ですが、私が惚れたのは宗佑の顔ではなく優しさです。こうして共に過ごすうちに、彼の様々な面を知っていきました。彼の良いところも、悪いところも。出会ってからの期間は確かに短いですが、私は宗佑の優しさに惚れたんです」
それが愛なのかはわからない。でも俺は、宗佑が好きだ。他の人を想い続けてもいいと許してくれた、宗佑が好きなのだ。
俺は再度、手を自身の前で揃えてから深々と頭を下げた。
「この結婚を許して頂くには長い時間がかかると思います。私には頭を下げる以外に方法がありません。貴方の前でも失礼な態度をお取りしたこと、深くお詫び致します。申し訳ありませんでした」
これが今の俺にできる、俺なりの誠意だ。
俺は耀太さんの大切な兄を独占しようと言ってるも同然の存在。彼にとっては目の上のたんこぶだ。だからといって俺もすごすごと引き下がりたくはない。
一度母をやった分、そんじょそこらのΩよりも我は強いぞ。
「……っ、……なん、なんだよ……」
最後まで口を挟めずにいた耀太さんが突如、わなわなと震えだした。
怒るか? と、瞬時に警戒するも彼から噴火したのはマグマでも火山灰でもなかった。
「なんでコイツなんだよっ! 兄ちゃんの番っ!! もっと嫌な奴いなかったのかよぉっ!」
「へっ?」
ブワッと噴出したのは大粒の涙。俺よりも背が高く、体格のいい若者が、いきなり子供のように慟哭し始めたのだ。
「しかもコイツがしているチョーカーのダイヤ!! 三カラットはあんだろ! いくらすると思ってんだよ! フツーに考えておかしいだろ!! 俺だってこんな高いもん、兄ちゃんからもらったことないのにぃ!!」
「よ、耀太、さん?」
今、さらっと大事なことを言われた気がする。何カラットだって? ダイヤ? 俺の首のダイヤモンドが何カラットあるって? それでいったい、いくらするんだこのダイヤモンドは。
俺の心の問に返ってくる答えはなく。代わりに、里中家の事情を少しだけ垣間見ることができた。
「かーさんも、かーさんだっ!! 宗佑の選んだ子なら間違いないわね~って何のほほんとしてんだよっ! 会ったこともねーくせに、何で簡単に受け入れられんだよっ! 他のにーちゃん達だって会うのが楽しみだな~って……嘘だろ!? だから俺が見定めようって! 今日っ、俺っ、俺がっ……う、グスッ……うわあーんっ!!」
大柄な男性がわんわんと泣き喚く様は、なかなかにカオスだ。なす術がないとはこのことか。俺はあんぐりと口を開けたまま、その光景を眺めるしかなかった。
対して隣にいる宗佑が、額に手を当てて困ったように俯いている。
「そ、宗佑、これは……」
「ごめんね、圭介。この子は少し、私を好きな傾向にあるんだ」
「好きって……ああ、ブラコンってやつか」
「ちなみにまだ十六歳なんだ」
「じゅっ!?」
俺より年下だったのか。驚愕の事実に、俺は顎が外れるかと思った。
「耀太」
番の解消と言われ、俺は目を見開き耀太さんを見上げた。すかさず宗佑が耀太さんの名前を呼び制止をかけるも、彼の耳には入らないのか、差した指をそのまま俺にスライドさせた。
「え? じゃねえよ。話を聞いた当初は兄貴の選んだ人なら仕方ねえなって、みーんな突っ込まなかったけれどな。俺は言わせてもらうぜ。お前は兄貴に相応しくねーよ!」
「耀太っ!」
たたっ斬られるように、相応しくないと言われた。それも相手の身内から、常々俺自身が思っていたことを、だ。しかし不思議とショックではない。むしろ、今までが上手くいき過ぎていたのだ。こういった反対は甘んじて受けるべきだろう。
だが、そんな耀太さんに普段は温厚な宗佑が珍しく怒鳴った。彼を睨みつけ、それ以上は何も言うなと目で訴えている。
怒る兄に耀太さんは一瞬だけたじろぐも、すぐに噛みつくように反論する。
「だって本当のことだろ! 兄貴の認めた人だからさぞ大層な人間かと思えばこんなメンクイΩなんて……しかもコイツ自身、ぜんっぜん大したことねーじゃねえか! 結婚したらコイツが俺の義理の兄貴ってか? そんなの、ぜってーやだね!」
ああ、それは言えている。彼の言うように、俺自身に金もなければ大した学歴もないのだ。顔だって何処にでもあるような普通のものだ。それがいきなりエリートαの番で結婚相手だなど、菩薩でもなければこんな現実受け入れられないだろう。
思わず、うんうんと頷く俺だったが、残念ながらこの二人の眼中には入らなかったらしい。特に宗佑の中には。だから……
「こんな広い部屋で何不自由なく暮らしてタダ飯食わせてもらってる癖に、発情だけして子供も作れないんじゃ話になんねーよ。お前、Ωの本分忘れてんじゃ……」
「ガウッ!!」
「ひっ!?」
宗佑は咆哮した。人の顔をそのままに、喉から狼を出現させたのだ。
たちまち竦んでしまう耀太さんに、宗佑は静かな凄みを見せた。
「いい加減にしろ、耀太。これ以上、俺の大切な人を侮辱するのなら、お前であっても許しはしない」
「……っ、だ、だってよ……兄貴、コイツはっ……!」
「少なくともお前は今、圭介を傷つける言動をとった。弟と思ってここに上がらせたが、それは間違いだったようだな」
宗佑はそれまでのやんわりとした雰囲気を脱ぎ捨て、凄然と言い捨てる。それは決して、実の弟に向けるようなものではなかった。
怯みつつも弁解しようとする耀太さんは宗佑に触れようとした。
「兄貴、俺はっ……!」
「俺に触れるな」
「……っ!?」
ああ、これはいけない。そう思った瞬間、俺の身体は動いていた。俺は宗佑の前、引いては耀太さんの前に立つと、大きく声を張り上げながら腰をくの字に折り曲げた。
「申し訳ありませんでした!!」
「…………は?」
「圭介?」
頭の上に二人分の視線を感じる。二人がようやく俺を見たのだ。
傍からすれば兄弟喧嘩だ。他人の俺がしゃしゃり出るようなものではない。だが、その要因こそが俺にあるのだ。このままでは、二人の仲は変に拗れてしまう。
ならば、この不穏な空気をいっぺんぶち壊すまで。そして二人が俺に注目すればいい。仕切り直すにはこれが一番だ。
それに耀太さんの言い分は一方的に俺を貶しているのではなく、全部兄を想っての発言だ。元は仲が良いのだろう。火種が俺なら、この二人が争うのは筋違いというもの。ポッと出の俺がこの二人の仲を裂いていいはずがない。
「宗佑の優しさについ甘えてしまっていました。まず、ご挨拶に伺うべきでしたね」
俺は顔を上げ、改めて耀太さんに挨拶をした。
「俺は田井中圭介、Ωです。宗佑と番契約を結び、お付き合いをしています。彼とはまだ籍を入れておりませんが、入籍についてはまず、互いの家族にきちんと認められてからと思っています」
耀太さん同様、俺の息子……陸郎もまた結婚に反対なのだ。納得してもらうことに時間がかかるのは、仕方がない。
だが、諦めるつもりは毛頭ない。
「確かに私は当初、この人の姿をした宗佑の見た目……とりわけ顔に惹かれました。メンクイなのは本当です。事実、狼の姿の彼を受け入れられるかと聞かれたら、すぐに『はい』と頷けません」
それは俺が今、悩んでいることだ。表の部分だけで番になろうと決めたのであれば、叩かれて痛いのは当然だ。けれども、俺が宗佑に惹かれた根っこの部分を耀太さんのおかげで思い出すことができた。
俺だって、顔だけという半端な気持ちで番になったわけではないのだ。
口を挟もうとした耀太さんに被せるように、俺ははっきりと宗佑の好きな理由を告げた。
「ですが、私が惚れたのは宗佑の顔ではなく優しさです。こうして共に過ごすうちに、彼の様々な面を知っていきました。彼の良いところも、悪いところも。出会ってからの期間は確かに短いですが、私は宗佑の優しさに惚れたんです」
それが愛なのかはわからない。でも俺は、宗佑が好きだ。他の人を想い続けてもいいと許してくれた、宗佑が好きなのだ。
俺は再度、手を自身の前で揃えてから深々と頭を下げた。
「この結婚を許して頂くには長い時間がかかると思います。私には頭を下げる以外に方法がありません。貴方の前でも失礼な態度をお取りしたこと、深くお詫び致します。申し訳ありませんでした」
これが今の俺にできる、俺なりの誠意だ。
俺は耀太さんの大切な兄を独占しようと言ってるも同然の存在。彼にとっては目の上のたんこぶだ。だからといって俺もすごすごと引き下がりたくはない。
一度母をやった分、そんじょそこらのΩよりも我は強いぞ。
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「よ、耀太、さん?」
今、さらっと大事なことを言われた気がする。何カラットだって? ダイヤ? 俺の首のダイヤモンドが何カラットあるって? それでいったい、いくらするんだこのダイヤモンドは。
俺の心の問に返ってくる答えはなく。代わりに、里中家の事情を少しだけ垣間見ることができた。
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大柄な男性がわんわんと泣き喚く様は、なかなかにカオスだ。なす術がないとはこのことか。俺はあんぐりと口を開けたまま、その光景を眺めるしかなかった。
対して隣にいる宗佑が、額に手を当てて困ったように俯いている。
「そ、宗佑、これは……」
「ごめんね、圭介。この子は少し、私を好きな傾向にあるんだ」
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