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番外編【笑顔の理由】
篠塚 side1
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ーーーー…
「おい、篠塚ぁ。悪ぃけど、客間に茶とどら焼きを用意してくれ。二人分だ」
「はい!」
俺は篠塚景司。三か月ほど前からこの真城家に奉公に来ている。
経緯としては、昔からヤンチャ坊だった俺に手を焼いた両親が、その性根を叩き直してやってくれと駆け込み寺として選んだ先がここの龍一当主だったということ。放り込まれた当初は挨拶もせずに不貞腐れ、恰好つけていた俺だったが、住み込み初めて三日目でヒイヒイと泣かされることになる。
色んな事情でこの真城家に出入りしている兄さん方がいるが、その中でも俺はなんてちっぽけな存在で、またなんてしょうもないことでひねくれていたのかということを知った。そんでもって、この当主に続きめちゃんこ厳しかったのが、遠藤さん。兄さん方の上司で龍一様の世話役でもあるこの人は、実はその背中に恐ろしい龍を飼っている。他の兄さん方も遠藤さん同様、龍やら花やらを背負っちゃいるが、遠藤さんは気迫が違う。怒らせると、超怖ぇ。
でも、こんなろくでもねえ俺でも見捨てずにいてくれた。泣いて鼻水垂らしている俺に、美味い握り飯を作ってくれた。
将来、俺はこの人の役に立ちてえ。こんな大人になるんだと、目標を定めて専門学校に通うため、日々勉強しながら色々と学ばせてもらっている。
茶の淹れ方も一から教わり、何とか人様の前に出せるようになったわけだが……
「こんにちは~! 龍一様、今日は『福ふく』の塩豆大福、買ってきましたよ~!」
時折、この家にやって来る紫瞠柳というガキが、俺はどうにも気に入らない。
高校生だというそいつは学校帰りに制服姿のまま、まるで自分の家のように真城家を自由に出入りする。見てくれはテレビの男アイドル並みに良いし、眼の中には紫のカラコンを入れて可愛い子ぶっちゃいるが、正直言ってそれだけだ。面倒見のいい龍一様が可愛がるのも、無邪気な笑顔とその見てくれだけで懐柔されているんじゃねえかと思いさえする。
他の兄さん方にしても俺や他の新参者に対して厳しいのに、あのガキ相手だと鼻の下を伸ばすようにデレデレとしている。ガキもガキで周りからちやほやされているから図に乗ってるんだろう。ヘラヘラ笑って菓子を食って、ただ日々の出来事を話してそれで終わり。この前なんか、決算時期だった。それなのに、龍一様はあのガキを客間に通したんだ。
ガキだろうがなんだろうが、高校生なら遠慮くらい教えてやってもいいだろうに。どうして皆、あのヘラヘラしているガキに弱いんだか……。
「おう、柳! 結構、早かったな~。まだ、茶が用意出来てねえよ」
「そんなわざわざ……お茶なら僕が淹れてきますよ! 塩大福もお皿に盛って客間に運ぶね」
「そうかい……篠塚! そっちはもういい。お前は遠藤を呼んで来い。柳が来たってな!」
「は……はい。呼んで参ります」
俺はやかんに湯を沸かすのを止めると、そそくさとその場を離れて遠藤さんを呼びに行った。正直、あのガキを視界に入れたくなかったから離れられてホッとした。
遠藤さんは自室に篭って仕事をしている。俺が来てすぐくらいの頃にとある店を買収しその経営を担うようになった為、昼夜忙しくしている。今もその店の方に掛かりきりで、リモートでその指揮を執っていた。
ただでさえ龍一様の世話で忙しいというのに、本当にタイミングが悪いガキだ。
ピリピリした襖向こうにいる遠藤さんへ、俺は恐る恐る声を掛けた。
「失礼します、遠藤さん。龍一様がお呼びです」
「今、忙しいんだ。後にするよう言ってくれねえか」
「ですが……紫瞠柳、様がいらっしゃって……」
「柳ちゃん、だと?」
ガラッと開く襖。その間、一秒もなかった。
「あ、あの」
「一分で片付ける。俺の菓子棚から木梨印のカステラを出せ」
「え? でも、あれは明日いらっしゃる岩月様用の……」
「んなもん、煎餅で充分だ」
パタン、と閉じられる襖。その後、すぐに誰かを怒鳴りつける声が聞こえたかと思うと部屋の中でバタバタと駆け回る音が続いた。
「……なんなんだよ、あのガキ」
「おい、篠塚ぁ。悪ぃけど、客間に茶とどら焼きを用意してくれ。二人分だ」
「はい!」
俺は篠塚景司。三か月ほど前からこの真城家に奉公に来ている。
経緯としては、昔からヤンチャ坊だった俺に手を焼いた両親が、その性根を叩き直してやってくれと駆け込み寺として選んだ先がここの龍一当主だったということ。放り込まれた当初は挨拶もせずに不貞腐れ、恰好つけていた俺だったが、住み込み初めて三日目でヒイヒイと泣かされることになる。
色んな事情でこの真城家に出入りしている兄さん方がいるが、その中でも俺はなんてちっぽけな存在で、またなんてしょうもないことでひねくれていたのかということを知った。そんでもって、この当主に続きめちゃんこ厳しかったのが、遠藤さん。兄さん方の上司で龍一様の世話役でもあるこの人は、実はその背中に恐ろしい龍を飼っている。他の兄さん方も遠藤さん同様、龍やら花やらを背負っちゃいるが、遠藤さんは気迫が違う。怒らせると、超怖ぇ。
でも、こんなろくでもねえ俺でも見捨てずにいてくれた。泣いて鼻水垂らしている俺に、美味い握り飯を作ってくれた。
将来、俺はこの人の役に立ちてえ。こんな大人になるんだと、目標を定めて専門学校に通うため、日々勉強しながら色々と学ばせてもらっている。
茶の淹れ方も一から教わり、何とか人様の前に出せるようになったわけだが……
「こんにちは~! 龍一様、今日は『福ふく』の塩豆大福、買ってきましたよ~!」
時折、この家にやって来る紫瞠柳というガキが、俺はどうにも気に入らない。
高校生だというそいつは学校帰りに制服姿のまま、まるで自分の家のように真城家を自由に出入りする。見てくれはテレビの男アイドル並みに良いし、眼の中には紫のカラコンを入れて可愛い子ぶっちゃいるが、正直言ってそれだけだ。面倒見のいい龍一様が可愛がるのも、無邪気な笑顔とその見てくれだけで懐柔されているんじゃねえかと思いさえする。
他の兄さん方にしても俺や他の新参者に対して厳しいのに、あのガキ相手だと鼻の下を伸ばすようにデレデレとしている。ガキもガキで周りからちやほやされているから図に乗ってるんだろう。ヘラヘラ笑って菓子を食って、ただ日々の出来事を話してそれで終わり。この前なんか、決算時期だった。それなのに、龍一様はあのガキを客間に通したんだ。
ガキだろうがなんだろうが、高校生なら遠慮くらい教えてやってもいいだろうに。どうして皆、あのヘラヘラしているガキに弱いんだか……。
「おう、柳! 結構、早かったな~。まだ、茶が用意出来てねえよ」
「そんなわざわざ……お茶なら僕が淹れてきますよ! 塩大福もお皿に盛って客間に運ぶね」
「そうかい……篠塚! そっちはもういい。お前は遠藤を呼んで来い。柳が来たってな!」
「は……はい。呼んで参ります」
俺はやかんに湯を沸かすのを止めると、そそくさとその場を離れて遠藤さんを呼びに行った。正直、あのガキを視界に入れたくなかったから離れられてホッとした。
遠藤さんは自室に篭って仕事をしている。俺が来てすぐくらいの頃にとある店を買収しその経営を担うようになった為、昼夜忙しくしている。今もその店の方に掛かりきりで、リモートでその指揮を執っていた。
ただでさえ龍一様の世話で忙しいというのに、本当にタイミングが悪いガキだ。
ピリピリした襖向こうにいる遠藤さんへ、俺は恐る恐る声を掛けた。
「失礼します、遠藤さん。龍一様がお呼びです」
「今、忙しいんだ。後にするよう言ってくれねえか」
「ですが……紫瞠柳、様がいらっしゃって……」
「柳ちゃん、だと?」
ガラッと開く襖。その間、一秒もなかった。
「あ、あの」
「一分で片付ける。俺の菓子棚から木梨印のカステラを出せ」
「え? でも、あれは明日いらっしゃる岩月様用の……」
「んなもん、煎餅で充分だ」
パタン、と閉じられる襖。その後、すぐに誰かを怒鳴りつける声が聞こえたかと思うと部屋の中でバタバタと駆け回る音が続いた。
「……なんなんだよ、あのガキ」
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