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番外編 【シーツの波間でカメが鳴く】
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ぐったりしているせいで力が入らない僕も僕だったけど、海さんはそんな僕に羞恥心がないと思ってるんだろうか?
僕はあったかい湯船の中で海さんに後ろから抱きかかえられながら、抗議の声を上げていた。
「もう、えっち! ばか! 海さんのえっち! すけべえ! ばかー!」
「はいはい。ほら、柳。いい子だからそう暴れないで」
「どうしてそうえっちなの! えっちなの~!?」
「人間である前に雄としての本能なんだから仕方ない」
「なんか格好良く言ってるけど、えっちなのに変わりはないからね!?」
さらりと言ってのける僕の旦那さまは全然反省しておらず、どころか僕の背中を優しく撫でるように洗いながら湯船に浸からせてくれている。
お腹に巻かれている腕が普段だったら頼もしいのに、ついさっきまでの行為のせいで素直に身体を預けられないでいる。
というのも、海さんはお風呂場へ着くなり僕の身体を洗うと称してえっちに触ってきたんだから。確かに石鹸をもこもこと泡立てて丁寧に洗ってくれたけど! でもそんな触り方、普通する? ってくらいのえっちな触り方だったんだから、抗議したくもなるよ!
それに……それに、またここで射せ……うう~!
僕が怒っていると、海さんはそんなのを物ともせず、どころかけろりと。
「じゃあ、聞くけど。何がどうエッチだったの?」
って、悪びれもなく聞いてきた。振り向くと、海さんがものすご~く真顔。どうしてそんな真顔で聞けるの!?
「それはっ……だ、だって胸とか、お腹とか、脚の付け根とか……あとそう、お尻! 揉み揉みした上に中までっ……指も挿れたじゃない!」
女の子じゃないんだからそんなに脂肪がついてないし、柔らかくもないのにお尻を揉んできたんだよ。その手つきがえっちだったし、いくら先々に海さんのアレを受け入れるからって今日の今日、指を挿れなくてもいいよね!?
どうだ! と、僕が核心をついたつもりで言うと海さんは。
「洗って、揉んで、挿れて、何がいけないの?」
またもやけろりと聞き返された。何がいけないのって……いけないでしょ。え、いけないでしょ? あれ?
あまりにも悪びれのない海さんに、僕はしどろもどろになって答える。
「だ、だって……僕の反応、面白がってたし……」
「反応していたのは柳であって、オレは真面目に奥さんの身体を洗っていただけなんだけど。それをただエッチだと非難されるなんて……心外だな」
「え……?」
な、なんか雲行きが?
お湯で濡れた手で赤い前髪を掻き上げる海さんは、「はあ」と嘆息しながら現状を憂いた。
「成長痛で苦しむ奥さんを心配し介助する夫の懸命さが伝わらないとは……ああ、これほど虚しいこともないな」
「ま、待って待って。それはすごく感謝して……」
「奥さんの為に何なら食べられるだろうかと自分なりに考えながら食事を作り、食べさせた。それでも痛苦に耐える姿を目にしてどうやってこの苦しみから解放してやれるかと仕事の合間を縫って、愛らしい猫の動画を厳選に厳選を重ねてから与えてやった。その上、こうして風呂まで連れてきて、タオルは使わず手洗いで、かつ不快なところが無いよう丹念に洗ってあげたというのに……はあ」
「ご、ごめんね!? ごめっ……ごめんなさい~!」
何故か僕が謝る羽目にっ……どうしてこうなった!?
あわあわと慌てる僕に海さんは憂いの表情で僕に言った。
「じゃあ、キスしてくれる?」
「うん! ……はい!?」
その一瞬、海さんの目が光った気がした。
「言ったな?」
「いやっ、言ったつもりは……」
「はあ……」
「溜息吐かないでっ……ああ~、もう!」
半ばヤケになった僕は海さんのほっぺを両手で挟むと、顔を斜めに傾けながら海さんの唇に自分のそれを重ねた。
でも重ねただけだよ。海さんが僕にするような深いものはさすがに無理!
これだって、いっぱいいっぱいなんだから!
真っ赤になって顔を離すと、驚いた表情を浮かべる海さんが僕を見つめていた。目が合うと同時に僕は耳まで真っ赤にさせて俯くと。
「うん……満足」
そう言って僕を抱きしめてくれた。
温かくて、暖かくて。その腕の中で抱えられると、海さんの心音がトクトクと伝わって心地良かった。
それまでのものが一気に霧散されていく、不思議な安堵感。
ただ好きってだけじゃない。でも、好きなんだ。
それが溢れ返っているからこそ、伝えたくなる。
「海さん……大好き。愛してる」
ーーーー…
こうして、海さんの甲斐甲斐しくも意地悪かつえっちな介助のおかげで、翌朝ようやく成長痛が緩和された。廊下もペタペタと歩けるようになり、「これなら学校へ行けそうですね」と海さんからも太鼓判が。
良かった、と僕が一息をついて、身長を測る目安としている壁に背中をつけて見てみると。
「すごいっ! また伸びたっ!」
僕の身長は一週間前より二センチも伸びていた。
「海さん、海さん! すごいよ! また伸びたよ!」
と、嬉しい報告を大声ですると、海さんが僕を抱きしめてキスをした。
「んんっ……」
「これでまた、キスがしやすくなったな」
そう言って。
でも、その表情は穏やかに微笑んでいて。
僕の成長を本当に喜んでくれていた。
もう少し、もう少し。
僕の身体は着実に、大人へと成長していく。
END.
僕はあったかい湯船の中で海さんに後ろから抱きかかえられながら、抗議の声を上げていた。
「もう、えっち! ばか! 海さんのえっち! すけべえ! ばかー!」
「はいはい。ほら、柳。いい子だからそう暴れないで」
「どうしてそうえっちなの! えっちなの~!?」
「人間である前に雄としての本能なんだから仕方ない」
「なんか格好良く言ってるけど、えっちなのに変わりはないからね!?」
さらりと言ってのける僕の旦那さまは全然反省しておらず、どころか僕の背中を優しく撫でるように洗いながら湯船に浸からせてくれている。
お腹に巻かれている腕が普段だったら頼もしいのに、ついさっきまでの行為のせいで素直に身体を預けられないでいる。
というのも、海さんはお風呂場へ着くなり僕の身体を洗うと称してえっちに触ってきたんだから。確かに石鹸をもこもこと泡立てて丁寧に洗ってくれたけど! でもそんな触り方、普通する? ってくらいのえっちな触り方だったんだから、抗議したくもなるよ!
それに……それに、またここで射せ……うう~!
僕が怒っていると、海さんはそんなのを物ともせず、どころかけろりと。
「じゃあ、聞くけど。何がどうエッチだったの?」
って、悪びれもなく聞いてきた。振り向くと、海さんがものすご~く真顔。どうしてそんな真顔で聞けるの!?
「それはっ……だ、だって胸とか、お腹とか、脚の付け根とか……あとそう、お尻! 揉み揉みした上に中までっ……指も挿れたじゃない!」
女の子じゃないんだからそんなに脂肪がついてないし、柔らかくもないのにお尻を揉んできたんだよ。その手つきがえっちだったし、いくら先々に海さんのアレを受け入れるからって今日の今日、指を挿れなくてもいいよね!?
どうだ! と、僕が核心をついたつもりで言うと海さんは。
「洗って、揉んで、挿れて、何がいけないの?」
またもやけろりと聞き返された。何がいけないのって……いけないでしょ。え、いけないでしょ? あれ?
あまりにも悪びれのない海さんに、僕はしどろもどろになって答える。
「だ、だって……僕の反応、面白がってたし……」
「反応していたのは柳であって、オレは真面目に奥さんの身体を洗っていただけなんだけど。それをただエッチだと非難されるなんて……心外だな」
「え……?」
な、なんか雲行きが?
お湯で濡れた手で赤い前髪を掻き上げる海さんは、「はあ」と嘆息しながら現状を憂いた。
「成長痛で苦しむ奥さんを心配し介助する夫の懸命さが伝わらないとは……ああ、これほど虚しいこともないな」
「ま、待って待って。それはすごく感謝して……」
「奥さんの為に何なら食べられるだろうかと自分なりに考えながら食事を作り、食べさせた。それでも痛苦に耐える姿を目にしてどうやってこの苦しみから解放してやれるかと仕事の合間を縫って、愛らしい猫の動画を厳選に厳選を重ねてから与えてやった。その上、こうして風呂まで連れてきて、タオルは使わず手洗いで、かつ不快なところが無いよう丹念に洗ってあげたというのに……はあ」
「ご、ごめんね!? ごめっ……ごめんなさい~!」
何故か僕が謝る羽目にっ……どうしてこうなった!?
あわあわと慌てる僕に海さんは憂いの表情で僕に言った。
「じゃあ、キスしてくれる?」
「うん! ……はい!?」
その一瞬、海さんの目が光った気がした。
「言ったな?」
「いやっ、言ったつもりは……」
「はあ……」
「溜息吐かないでっ……ああ~、もう!」
半ばヤケになった僕は海さんのほっぺを両手で挟むと、顔を斜めに傾けながら海さんの唇に自分のそれを重ねた。
でも重ねただけだよ。海さんが僕にするような深いものはさすがに無理!
これだって、いっぱいいっぱいなんだから!
真っ赤になって顔を離すと、驚いた表情を浮かべる海さんが僕を見つめていた。目が合うと同時に僕は耳まで真っ赤にさせて俯くと。
「うん……満足」
そう言って僕を抱きしめてくれた。
温かくて、暖かくて。その腕の中で抱えられると、海さんの心音がトクトクと伝わって心地良かった。
それまでのものが一気に霧散されていく、不思議な安堵感。
ただ好きってだけじゃない。でも、好きなんだ。
それが溢れ返っているからこそ、伝えたくなる。
「海さん……大好き。愛してる」
ーーーー…
こうして、海さんの甲斐甲斐しくも意地悪かつえっちな介助のおかげで、翌朝ようやく成長痛が緩和された。廊下もペタペタと歩けるようになり、「これなら学校へ行けそうですね」と海さんからも太鼓判が。
良かった、と僕が一息をついて、身長を測る目安としている壁に背中をつけて見てみると。
「すごいっ! また伸びたっ!」
僕の身長は一週間前より二センチも伸びていた。
「海さん、海さん! すごいよ! また伸びたよ!」
と、嬉しい報告を大声ですると、海さんが僕を抱きしめてキスをした。
「んんっ……」
「これでまた、キスがしやすくなったな」
そう言って。
でも、その表情は穏やかに微笑んでいて。
僕の成長を本当に喜んでくれていた。
もう少し、もう少し。
僕の身体は着実に、大人へと成長していく。
END.
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