上 下
218 / 241
番外編 【シーツの波間でカメが鳴く】

しおりを挟む

 ちょっと前、旅館でえっちなことをした時、初めて海さんに指を挿れられたけれど、それだけでいっぱいいっぱいだったし……アレ、ほんとに入るのかな。

「いや?」

 僕が黙ってしまって、海さんが微苦笑する。でも、僕は首を横に振った。

「僕も、したい……」

 正直、不安は尽きないけれど、海さんとしたいって欲望はちゃんとある。たくさん経験があるだろう海さんを前にして、上手くは出来ないと思うけど。

 それでも、海さんとしたいって思うよ。

 でも、僕が大きくなるのを待つってことは、その間はどうするの? 何もしないの? 海さんは? それまで待っていられるの?

 こうやってぐるぐると考えるのは今に始まったことじゃないけれど、聞かずにはいられない。

 だって大事なことだもん。

 僕は海さんにおずおずと尋ねた。

「僕……大きくなるの、待たなきゃだめ?」

「ダメ」

「う……」

 即答だった。

 身体がまだ小さいから? 成長痛で苦しんでいるから? 海さんの思いやりと、僕の焦りが行き違ってしまっている。初めての行為は痛いし、苦しいよってことは聞いているけれど、大きくなるまで何もしないのも嫌だよ。そう思うのは、僕もえっちだからなのかな?

 そんな僕の不安も「わかっている」と、海さんは僕のほっぺを撫でた。僕は目を細めて、海さんの次の言葉を待った。

「その間、何もしないわけじゃないよ。どうしたって女とは違うし、まず柳の身体をそのように慣らしていかなきゃいけないから」

「慣らす?」

 聞き返すと、海さんがパジャマのズボン越しに僕のお尻の割れ目へと指を埋めた。

「ひゃっ」

「ここ」

 小さく悲鳴を漏らす僕に、海さんはそれ以上は何もせず、僕を気遣う口調でその想いを口にしてくれた。

「最初は指でも不快だと思う。前に旅館でした時もここに挿れただろ? あの時は指一本だったから、そこから徐々に増やしていって、慣れてきた頃に柳と繋がりたい。オレはね、柳に不快な思いも、痛い思いもさせたくないんだよ」

 真摯で深い海のような瞳で見つめられる。その瞳を見て、ようやくわかった。海さんは僕を子ども扱いしているんじゃなくて、僕と繋がる初めてを、とても大切なものにしようとしてくれているってこと。それで僕が嫌な思いをしないように、後悔しないようにって、僕よりも僕を想ってくれているんだってこと。

 海さんは意地悪だけど、すごく優しいってことを知ってるはずなのに、どうして僕は自分のことばかりしか考えられないんだろう。海さんを思っているつもりが、自分のもどかしさを満たしたいが為に言ってる我が儘に恥ずかしくなる。

 こういうの、自己中って言うんだよね。

「ごめんなさい……」

「どうして謝るの」

 謝る僕に、海さんは微苦笑する。僕の気持ちもわかっているからと、珍しく頭を撫でてくれた。

「まだまだ先だと言っていても、きっとすぐだよ。それまで、オレのことは気にしなくていいから」

「でも、海さんはどうするの? 僕にしてばかりで……その、出さない、の?」

 気にしなくていいとは言われても、やっぱり気になってしまう。海さんが本当はえっちなのもそうだけど、魅色ちゃんから海さんの性欲の餌食にならないでねって言われたことがあるくらいだし……しゃ、射精とか、大丈夫なのかな。

 僕の質問の意味がすぐにわからなかったのか、海さんは少しだけ視線を上にあげると、合点がいった様子で僕に尋ねた。

「ああ、射精の心配?」

「そんなさらっと言われても……」

 僕がいちいち恥ずかしくなってしまう単語も、海さんにとってはなんてことないみたい。これ、普通なのかなぁ?

「……今、痛みは?」

 モヤモヤしていると唐突な質問が海さんから降ってくる。痛みというのはもちろん、成長痛のことだろうけれど、どうして確認するんだろ? 怪訝に思いながらも僕は答える。

「朝よりだいぶ楽になったよ」

「そう。じゃあ……」

 グッ、と。海さんの顔が急に僕へと近くなり、少しだけ意地悪な顔になって僕に囁いた。

「今から手伝って」

「へ?」

 そう言うと海さんは僕の着ているパジャマを素早く脱がしていった。慌てて自分で脱げるよって言うと、その言葉ごとキスで塞がれる。ちゅーをされながら服を脱がされることにすごくドキドキしながら、僕はされるがままになる。口が少しだけ離れると、湿った唇で「オレのも脱がせて」と囁かれた。

 こんなにキスをたくさんされてえっちな気分になっちゃうのに、どうやって服を脱がせばいいのって突っ込みはできるはずもなく。海さんの着ているカッターシャツのボタンを、おぼつかない手つきで一つずつ外していった。

 僕がもたもたとボタンを外している間に、海さんは僕をすっかり裸にさせていた。ベッドにお尻をつけているからズボンや下着なんて脱がせにくい筈なのに。もしかしたら自然と僕のお尻が上がっていたのかもしれない。

 キスばかりされて昂り始めていた僕のアレを、海さんがそっと触れて扱くように緩やかに上下に動かす。

「……ん、あ……だめ……ぼく、ばっか……」

「ん……脱がせられない?」

「ふ、ぁ……でき、ない……やっ……」

 首を横に振ると、出ちゃいそうになるアレを止められる。意地悪をされてボロッと僕の目尻から涙が零れた。どうして止めちゃうの? 僕は海さんに泣きながら懇願した。
 
「なん、で……やあっ……やめ、ないでっ……」

「今、ここで達ったらダメ。ちゃんと気持ち良くさせてあげるから、まずはオレの服を脱がせて。上だけでいいから」

「ほん、と……?」

「ほら、手を動かして」

「ん……」

 僕はゆっくりと指を動かして、ボタンを全て外し終えると、海さんの身体からカッターシャツを脱がそうと襟元から剥がした。でも、当然海さんの腕は海さんの協力なしじゃ脱がせられないわけで。筋肉がしっかりとついた肩のところまで捲ると、「もうできない」と音を上げた。最後まで出来なかった僕に、海さんは満足そうに微笑むと、「よくできました」と僕を褒めた。

 そして海さんは一旦、僕から手を離すと自分の身体からカッターシャツを剥ぎ取った。上半身だけ裸になった海さんの身体を、僕は見上げる形で眺めると、急に顔が熱くなってきて咄嗟に両目を手で隠した。男同士なんだし、裸を見たってどうってことはないはずなんだけど、どうしてか海さんの身体は直視出来ないでいる。あれはたぶん、そう。二年前からだ。海さんが実はダラダラで、夏場は上半身だけ裸で過ごすことを知ってから、なんだか見ちゃいけないものを見てしまう気がして両目を隠してしまう。

 なんでかな。でも、それはたぶん海さんが綺麗だからだ。どこからどう見ても、それを汚いと思う人はいないんじゃないかなってくらい、綺麗な身体をしている。僕みたいな細さじゃなくて、締まっているのに彫刻のような筋肉がところどころ浮き出ていて、お腹のあたりも惚れ惚れとしてしまう筋をくっきりと作っていた。

 そんな僕の様子を海さんは苦笑して。

「前も目を隠していたけれど……オレの身体、そんなに珍しいか?」

 そう尋ねた。そりゃそうだよね。身体が露わになって目を塞がれては、自分の身体に何かあるのかもって思っちゃうよね。でも、違うんだよってことを僕は首を横に振りながら弁明する。

「綺麗だなって思うの。だから、ちゃんと見れなくて……」

 たどたどしい物言いに海さんは気分を害さなかったみたい。どころか僕の目元にある手を優しく外しながら微笑んだ。

「柳の方が綺麗だよ」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【続編】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!

胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。  主に5大国家から成り立つ大陸である。  この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。  この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。 かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。 ※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!) ※1話当たり、1200~2000文字前後です。

運命の人じゃないけど。

加地トモカズ
BL
 αの性を受けた鷹倫(たかみち)は若くして一流企業の取締役に就任し求婚も絶えない美青年で完璧人間。足りないものは人生の伴侶=運命の番であるΩのみ。  しかし鷹倫が惹かれた人は、運命どころかΩでもないβの電気工事士の苳也(とうや)だった。 ※こちらの作品は「男子高校生マツダくんと主夫のツワブキさん」内で腐女子ズが文化祭に出版した同人誌という設定です。

処理中です...