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番外編【お正月編 海side】

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 ーーーー…



「……はぁ、はぁ……ひっく……、ん……」

「柳……そんなに美味しい?」

「はぁ……ん……、ぺろ……う、ん……おいし……」

「そう。じゃあ、交替」

「んっ、む~……! やだぁ……まだ、足りないよ……」

「それはオレも同じだ。全然、足りない」

「やっ、や~!」

 ギシリと軋むベッドの上で。

 オレは自分の妻である、まだ幼い少年の体躯を組み敷いた。衣服はぐちゃぐちゃに乱れており、人前には決して出られない姿の妻。しかしれっきとした男であり、来年度には大学を受験することのできる年齢だ。だが、同じ年頃の男と比べれば身体が未成熟のため、実年齢よりもうんと幼く見える。

 傍から見れば、嫌がる少年を押し倒しているこの様は警察に通報をされても文句は言えない構図といえるのだが、夫婦であるという前提を取り去っても、ここに至る経緯を説明すれば、無理強いは一切していないとわかってもらえることだろう。

 そう。時刻は今より、1時間ほど前に遡るだろうか。

「ん、や……、海さんっ……僕、まだ……」

「ああ。悪い。放りはしないから、そう泣くな」

「ふぇっ……ひっく……」

 ポロポロと涙を零す様は、何とも言えない感情にさせる。背徳感、とでも言うのだろうか?

 そしてもしもこれを、他の男に見せていたらと思うと、無性に腹立たしくもなってくる。

 まぁ、泣いている理由も、泣かせている理由も。

 呆れてしまうほど馬鹿らしいものなのだが。



 1時間前。



「おっかわり~♪」

「おうおう。いい飲みっぷりだなぁ! ほら、た~んと飲め! ぐいっと飲め!」

「あいっ! しどうりゅう! いっきしま~す!」

 上下ジャージ姿の柳は腰に手を当て、まるで風呂上りの牛乳瓶を一気に飲み干してしまうように、瓶ビールをごくごくと飲み始めた。

 法律では飲むことを禁止されている年齢で、通常ならば周りにいる大人も含め止めなければならない所なのだが、あまりにも意外な一面を目にしてしまったため、とりあえず様子見をしようという結論に至った。

「ぷぁっ! びーるおいしい~! えへへへ~」

「おう! 次は焼酎いってみるか!」

「いってみる~!」

 酒好きの真城が喜んで柳に酒を注ぐ。柳はというと、酔っ払って呂律も回っていない様子だが、酒が何でも美味いようで止まることなく、次から次へと注がれていく酒をがぶがぶと飲み干していく。

 オレの妻は酒好きだった。

「面白いだろ、此奴。ちょっといじくったら、すぐに乗っかってくるし」

「以前にも飲ませていたんですね」

「前のは事故だ。水と間違えて飲んじまった結果だ」

「同じでしょう」

「けれど、こんな楽しいくせに、一端寝たら飲む前と飲んだ後のことをすっかり忘れるんだぜ」

「はぁ……」

 駄目な大人が何かをほざいている。

 甘酒を作っているあの魅色が目にしたら、さらに煩くなるというのに。

「ああ~!! なんてことなの!?」

 ほら来た、煩い。

「柳ちゃんにお酒を飲ませるなんて、貴方たち! いったい何を考えているのよ!?」

「甘酒はできたのか?」

「できたわよ! けどそんなことよりっ、貴方たち、大人のくせして何てことしたの! 早く止め……」

「みいろちゃん。おさけ、おいしいよ~♪ 一緒に飲も~♪ えへへへ~」

「何この可愛い子! 着せ替えしたくなるほど可愛すぎるじゃない!」

「ああ、前に酒を飲ませた時にお前、自分の振袖着せて柳を着せ替え人形にして遊んでやがったな」

 よし決めた。コイツ等と縁を切ろう。そうしよう。

「写真撮ってあるから、今度画像を送ってやる。すげえ可愛いぞ」

 ふむ……真城は一時保留にしておいてやるか。

「みいろちゃんも、いっしょにのも? ね?」

「や~ん! 飲む~」

「……! それに触れないでください。魅色」

 魅色が柳に近づこうとした瞬間、オレは彼女の手首を掴んで制止した。いくらこの子がこの女と友好関係にあるといっても、男と女だ。しかも片方は酔っ払っていて無防備にも程がある有様だ。易々と近づけるわけにはいかない。

 すると、掴まれた魅色はキッとした鋭い眼光でオレを睨んできた。

「何よ。柳ちゃんが貴方の妻だから? 言っておきますけどね、私は貴方たちの関係を認めたわけじゃなくってよ」

「認めていなくとも、ソレは私のモノです。自分のモノに易々と触れられるのは非情に不愉快だ」

「もの~? ぼく、ものなの~? おぶじぇなの~? えへへへ~♪」

「ああ、物だな。よかったな~柳。そこの赤髪美形に貰われたぞ」

「やった~! ぼく、かいさんにもらわれてうれしい~! おいわいにもういっぱい!」

「おう飲め飲め!」

「あいっ! いっきしま~す!」

「「……」」

 やはり、そろそろ止めるべきだろうか?

「柳。それ以上は止めなさい。体に触ります」

「ええ~? やだ~。ぼく、まだのめるもん~」

 珍しくも。駄々をこねる子どものように、一升瓶を腕に抱えて離さない様を見せる柳。いやいやと首を横に振って、しかし顔だけはふにゃふにゃと笑っている。普段ならこんな姿、決して見せることはないが、酔っ払いはこんなものかと、興味を別の方へ持っていくことにする。

「魅色の甘酒を待っていたのでしょう? そっちの酒はやめて、甘酒にしなさい」

「あま、ざけ……」

「そう。甘酒」

「うん! あまざけにまぜてのむ! ぼく、ちゃんぽんする!」

 駄目だこれは。

「柳。甘酒だけにして、それはこちらに渡しなさい」

「かいさんもいっしょにのも? うわばみごろし、おいしいよ。ぼく、かいさんについであげるね」

「私ももう止めにします。だからお前も……」

「ねぇ、かいさん……だめ?」

「……」

 目を潤ませて上目遣いで頼まれた。

「かいさん……ぼくといっしょに、のも?」

「……」

 今度は首を傾げてきた。

「ね?」

「……一杯だけですよ」

「飲むのかよ」

「でも、許しちゃうわよね。これは」

 あと一杯で止まるのなら、付き合おう。

 オレは柳にグラスを差し出した。
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