上 下
180 / 241
その命あるかぎり…誓えますか?

20

しおりを挟む
「ピザ……」

 どうにかこうにか、車まで辿り着けた僕たち。静かな地下駐車場、その車の中でおにいさんが運転席側に座ると、隣の助手席側に座ってシートベルトを締める僕に呟いた。

「家で取るか。お前が好きなデリバリーの」

 本格的なピザではなく、蒼さんのお家でよく取っていたファーストフード。それをおにいさんは食べようと僕に提案してくれた。

 僕はピザが大好きだからもちろん、嬉しいんだけど……

「いいの? おにいさん、ああいうのあんまり好きじゃないんじゃないの?」

 蒼さんの不摂生を顰めっ面で叩いていたおにいさんだ。釜で焼くようなマルゲリータならともかく、デリバリーピザは毛嫌っている筈なのに。

 でもおにいさんは首を横に振った。

「あそこに人を呼ぶのが好きじゃないだけだから。食べ物は別に……毎日食べるわけでもなし」

 それは確かにそうだね。普段は僕が作るから油ものは少ないし、お野菜や海藻類、お豆なんかも多めだし。

 僕は指で円を作って大きく広げてみせた。

「こういうLサイズのピザ、頼んでいい? チーズたくさんの!」

 とろけるやつ! そう聞くと、おにいさんが小さく笑った。

「いいよ。セレクトは任せる」

「やったぁ!」

 マルゲリータは残念だったけど、食べ慣れているピザが食べられるということでテンションは最高潮! 僕は車の中で手を上げて喜んだ。

 その時……

 おにいさんが僕の肩を自分へと抱き寄せて、僕のほっぺにキスをした。

「ひゃっ?」

 突然のその行為に、僕は驚いて悲鳴を上げつつ、キスをされた方のほっぺを手で抑えた。

 急に恥ずかしくなって、真っ赤な顔でおにいさんへと尋ねる。

「な、なっ、なんでっ、ちゅーするのっ?」

 こういうのは女の子にするものじゃないのっ? 兄弟だから? おにいさん、アメリカンなの!?

 すると、涼しげな顔でおにいさんは答えてくれた。

「したかったから」

「したかったからって……」

 僕、もう高校生になる歳の男なのに……兄弟ってこんなもの? 恥ずかしがっていたのが僕だけだとわかると、さらに恥ずかしさが増して俯いてしまう。

 そんな僕の気も知らないでか。おにいさんは僕を見ながら平気で聞いてくる。

「お前は誰かとしないの?」

「えっ……ちゅ、ちゅーのこと?」

 おにいさんはコクリと一つ頷く。そんなポンポンやるものじゃないような気がするんだけど……特にこの日本では。

 そう思いつつも、僕は改めて数少ない僕のキス遍歴を思い返す。

「ん……友達、とか?」

「友達?」

「circus」のメンバーだけど、仲良くなるとみんなテンションが上がるからか、ふざけてキスをしたりする。僕はどちらかといえばされる方なんだけど、そういや全員としたことあるなぁ。

 僕はおにいさんへ正直に答えた。

「うん、友達。でも、同学年の男の子が多いよ。女の子とはそんなに……って、おにいさん。顔がすごく怖いよ!?」

 なんで怖くなるの!? 聞かれたから答えただけなのに! どうしてそんな眉間に皺が寄るの!?

「でも……でも、ちゅってするやつだよ? ほっぺに」

「へえ……」

 どうしてそう、素っ気ないの? 僕、何か悪いこと言った!?

 おにいさんが不機嫌になっていく理由がわからない。僕がキスをしたことがあるのがだめだったのかな……でも、キスって制限とかないよね。悪いことしてるわけじゃ、ないよね?

 何がいけなかったのかわかってないけれど、おにいさんにこれ以上機嫌を悪くして欲しくない僕はダメ元であることを聞いてみた。

「お、大人がするやつはしたことないから……わかんないよ。あれってどうやるの?」

 いわゆるベロチュー。流石に経験はないそれだけど、おにいさんは大人だしきっとあるんだろう……あんまり考えたくはないけど。

 おにいさんを見上げると、眉間の皺だけは無くしてくれていた。良かった……。

 ちなみに、その僕の問いかけに対してのおにいさんの答えはといえば。

「ただ重ねるだけ」

 と、流石に僕でもわかる答えを返してきた。

「子供だからって馬鹿にしてるでしょ」

「何だ。知ってるのか」

 わざとらしい。すっごくわざとらしく、おにいさんは驚いてみせた。子供子供って馬鹿にして……こんにゃろう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

辺境に住む元Cランク冒険者である俺の義理の娘達は、剣聖、大魔導師、聖女という特別な称号を持っているのに何歳になっても甘えてくる

マーラッシュ
ファンタジー
俺はユクト29歳元Cランクの冒険者だ。 魔物によって滅ぼされた村から拾い育てた娘達は15歳になり女神様から剣聖、大魔導師、聖女という特別な称号を頂いたが⋯⋯しかしどこを間違えたのか皆父親の俺を溺愛するようになり好きあらばスキンシップを取ってくる。 どうしてこうなった? 朝食時三女トアの場合 「今日もパパの為に愛情を込めてご飯を作ったから⋯⋯ダメダメ自分で食べないで。トアが食べさせてあげるね⋯⋯あ~ん」 浴室にて次女ミリアの場合 「今日もお仕事お疲れ様。 別に娘なんだから一緒にお風呂に入るのおかしくないよね? ボクがパパの背中を流してあげるよ」 就寝時ベットにて長女セレナの場合 「パパ⋯⋯今日一緒に寝てもいい? 嫌だなんて言わないですよね⋯⋯パパと寝るのは娘の特権ですから。これからもよろしくお願いします」 何故こうなってしまったのか!?  これは15歳のユクトが3人の乳幼児を拾い育て、大きくなっても娘達から甘えられ、戸惑いながらも暮らしていく物語です。 ☆第15回ファンタジー小説大賞に参加しています!【投票する】から応援いただけると更新の励みになります。 *他サイトにも掲載しています。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。 そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。 悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。 「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」 こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。 新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!? ⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎

前世水乙女の公爵令嬢は婚約破棄を宣言されました。

克全
恋愛
「余はカチュアとの婚約を破棄する」  王太子殿下に一方的に婚約を破棄されたのは、公爵家令嬢のカチュア・サライダだった。  彼女は前世の記憶を持って転生した、水乙女という、オアシス王国にはなくてはならない存在だった。  精霊に祈りを捧げ、水を湧かせてもらわないと、国が亡ぶのだ。  だが事情があって、カチュアは自分は水乙女であることを黙っていた。  ただ、愛する人や民の為に祈り続けていた。  カチュアとの婚約解消を言い放った王太子殿下は、自分に相応しい相手は水乙女しかいないと、一人の女性を側に侍らせるのだった。

もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

乙女ゲーム?悪役令嬢?王子なんて喜んで差し上げます!ストーカーな婚約者など要りません!

愛早さくら
恋愛
リジーは公爵令嬢だ。当然のように幼い頃から、同じ年の王太子スペリアの婚約者だった。 よくある政略結婚。 しかしリジーは出来ればスペリアから逃れたいと思っていた。何故なら……――スペリアがリジーの、とんでもないストーカーだったからだった……。 愛が重いを通り越して明確にストーカーな婚約者スペリアから逃れたいリジーの的外れな暗躍と、それを凌駕するスペリアのストーカー力! 勝つのはどっちか? 今、滑稽な戦いが幕を開ける……! ・キャプションには語弊があります。 ・基本的にはコメディベースの明るい印象のお話にするつもりです! ・地味に他の異世界話と同じ世界観。 ・魔法とかある異世界が舞台。 ・CPは固定です。他のキャラとくっつくことはありません。 ・当て馬イッパイぱらだいす。 ・主人公は結局ストーカーからは逃れられませんが多分ハッピーエンド。

処理中です...