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その命あるかぎり…誓えますか?

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 おにいさんのお家に帰宅すると、すでにおにいさんが私服に着替えて待っていた。普段がスーツだからか、私服姿が珍しくって、思わず「誰!?」と言ってしまった。若いお兄さんが着るようなカッコいいジャケットなんてこの家にあったの? 初めて見たよ。髪型も少し変わってるし。

 でもこの僕の反応がよろしくなかったのか、おにいさんが。

「スーツの方が落ち着くなら着替えるけど」

「はっ!? ううん! そのままでいいよ! えっと、なんていうかね……うん。格好いいよ、うん!」

「取って付けたような言い方をされてもな」

「わー! 脱がないでっ! そのままでいいから……お腹出さないでっ! ごめんなさい~!」

 という、めんどくさいやり取りがあったけれど。

 おにいさんの機嫌が直ったところで、僕も制服姿だったから着替えてくるねと部屋に入るところを、手を掴まれて止められた。そのままズルズルと引き摺られるようにお家を出されて、地下駐車場にある車の下まで連れていかれ……

「おにいさん、僕まだ制服……」

「向こうで新調するから。その時に着替えなさい」

 ってなわけでマルゲリータのあるお店へ行くこととなった。このおにいさんペースにも、すっかり慣れてきていた僕はしっかりとシートベルトを締めた。

 行き先は高級感漂う大きなホテルだった。ショッピングモールが併設されているからか、とても大きな外観の。この中にある有名ファッションブランドのお店の内の一つに、僕はおにいさんによって放り込まれた。文字通り、放り込まれた。

 身なりを綺麗にされているお姉さんスタッフさんが笑顔で僕を迎えてくれて、そのままトータルコーディネートが始まった。あれもこれも、どんどんと高そうな服たちが出されて積まれていき、最終的にそのお姉さんが仕上げたコーディネート全部をおにいさんがプレゼントしてくれた。僕の誕生日でもないのに。

「お髪の色が綺麗ですから、よくお似合いですよ」

 って、お姉さんスタッフさんが僕の着ていた制服をこれまた高級感漂う上質な紙袋に入れて渡してくれた。会計を済ましたおにいさんに、僕は感想を聞いてみた。

「僕、変じゃない? 似合うかな?」

 上下は黒のロングTシャツとパンツで格好いいけど、腰にチェックの巻きスカートがあるから格好だけなら可愛らしい感じになった僕。おにいさんのお下がりが元々お洒落な服ばかりだから、今回のこれも特別にお洒落というわけではなかったけれど、お下がりじゃなくて僕に合わせてくれたものだったからどうなのかなって。

「おにいさん?」

 おにいさん、ジッと見るだけで何にも言ってくれない。にこりともしない。もしや……いまいち!? お姉さんスタッフさんは褒めてくれたけど、おにいさんは気に入らなかったのかも……!

「駄目なら別のに着替えてくる……」

「え? ああ……よく似合ってる」

「嘘だぁ!」

 取って付けたように言われてもっ、素直に受け取れないよっ!

 むすっと自然にほっぺが膨らむ。唇も尖らせて、きっとおにいさんには不細工に映っていることだろう。それでも何だかそうしないと気が済まなかったんだ。

 それを見て、お姉さんスタッフさんが口許に手を当ててクスクスと笑ってる。う……やっぱり不細工なんだぁ……

 それに対し、おにいさんはといえば。

「似合ってるって。そうむくれるな……可愛い」

「ふんだ! ……って、へっ?」

 いまっ、いま何て言ったの!?

 パッと表情を崩しておにいさんを見上げると、いつものようにほっぺを摘まんでのーびのーびしてくる。

「ひょっ、ひょっほぉ!」

「もう少し背が伸びたら、格好良く着こなせる。その時はまた新調しよう」

 みょんっとほっぺから手を離すと、おにいさんはお店から外へ出てしまった。僕は慌てて追いかける。

 そしておにいさんの袖をクイクイと引っ張った。

「背、伸びるかなっ?」

「父親はともかく、お前の母親は北欧人とのハーフだから。彼女も身長は高かったと記憶している。伸び代はあるだろ」

「僕のお母さん、ハーフさんだったの!?」

「知らなかった?」

 し、知らなかったっ……でもそっか。そうだよね。お父さんが日本人ならお母さんの血筋がそうだよね。だって僕の目、紫だもん。

 ん? 高かったと記憶しているってことはもしかしておにいさん……会ったことあるの?

「綺麗な女性だったよ。品もあって、聡明で。何故、あの母と友人であるのか不思議なくらい」

 おにいさん、何気に璃々子さんのことを悪く言ってない……?

 でも、そっか。お母さん、素敵な人だったんだねぇ。一度だけお写真を見せてもらったことがあるけど、僕が小さい頃だったからあんまり覚えてなくて。

 お母さん……会ってお話してみたかったなぁ。

「恋しいか?」

 僕がどんな顔をしていたのか、おにいさんが僕に優しく尋ねた。けれど僕は首を横に振った。

「おにいさんや蒼さんたちがいるから、恋しいって思う暇もないよ」

 そう言うと、おにいさんが僕の手を握って歩いてくれた。初めてのことでびっくりしたし、物凄く恥ずかしかったけれど……

 嬉しくて、特別だと思える時間だった。
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