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その命あるかぎり…誓えますか?

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 季節は秋になった。蒼さんの体調はなかなか良くならず、入院は長引くことになった。

 僕はお見舞いを二日に一度というペースで行っていた。今回は面会謝絶にもならなかったから、ほぼ毎日のように蒼さんのお見舞いに来ている璃々子さんにお茶菓子を出してもらって駄弁るという、いったい何しに来ているのかわからない感じで過ごしていた。

 僕が来ると、蒼さんは大抵寝ていた。きっと夜更かしばかりしているんだろう。この時も、蒼さんはぐーすかちんに眠っていた。

「……でね、あの子もどういう心境の変化なのかしら? あれだけどうでもいいって調子で返事してたのに、別に決められた相手と結婚しなくてもいいだろって。絶対に女ね。あれだけたくさんの子を侍らせてたんだもの。きっと本命の子が出来たんだわ。あ~良かったわぁ!」

「璃々子さんは、おにいさんが誰かと結婚してくれたら、嬉しい?」

「そりゃあね。誰の子かしらってくらい見目よくデカくなった息子だけど、これだと思った相手と生きていって貰えるなら、親としてこれほど嬉しいこともないわ。婚約の件にしても舞い上がってるのは向こうの父親くらいだし、相手の女の子さえ傷つかなければ私としてはOKよ」

「そっか……」

「そして孫の顔を見るのが私の夢ね~。男の子かしら、女の子かしら? どっちも可愛いわよね~。柳ちゃん、叔父さんになるのよ。楽しみね~。あら、私ったら先走りすぎ? いやだわ。すっかりおばちゃんになっちゃった!」

 当然お話の内容はおにいさんとの生活についてになる。そしてその場にはいないおにいさんに対するあれこれ。僕は璃々子さんが語るおにいさんのお話は好きだけれど、おにいさんの結婚の話はあんまり好きじゃなかった。

 孫の顔が見たいと言った璃々子さんに、僕は胸が締め付けられるようだったから。璃々子さんが夢だと語る気持ちはきっと、大好きな蒼さんも抱いているはずだから。

 だとしたら、ここで勝手に寂しくなる僕の気持ちなんて些細なことなんだろう。だって僕は、おにいさんに好きだとも何とも言われていない。僕が抱く想いを、おにいさんが抱いているだなんて保証もないんだから。

 ただ弟として、もしくは遊べる相手が出来ただけ。そうかもしれない。

 璃々子さんから嬉しそうにおにいさんの変化を聞くたびに、僕はおにいさんと一緒にいたい気持ちと、離れなければならないのではないかという相反する気持ちに、悩み始めていた。

「じゃあ、僕もう帰るね。おにいさんも今日は早く帰れるって言ってたから、美味しいピザを食べさせてくれるって。外食するんだよ」

「病人の前で外食の話なんかすんじゃねえよ。ぶっ殺されてえか」

「あら、貴方起きてたの?」

 帰り仕度をする時、蒼さんがベッドに横になりながら不愉快そうな声音で喋った。僕は視線を逸らしながら、舌をペロリと出した。

 そんな僕を見ているのか見ていないのか。蒼さんがぶっきら棒に言葉を投げ掛けた。

「あんまり彼奴に懐くなよ。あの手この手で飴を出してくる奴だ。切り捨てる時は容赦がねえぞ」

「もう! 自分の息子のことをそういう風に言うもんじゃないわよ。この子はあの子の弟なんだから」

 弟。その言葉に、僕はどんな顔を浮かべたんだろう?

 蒼さんが珍しく僕に、「どうした?」と聞いた。

 僕は首を横に振ってにこりと笑った。

「何でもないよ」

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