177 / 241
その命あるかぎり…誓えますか?
17
しおりを挟む
季節は秋になった。蒼さんの体調はなかなか良くならず、入院は長引くことになった。
僕はお見舞いを二日に一度というペースで行っていた。今回は面会謝絶にもならなかったから、ほぼ毎日のように蒼さんのお見舞いに来ている璃々子さんにお茶菓子を出してもらって駄弁るという、いったい何しに来ているのかわからない感じで過ごしていた。
僕が来ると、蒼さんは大抵寝ていた。きっと夜更かしばかりしているんだろう。この時も、蒼さんはぐーすかちんに眠っていた。
「……でね、あの子もどういう心境の変化なのかしら? あれだけどうでもいいって調子で返事してたのに、別に決められた相手と結婚しなくてもいいだろって。絶対に女ね。あれだけたくさんの子を侍らせてたんだもの。きっと本命の子が出来たんだわ。あ~良かったわぁ!」
「璃々子さんは、おにいさんが誰かと結婚してくれたら、嬉しい?」
「そりゃあね。誰の子かしらってくらい見目よくデカくなった息子だけど、これだと思った相手と生きていって貰えるなら、親としてこれほど嬉しいこともないわ。婚約の件にしても舞い上がってるのは向こうの父親くらいだし、相手の女の子さえ傷つかなければ私としてはOKよ」
「そっか……」
「そして孫の顔を見るのが私の夢ね~。男の子かしら、女の子かしら? どっちも可愛いわよね~。柳ちゃん、叔父さんになるのよ。楽しみね~。あら、私ったら先走りすぎ? いやだわ。すっかりおばちゃんになっちゃった!」
当然お話の内容はおにいさんとの生活についてになる。そしてその場にはいないおにいさんに対するあれこれ。僕は璃々子さんが語るおにいさんのお話は好きだけれど、おにいさんの結婚の話はあんまり好きじゃなかった。
孫の顔が見たいと言った璃々子さんに、僕は胸が締め付けられるようだったから。璃々子さんが夢だと語る気持ちはきっと、大好きな蒼さんも抱いているはずだから。
だとしたら、ここで勝手に寂しくなる僕の気持ちなんて些細なことなんだろう。だって僕は、おにいさんに好きだとも何とも言われていない。僕が抱く想いを、おにいさんが抱いているだなんて保証もないんだから。
ただ弟として、もしくは遊べる相手が出来ただけ。そうかもしれない。
璃々子さんから嬉しそうにおにいさんの変化を聞くたびに、僕はおにいさんと一緒にいたい気持ちと、離れなければならないのではないかという相反する気持ちに、悩み始めていた。
「じゃあ、僕もう帰るね。おにいさんも今日は早く帰れるって言ってたから、美味しいピザを食べさせてくれるって。外食するんだよ」
「病人の前で外食の話なんかすんじゃねえよ。ぶっ殺されてえか」
「あら、貴方起きてたの?」
帰り仕度をする時、蒼さんがベッドに横になりながら不愉快そうな声音で喋った。僕は視線を逸らしながら、舌をペロリと出した。
そんな僕を見ているのか見ていないのか。蒼さんがぶっきら棒に言葉を投げ掛けた。
「あんまり彼奴に懐くなよ。あの手この手で飴を出してくる奴だ。切り捨てる時は容赦がねえぞ」
「もう! 自分の息子のことをそういう風に言うもんじゃないわよ。この子はあの子の弟なんだから」
弟。その言葉に、僕はどんな顔を浮かべたんだろう?
蒼さんが珍しく僕に、「どうした?」と聞いた。
僕は首を横に振ってにこりと笑った。
「何でもないよ」
僕はお見舞いを二日に一度というペースで行っていた。今回は面会謝絶にもならなかったから、ほぼ毎日のように蒼さんのお見舞いに来ている璃々子さんにお茶菓子を出してもらって駄弁るという、いったい何しに来ているのかわからない感じで過ごしていた。
僕が来ると、蒼さんは大抵寝ていた。きっと夜更かしばかりしているんだろう。この時も、蒼さんはぐーすかちんに眠っていた。
「……でね、あの子もどういう心境の変化なのかしら? あれだけどうでもいいって調子で返事してたのに、別に決められた相手と結婚しなくてもいいだろって。絶対に女ね。あれだけたくさんの子を侍らせてたんだもの。きっと本命の子が出来たんだわ。あ~良かったわぁ!」
「璃々子さんは、おにいさんが誰かと結婚してくれたら、嬉しい?」
「そりゃあね。誰の子かしらってくらい見目よくデカくなった息子だけど、これだと思った相手と生きていって貰えるなら、親としてこれほど嬉しいこともないわ。婚約の件にしても舞い上がってるのは向こうの父親くらいだし、相手の女の子さえ傷つかなければ私としてはOKよ」
「そっか……」
「そして孫の顔を見るのが私の夢ね~。男の子かしら、女の子かしら? どっちも可愛いわよね~。柳ちゃん、叔父さんになるのよ。楽しみね~。あら、私ったら先走りすぎ? いやだわ。すっかりおばちゃんになっちゃった!」
当然お話の内容はおにいさんとの生活についてになる。そしてその場にはいないおにいさんに対するあれこれ。僕は璃々子さんが語るおにいさんのお話は好きだけれど、おにいさんの結婚の話はあんまり好きじゃなかった。
孫の顔が見たいと言った璃々子さんに、僕は胸が締め付けられるようだったから。璃々子さんが夢だと語る気持ちはきっと、大好きな蒼さんも抱いているはずだから。
だとしたら、ここで勝手に寂しくなる僕の気持ちなんて些細なことなんだろう。だって僕は、おにいさんに好きだとも何とも言われていない。僕が抱く想いを、おにいさんが抱いているだなんて保証もないんだから。
ただ弟として、もしくは遊べる相手が出来ただけ。そうかもしれない。
璃々子さんから嬉しそうにおにいさんの変化を聞くたびに、僕はおにいさんと一緒にいたい気持ちと、離れなければならないのではないかという相反する気持ちに、悩み始めていた。
「じゃあ、僕もう帰るね。おにいさんも今日は早く帰れるって言ってたから、美味しいピザを食べさせてくれるって。外食するんだよ」
「病人の前で外食の話なんかすんじゃねえよ。ぶっ殺されてえか」
「あら、貴方起きてたの?」
帰り仕度をする時、蒼さんがベッドに横になりながら不愉快そうな声音で喋った。僕は視線を逸らしながら、舌をペロリと出した。
そんな僕を見ているのか見ていないのか。蒼さんがぶっきら棒に言葉を投げ掛けた。
「あんまり彼奴に懐くなよ。あの手この手で飴を出してくる奴だ。切り捨てる時は容赦がねえぞ」
「もう! 自分の息子のことをそういう風に言うもんじゃないわよ。この子はあの子の弟なんだから」
弟。その言葉に、僕はどんな顔を浮かべたんだろう?
蒼さんが珍しく僕に、「どうした?」と聞いた。
僕は首を横に振ってにこりと笑った。
「何でもないよ」
0
お気に入りに追加
575
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
スキル『日常動作』は最強です ゴミスキルとバカにされましたが、実は超万能でした
メイ(旧名:Mei)
ファンタジー
この度、書籍化が決定しました!
1巻 2020年9月20日〜
2巻 2021年10月20日〜
3巻 2022年6月22日〜
これもご愛読くださっている皆様のお蔭です! ありがとうございます!
発売日に関しましては9月下旬頃になります。
題名も多少変わりましたのでここに旧題を書いておきます。
旧題:スキル『日常動作』は最強です~ゴミスキルだと思ったら、実は超万能スキルでした~
なお、書籍の方ではweb版の設定を変更したところもありますので詳しくは設定資料の章をご覧ください(※こちらについては、まだあげていませんので、のちほどあげます)。
────────────────────────────
主人公レクスは、12歳の誕生日を迎えた。12歳の誕生日を迎えた子供は適正検査を受けることになっていた。ステータスとは、自分の一生を左右するほど大切であり、それによって将来がほとんど決められてしまうのだ。
とうとうレクスの順番が来て、適正検査を受けたが、ステータスは子供の中で一番最弱、職業は無職、スキルは『日常動作』たった一つのみ。挙げ句、レクスははした金を持たされ、村から追放されてしまう。
これは、貧弱と蔑まれた少年が最強へと成り上がる物語。
※カクヨム、なろうでも投稿しています。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
乙女ゲーム?悪役令嬢?王子なんて喜んで差し上げます!ストーカーな婚約者など要りません!
愛早さくら
恋愛
リジーは公爵令嬢だ。当然のように幼い頃から、同じ年の王太子スペリアの婚約者だった。
よくある政略結婚。
しかしリジーは出来ればスペリアから逃れたいと思っていた。何故なら……――スペリアがリジーの、とんでもないストーカーだったからだった……。
愛が重いを通り越して明確にストーカーな婚約者スペリアから逃れたいリジーの的外れな暗躍と、それを凌駕するスペリアのストーカー力!
勝つのはどっちか?
今、滑稽な戦いが幕を開ける……!
・キャプションには語弊があります。
・基本的にはコメディベースの明るい印象のお話にするつもりです!
・地味に他の異世界話と同じ世界観。
・魔法とかある異世界が舞台。
・CPは固定です。他のキャラとくっつくことはありません。
・当て馬イッパイぱらだいす。
・主人公は結局ストーカーからは逃れられませんが多分ハッピーエンド。
闇を照らす愛
モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。
与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。
どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。
抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる