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その命あるかぎり…誓えますか?

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 にこって笑ってみせる。同時に、不愉快だって言われてたことを思い出した。ハッとして口元を両手で抑えるけれど、時既に遅し、だよね。思いっきり見られちゃったし。そもそも笑わないでいることって、難しくない? もう何度か見られてるし、いいかなぁ? わざわざ隠さなくても。

 う~ん、と口元を抑えたまま考えていると、おにいさんがどうやらずっと気になっていたことを聞いてきた。

「それより、貴方。その髪は一生それでいくのですか?」

「髪? あ、金髪のこと? うーん、そうだね。流石に受験するとなると、一旦戻した方がいいよね。長さも短くしなくちゃ……」

 散々女の子に間違われてきたし、賭けに負けて続けていたこととはいえ、そろそろ戻さなきゃいけないよねぇ。賭けの内容はやっぱり思い出せないけれど、きっかけは眼の色だった。

 紫の眼なんて、滅多にあるものじゃないらしい。でも、その稀な色を持って生まれた僕は、それだけで目立つんだって。加えて、お母さんに似た顔立ちだから、お父さんを余計に悲しませる結果になってしまったんだけど……僕はこの色があまり好きになれなかった。黒かった時は前髪を伸ばして隠すようにしていた。人からあまり、見られないようにって。

 そんな僕に、蒼さんは「ならいっそのこと、派手にやっちまえ」と。当初は金髪なんてそんな髪を傷める様なことを! と、璃々子さんからも反対されたんだけど、結局のところ賭けに負けて、金髪になった僕を目にして「ぐっじょぶ!!」と親指を立てられ許されたっていう。学校も校則が緩かったから、金髪にしても何も言われないどころか好評だったし、僕にとっても眼の色より金髪に目がいって欲しいのは山々だったからそれからずっと定着しちゃったんだよね。

 すっかり長くなった髪を一房、摘まみながら毛先の色を見ていると、おにいさんにはそれを僕が渋っているように見えたらしい。

「髪色に拘りでも?」

 と、尋ねてきた。僕は首を横に振った。

「拘りはないんだけど、中学に上がってからずっとこれだったから落ち着いてきちゃって……急に変えるとなると、友達やボランティア先の人たちがびっくりするかなーって」

「ボランティア?」

 あ、そうか。おにいさんは知らないんだっけ。

「学生のね、ボランティアサークルを作ったんだ。どうしてか、不良さんたちに追いかけられることが多いんだけどね」

 これもきっかけは蒼さんだったな。預けられてからしばらくはずっと俯いて黙っている僕に、しけた面だなって何かのイベントに放り込まれたんだっけ。その時、たくさんの人たちと関わることが出来て、僕にとってはそれは新しい世界の兆しになった。とても楽しかった記憶。限られた中で狭い世界に心が押しつぶされそうになっていた僕に、こんな世界があるんだって、蒼さんは広い景色を見せてくれた。もっともっと、色んな世界が見たい。色んな人たちに出会いたいって、そう思うようになって始めたことだった。

 そして、それはきっと……お父さんとの距離を縮めることにも繋がるんじゃないかって。その思いを正直に話すと、おにいさんは。

「客観的に見て、貴方の父親は育児放棄をしているようなものです。金だけは支払う只のATMだ。そんな親でも?」

「不器用なだけだと思うんだ。お父さん、ちゃんと小さい頃に泣きながらだけど、ごめんねって言って抱きしめてくれたよ。それにその分、おもちゃはたくさん買って貰ってた。本とかお菓子とか、僕の好きなものね。でもね、少しずつって思って色々と始めてるんだけど、今すごくいいみたいなの。直接は会えてないし、僕も心の準備があるからいきなりは無理だけど……これで上手くいったらいいな~って、お父さんにやり始めたことがあるんだ」

 どうして今まで思いつかなかったのかってくらい、簡単なことを今更ながら始めた。ううん。今だからこそ始められたんだ。これならもっと早くに、お父さんと会えるようになるかもしれない。

 おにいさんは納得いかない様子だったけれど、僕が納得していればそれでいいのか後は何も言わなかった。

「あ! おにいさんとはすぐに仲良くなれたから、嬉しかったよ」

「貴方の頭には花でも咲いてるんですか?」

「も~! 素直じゃないんだから~!」

 ひとまずの悩みが解決した僕は、あまり遅くなっては蒼さんに怒られるからと早々に帰ることにした。オレンジジュースのお礼を言って、僕はおにいさんのお家を出ようとドアノブに手を掛ける。

 バイバイ、と手を振りながら。

「また来てもいい? 今度はおにいさんの好きなご飯を作るね」

「その時、私は不在なので一人で作って一人で帰りなさいね」

「なんだとぉ!?」

「ふふっ」

 この時。

 僕は初めておにいさんの笑った顔を見た。
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