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その命あるかぎり…誓えますか?

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 それからというもの、すぐに元気になったおにいさんは再びいつもの生活ペースに戻ったけれど、僕の作るご飯には手をつけてくれるようになった。僕と一緒に食べることはなくても、食べた後の食器を洗って棚に片付けてくれる。……もしかしたら、全部捨てて綺麗に洗ってるだけかもしれないけど。

 あとは、洗濯機も一緒に使ってくれるようになったかな。うん。相変わらずのツンデレさんとやらだけど、前進、前進。

 ちょっとは兄弟っぽくなれたかな~って嬉しく思っていた中、蒼さんの退院が決まった。

 退院前に蒼さんの病室に遊び……お見舞いに行った。今度は面会謝絶にならなかった。

「退院できて良かったね~。僕、三ヶ月くらいぶち込まれてればいいのにって思ってたよ~」

「お前は俺を殺す気か。あー……煙草吸いてぇ……」

 もっと入院が続けば、煙草もお酒も止めてくれるかもー! って期待してたのに……ちぇっ! 今度、依存症方面で精神科に相談しようかな。

 ということで。僕も元の生活に戻るわけだから、おにいさんのあのお家から出て行かなきゃいけないってことだね。もうちょっと仲良くなれるかな~って、結構楽しくなってきたところだったけど、残念だ。

 蒼さんがふんぞり返るベッドの横で今日の宿題をやっていると、それを横目にふと尋ねられた。

「お前、彼奴の所にいるんだって?」

「彼奴って……蒼さんの息子さんのところね。そうだよ~」

「女、連れ込んでいたりしてねえだろうな?」

「おんな? 僕以外に誰かが来ることもなかったみたいだけど……え!? おにいさんが誘拐拉致監禁してるってこと!?」

「ちげーよ。つうか声がでかいわ、こんにゃろう」

「あいたぁっ!?」

 久々の拳骨。相変わらず痛い。個室だからって図に乗って~! ナースコールしちゃうぞ、こんにゃろう!!

 これは後で知ったことだけど、おにいさんは彼女さんが沢山いるらしい。それはどうなの? って話だけど、その彼女さん達と過ごす時は、別のお家に行くんだって。僕と一緒に過ごしていた時は、僕がいるからか生活は別々でもちゃんとあの家に戻ってきていたし、それはやってなかったみたい。

 大人だね~。

 目に涙を溜めながら頭を擦っていると、蒼さんがマイペースにあることを聞いてきた。

「お前、彼奴に何もされてねえか?」

「蒼さんみたいに殴られてたかってこと~?」

 不貞腐れながら聞き返すと、蒼さんの顔が普段は見せないくらいに真剣だった。ちょっとびっくり。おにいさん、そんな風に聞かれちゃうほど乱暴者ってこと? そうは見えなかったけど……

 僕は蒼さんに答えた。

「何もされてないよ。基本的に別々に過ごしてたし。でもご飯は途中から食べてくれるようになったよ……たぶん」

「多分って何だ」

 おうどんの時以降、ご飯を食べてるところを見たことがないからです。

「お部屋も一部屋宛がってくれたし、ベッドの代わりにソファを運んでくれたし、枕も使わせてもらったし、結構快適に過ごして……あ!」

「あ?」

「ほっぺ抓られた!」

「はあ?」

 思い出した! 僕のほっぺを抓った事件!

「こうね、ほっぺを抓られたの! 餅みたいだって言ってたけど……ぐいぐい引っ張って、あんにゃろ~!」

 僕は右のほっぺを自分で摘まんで伸ばすジェスチャーを蒼さんにしてみせた。

 今度はこっちが抓ってやる~!

 僕が復讐を誓う中、蒼さんはそれを見て何を思ったのか。

「……そうかい」

 ただ一言だけ呟いた。

「ねえねえ、蒼さん。蒼さんと僕のお父さんって高校の時に一緒のクラスだったんだよね?」

「何だ、藪から棒に……」

 ずっと前に聞いたこと。蒼さんとお父さんは高校で同じクラスになった時からの知り合いだって。真藤と紫瞠だから、あいうえお順で決まる席では前と後ろだったって。そうじゃなきゃ関わることも無かったってぶっきら棒に教えてくれたけど。

「昔からお父さんって変わらない? 今とおんなじ?」

「昔から変わんなかったらその方法を教えてもらいたいもんだわ」

「そうじゃなくてー! 性格の方!」

「さあな。その辺は璃々子に聞け」

 むう、確かに。今じゃ璃々子さんがお父さんの奥さまなわけだから、璃々子さんに聞いた方が詳しくわかるはずなんだけども……。

「璃々子さんがお父さんを知ったのは蒼さんと結婚してからでしょ? それじゃあ、変わったかどうかなんてわからないじゃない」

「そんなこたねえよ。璃々子はお前の母ちゃんのダチなんだ。愚痴やら惚気やらを、俺も巻き込んで花音の口から散々聞かされてきたわ。よく知ってるさ」

 つまり。

 お父さんと蒼さんは高校の時からの同級生で、お母さんと璃々子さんがお友達。で、これもずっと前に聞かされたことだけれど、蒼さんは元々はまし……何とかって名前の大きなお家の子だったんだけど、一時期はその遠縁にあたるお母さんのお家で預けられたことがあったって。だから実は、お父さんよりもお母さんとの付き合いの方が長いんだって。

「じゃあ、お父さんのことを聞くなら璃々子さんが一番ってこと?」

「んなまどろっこしいことしてねえで、本人に聞いてこい。奴がまた泣きだしたらお前、得意の頭突きでも落としてこい」

「お父さんに暴力なんて出来るわけないでしょ! そういうのはね、DVって言うんだよ、DV!」

「お前……俺には散々頭突きやら蹴りやら入れてきただろうがよ……」

 おにいさんとの関わりの中で、急にお父さんのことが知りたくなった。小さい時も、何で? 何で? と思っても、大人を困らせる行為だと思って抑えてきてたから。でも、これが恋しいってことなんだろうか? それとも、今さら出会った僕の義兄弟に関心が出てきたからなのか。

 少しずつでいいから、もっともっと知っていきたい。そう思うようになった。

 その後、僕は黙々と宿題をこなし、蒼さんは誰かが買ってきた雑誌を適当に読むという静かな時間を過ごした。

 こうして蒼さんと二人きりで過ごすのが、とても久々に感じた。

 お父さんのこと、おにいさんのこと。もっともっと知りたい。でも、それよりも強かったのは……

「えへへ……」

「何を笑ってやがる。気持ち悪ぃ」

「蒼さん、帰ったら何が食べたい? 僕、何でも作っちゃうよ」

「酒のツマミ」

「もー!!」

 いつかは離れて暮らすんだろう。それが高校を卒業した後なのか、それよりも長いのか、短いのか……

 僕はやっぱり、蒼さんが好きだった。

 離れたくない。別れたくない。

 蒼さんとあの家で、もっともっと一緒に暮らしたい。

 大好きなピザを、一緒に食べたい。

 ささやかで、贅沢な……

 願いだった。

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