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そうだ。新婚旅行へ行こう

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 ――――――…



 ――――…



 ――…






 ん……あ、れ。ここ……

 えっと……

「あ……じいちゃんっ! 柳が起きた! 起きたよ!」

「喧しい! 騒ぐなみっともない!」

 バチン!

「いってえ……! いやっ、それより柳だよ!」

「わかっとるわ! お前は煩いから外に出て彼を呼んでこい! ……やあ、柳君。目が覚めたかい?」

 え、と……?

 ん……あ。

 ああ、誰かと思った。こうして会うのは久々だ。

 重い瞼を開けたら、葉月のおじいちゃん……睦月先生が僕を優しい顔で見下ろしていた。

 僕はゆっくりと唇を動かした。

「びょう、いん……です、か?」

 挨拶もせずに、僕はここが何処かを尋ねた。なんと非常識な子だろうと思われたかもしれない。でも、睦月先生はそんな僕に嫌な顔をするでもなく、優しい顔のまま首を横に緩やかに振った。

「気分はどうだい? まだ怠いだろうが、頭は? 痛みはあるかい?」

 ここが何処なのか、その質問の答えの前に、僕の体調を尋ねられた。

 ぼんやりとした感じはあるけど、頭は痛くない。ふんわりと柔らかい枕に頭を埋めたまま、僕は首を横に振った。

「そうかい」

「あ、の……」

「ああ。ここは旅館だよ。柳君は少しびっくりして倒れちゃったんだ。覚えてないかい?」

「たおれ、た?」

 覚えてない。倒れたなんて……それに、旅館?

 まだ重い身体と頭。僕は視線だけを辺りにやってここが何処かを確認する。

 ああ……うん。そういえば、旅館に来てたんだっけ。温泉にって……で、倒れた? それで、睦月先生?

 頭が混乱する。僕が倒れて、ここが病院ならまだわかるけど、どうして旅館に睦月先生なの?

 そういえば睦月先生、白衣着てない。ポロシャツだ。

 僕がジッ、と睦月先生を見つめていると。

「紫瞠君に呼ばれてね。柳君に会いに来たんだ。煩かったから孫も連れてきちゃったが、大人しくさせとくから許してやってな」

「まご……あ、葉月?」

「そうだよ。彼を連れてもうすぐ来るからね。起きられそうかい?」

「う、ん」

 葉月と同じで身体が大きい睦月先生は、僕の背中に手を差し込んで「よいしょ」という掛け声と共に抱き起こしてくれた。

 まだ怠い身体。頭もぼんやりとする。

 思考がままならない状態でも、睦月先生は怒らず「お水いるかい?」と僕を気遣ってくれる。

 ええと、僕はどうして倒れたんだっけ?

 確か、旅館で……ロビーで、お話してた。ん、と……草加部君。そう、草加部君とお話してた。それから……魅色ちゃんとも、話したね。それで……えっと……

 ええっと……。

 ……。

 ああ……

 いきなり倒れちゃったんだ? うわ……みんなに心配かけちゃった。

「ごめんなさい……」

 ポツリと、独り言のように口にすると、それを睦月先生が聞いてたのか、「大丈夫」と言ってくれた。

 睦月先生、相変わらず優しいな。

 ぼんやりとしたまま、僕は睦月先生にあることを聞こうとした。

「喉が乾いたろう。水か、お茶でも飲むかい?」

「先生。あのね、僕……」

 僕が睦月先生に声を掛けるよりも先に、パタパタという足音が聞こえてきた。

 誰? と、足音のする方に頭を動かすと、息を弾ませた葉月がゾロゾロと人を引き連れてやってきた。

「大丈夫っ!? りゅ……」

「柳ちゃんっ! ああ、ごめんなさい! 私、あなたを残して部屋に戻っちゃって……ああ、気がついて本当に良かった!」

「ったく……あんまり心配掛けさせんなよな」

 声を掛けられた順番は。

 葉月、魅色ちゃん、それから草加部君。

 すごい。初めて見る組み合わせに言葉が出ないでいると、睦月先生が怖い顔をして三人に怒鳴った。

「喧しい! まだ起きたばかりだ! 騒ぐならもっぺん叩き出すぞ!」

「「「ごめんなさい」」」

 もっぺん、てことは……その前も叩き出された、のかな?

 やっぱりぼんやりとしたまま、僕がそんなことを思っていると、その奥からもう二人……。

 一人は黒い髪のスーツを着た男の人。睦月先生ほどじゃないけど、四十代から五十代くらいの人。誰だろう? 背が高くて細身のその人は、僕を見るなり眉をハの字にさせてすぐに顔を反らした。

 それを見た葉月がその人に向かって「てめえ……」と顔を怖くさせると、睦月先生がその葉月の頬をバチンと叩いた。

「言葉遣いに気をつけんか」

「ってえ……だってよ! こいつはっ……!」

「片岡君。今はやめてもらえますか? 貴方を不快にさせるために、この男を連れてきたわけではありません」

「そう、だけどっ……」

 葉月は苦虫を噛み潰したように何かを言いかけるけど、「わかったよ」と自分を抑え込んだ。

 黒い髪の男の人は、やっぱり僕から顔を反らしている。でも、心配そうな顔をしてチラチラと視線を僕に向けていた。

 その男の人の横には……

「柳。気がついて良かった……」

 突然、僕の身体は抱き締められた。フワッと香る僕の好きな匂いと共に。

「あ……」

 どうしよう。こんなに周りに心配を掛けさせてしまったのか、と。僕は申し訳ない気持ちになる。

「ごめんなさい……」

 僕は謝った。どうして倒れてしまったのか、それはまだ思い出せないままだけど、たくさんの人に迷惑を掛けてしまったんだ。

 僕を抱き締めたこの人は、「いいんだ」と優しく声を掛けてくれた。ああ、なんて優しいんだろう。

 魅色ちゃんは泣いている。葉月や草加部君は複雑そうな顔をしているけれど、口端を上げて微笑んでいた。

 ごめんなさい。ごめんなさい。

「あの……」

「ああ、すまない。力が強かったな……」

「ううん。そうじゃなくて……」

 僕は目の端に涙を浮かべている赤い髪の男の人に尋ねた。














































「心配掛けて、ごめんなさい。それで、あの……あなたは、誰……ですか?」

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