上 下
127 / 241
突撃! 新婚さんの晩御飯

しおりを挟む
 ――――…




「へ~、僕って金髪だったんだ」

「つっても、元からじゃなくて中学に上がってからだったらしいけど。なんか賭けに負けたとかで染めたって言ってたし。小学生の頃なんかは今と変わらないんじゃない?」

「でも、髪も長かったし。俺らは当初別のクラスだったから、柳のこと女の子だと思ってたんだよね」

「それが同じ学ラン着てたもんだから驚きも半端なくってさ。え? マジで!? みたいな」

「私は一年以上、柳のことをお姉さんだと思ってた」

「私服は誰かからのお下がりとかで、今より派手でお洒落で可愛かった。靴もスニーカーだけじゃなくて、サンダルとか、ロングブーツも履いてたし……」

「ものすげぇ可愛かった。今も可愛いけど」

「そんじょそこらの女よりも可愛かったもんな。今も可愛いけど」

「柳はいつだって可愛い」

「そんなに可愛いって言われると、男として複雑なんだけど……ごめん。全然覚えてないや」

 みんなの口から語られたのは、びっくりもびっくりの内容だった。僕が僕自身のことを忘れているだなんて……そんなことって、本当にあるんだね。健忘? 記憶喪失っていうやつなんだろうか? 自分が金髪だっただなんて言われても「嘘だ~」くらいにしか思えないんだもん。

 それに、葉月達のことははっきりと覚えているのに、二年よりも以前の自分のことだけを忘れているなんて、そんな不思議な記憶喪失があるだなんて、どうしたって驚きを隠せない。だって、日常生活に支障なんてほとんどなかったもん。悩んでいたのは、たまに起こる頭痛や真っ白になっちゃう頭のことで……。でも、これが記憶喪失と関わっている、んだよね?

 しかも、僕自身が覚えていない交通事故。おでこにできている、大きな縫い傷はその時の物だってことは、真城でお世話になっていた時に龍一様から聞いていた。走っている車にぶつかって命に別状はなかったけれど、外傷がひどくて、長い日数をベッドで過ごしていたって。僕、その時のことも覚えていないんだ。いつの間にか、真城が僕の家になってて、進学する高校も決まっていたわけだし。

 高校。そう、高校も、真実が進学した高校を受験していただなんて、それすらも覚えていない。受験ってことは、転校前の高校と同様に、受験するために勉強していたんだろうし。そっちは覚えているのに、今の学校のことは覚えていない。

 チラリ、と。隣にいる海さんを見る。海さんは、みんなの話を黙って聞いていた。そういえば、どうして海さんは、僕に今の学校へ転校するよう言ったんだろう? 偶然? 理由は前に、女の子にモテるのを防ぐため~って聞いていたけど、海さんが話していないだけで、実は僕の知らない本当の理由があったりする?

 うう~ん。混乱してきたぞ。そういう時は、海さん特製のチャイを飲むに限るよね。僕は落ち着きを取り戻すべく、少し冷めてしまったカップに手を伸ばした。ぬるいチャイが、いつの間にか乾燥していた喉を潤してくれる。

「ごくごく」

 とにもかくにも。記憶なんちゃらについては、その事故が原因だってことだね。そしてその事故の起因が、蒼さんにあるんじゃないかって話なんだけど……。

「全然覚えてないんだよね。どうして事故に遭ったんだろ?」

 う~んと唸ってみても、思い出せないものはしょうがない。葉月たちも、首を横に振った。

「それは俺達もわからないけれど、確かにあの日、柳は蒼のオッサンの家に帰ったはずなんだよ」

「ほら、門限あっただろ。それを破ると、あのオッサン超恐かったし」

 ああ~、あったね。門限。時間に厳しい人だったから、少しでも遅れたりすると、拳骨だったんだよね。僕は痛くもない自分の頭を擦った。

「もしあの当時、柳があの家に帰っていなかったんだとしたら、オッサンが『ロワゾ』へ連絡してくるからな。だから、柳は一旦あそこに帰ってるんだよ」

 僕は携帯電話を持っていなかったからね。だから蒼さんは、僕が通っていた学校だけでなく、よく足を運ぶ「ロワゾ」や、それ以外に利用する場所と連絡先を把握していた。でも、電話嫌いだったから、滅多に連絡を取ることはなく。彼がどこかへ連絡を取る時は大抵怒ってるんだよね。

 でも、それがなかったってことは、みんなが言うように、僕は一旦蒼さんのところへ帰っていたんだろう。はて、何があったのかな?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

スキル『日常動作』は最強です ゴミスキルとバカにされましたが、実は超万能でした

メイ(旧名:Mei)
ファンタジー
この度、書籍化が決定しました! 1巻 2020年9月20日〜 2巻 2021年10月20日〜 3巻 2022年6月22日〜 これもご愛読くださっている皆様のお蔭です! ありがとうございます! 発売日に関しましては9月下旬頃になります。 題名も多少変わりましたのでここに旧題を書いておきます。 旧題:スキル『日常動作』は最強です~ゴミスキルだと思ったら、実は超万能スキルでした~ なお、書籍の方ではweb版の設定を変更したところもありますので詳しくは設定資料の章をご覧ください(※こちらについては、まだあげていませんので、のちほどあげます)。 ────────────────────────────  主人公レクスは、12歳の誕生日を迎えた。12歳の誕生日を迎えた子供は適正検査を受けることになっていた。ステータスとは、自分の一生を左右するほど大切であり、それによって将来がほとんど決められてしまうのだ。  とうとうレクスの順番が来て、適正検査を受けたが、ステータスは子供の中で一番最弱、職業は無職、スキルは『日常動作』たった一つのみ。挙げ句、レクスははした金を持たされ、村から追放されてしまう。  これは、貧弱と蔑まれた少年が最強へと成り上がる物語。 ※カクヨム、なろうでも投稿しています。

モブオメガはただの脇役でいたかった!

天災
BL
 モブオメガは脇役でいたかった!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

乙女ゲーム?悪役令嬢?王子なんて喜んで差し上げます!ストーカーな婚約者など要りません!

愛早さくら
恋愛
リジーは公爵令嬢だ。当然のように幼い頃から、同じ年の王太子スペリアの婚約者だった。 よくある政略結婚。 しかしリジーは出来ればスペリアから逃れたいと思っていた。何故なら……――スペリアがリジーの、とんでもないストーカーだったからだった……。 愛が重いを通り越して明確にストーカーな婚約者スペリアから逃れたいリジーの的外れな暗躍と、それを凌駕するスペリアのストーカー力! 勝つのはどっちか? 今、滑稽な戦いが幕を開ける……! ・キャプションには語弊があります。 ・基本的にはコメディベースの明るい印象のお話にするつもりです! ・地味に他の異世界話と同じ世界観。 ・魔法とかある異世界が舞台。 ・CPは固定です。他のキャラとくっつくことはありません。 ・当て馬イッパイぱらだいす。 ・主人公は結局ストーカーからは逃れられませんが多分ハッピーエンド。

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...