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ドキドキ? 学園生活 【穂鳥 side】
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――――――――…
―――――…
―――…
この頃は特に寒い冬の日だった。俺は行くあてもなく、ただ初めての街を歩いていた。
何を考えていたのかなんてもう、覚えてない。あてどなく、俺はその街をさまよっていた。
そんな時、そいつは突然俺の前に現れた。
「ねぇ、そこのお兄さん。お~い。軟骨にピアスしてるお兄さん。ついでに髪の色も派手で鮮やかなお兄さん……あれ? もしかしなくとも僕と同じ歳くらい?」
「……あァ?」
何もかもが憎かった。何もかもがうざかった。
全てに死ねと思っていた。
死ね。死ね。死ね! 死ね!!
そんな最悪の時に。
あいつは能天気な声で俺に話しかけてきた。
「あ、僕と同じ歳くらいだね。良かった!」
長い金髪に、一瞬外国人かと思った。こんな殺気立っている俺に声をかける能天気な奴だったから、流暢な日本語を口にしていても他所者だと思った。
けれど、そいつの顔は目を瞠るものがあった。
紫色の目。それは宝石のようで、驚きをもたせる一部だった。すぐにカラコンだと思ったが、それはそいつの顔によく合っていた。
合っていた、と思ったのは……そいつの顔立ちが今まで目にしてきたどの人間の者よりも端正だと思わせるものだったから。
いや、違う。ただ単に好みだっただけだ。俺の好みの顔立ちだった。美人と形容するにはまだ若く、可愛いというには足りないような、そんな顔立ちだった。加えて、金髪に紫の目の色は、そいつの顔立ちをより引き立たせていた。
小柄で華奢な体躯。赤色の洒落たダッフルコートにジーンズ、そして冬にはぴったりの踵の高いロングブーツを履いていたから、それはどこからどう見ても女だった。いや、これで奴を男だと思う方がおかしい。極めつけはサイドに留めていた女物のヘアピンだった。
逆ナンだったら女でも突き飛ばしてやろうかと思っていた。だが、そいつは予想だにしないことを俺に言った。
「あのね。初対面の人にいきなりこんなことを言うのも何なんだけど。この道ね、近所の不良さん達が集まっちゃうような恐い場所だから、一人でいると危ないよ? 特に君、眉間に皺寄せて恐い顔してるから、すぐに絡まれちゃうよ?」
「っせぇな……」
煩かった。まさかそんな鬱陶しい理由で声をかけられるとは思いもしなかったからだ。
いや、何もかもが煩かった。この時の俺にはどんな言葉も煩く感じた。家族と呼べる存在すら、一言口にするだけでも煩わしく思えた声に、どうして他人の言葉が受け入れられる?
煩い。煩い。煩い。煩い。
舌打ちを落として、俺はその場から離れることにした。野郎だったら殴っているところだった。実際、野郎だったわけだけど……。
なのに、こいつは理解ができなかったらしい。
「煩かった? 僕、そんなに大きな声、出したかな? あ、ちょっとちょっと」
首を傾げて、まだなお俺に声を掛けてきた。それどころか、俺の腕を掴んできやがった。
「おいっ、触ん……っ?」
あろうことか、そいつは俺を掴んで近くの電柱へと追いやると、自身も同様に電柱の影になった。何をしやがるんだと、声を上げそうになったところで、奴は口元に人差し指を立てた。
「しー」
「は?」
「ん~……あ、行っちゃった。良かった、良かった」
奴は電柱の隙間から何かを垣間見ており、そして特定の何かがなくなったのか、やんわりと俺から離れた。奴が見ていた方向へ俺が視線をやると、それは抗争中の敵チームの連中だった。
俺を追ってきたというのか? いや、それはないだろう。幹部とはいえ、追われない理由として俺はまだ知名度が足りないのだから。
なぜあいつらが? そう考える俺に対し、この金髪の女はのほほんと自身の意見を口にする。
「恐いよねぇ。あんな顔して闊歩してるなんて将来恐い顔の人になっちゃうよね。もっとこう、にこーって笑ってる方が世の為、人の為だよね」
調子が狂わされる。何なんだ、この女は。無性に腹が立った。何をされたわけではないが、女とはいえ張っ倒したくなるほどに不愉快だった。
そんな感情が顔に出ていたんだろう。女は苦笑したように俺に言った。
「君も相当怒ってるよねぇ。何があったのか知らないけれど、今はそっちの道から出ない方が良いよ。絶対絡まれるから。というか、ウチの近所で喧嘩なんてよしてね。僕の同居人が騒々しいこととか、やかましいことが大嫌いだからさ」
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この頃は特に寒い冬の日だった。俺は行くあてもなく、ただ初めての街を歩いていた。
何を考えていたのかなんてもう、覚えてない。あてどなく、俺はその街をさまよっていた。
そんな時、そいつは突然俺の前に現れた。
「ねぇ、そこのお兄さん。お~い。軟骨にピアスしてるお兄さん。ついでに髪の色も派手で鮮やかなお兄さん……あれ? もしかしなくとも僕と同じ歳くらい?」
「……あァ?」
何もかもが憎かった。何もかもがうざかった。
全てに死ねと思っていた。
死ね。死ね。死ね! 死ね!!
そんな最悪の時に。
あいつは能天気な声で俺に話しかけてきた。
「あ、僕と同じ歳くらいだね。良かった!」
長い金髪に、一瞬外国人かと思った。こんな殺気立っている俺に声をかける能天気な奴だったから、流暢な日本語を口にしていても他所者だと思った。
けれど、そいつの顔は目を瞠るものがあった。
紫色の目。それは宝石のようで、驚きをもたせる一部だった。すぐにカラコンだと思ったが、それはそいつの顔によく合っていた。
合っていた、と思ったのは……そいつの顔立ちが今まで目にしてきたどの人間の者よりも端正だと思わせるものだったから。
いや、違う。ただ単に好みだっただけだ。俺の好みの顔立ちだった。美人と形容するにはまだ若く、可愛いというには足りないような、そんな顔立ちだった。加えて、金髪に紫の目の色は、そいつの顔立ちをより引き立たせていた。
小柄で華奢な体躯。赤色の洒落たダッフルコートにジーンズ、そして冬にはぴったりの踵の高いロングブーツを履いていたから、それはどこからどう見ても女だった。いや、これで奴を男だと思う方がおかしい。極めつけはサイドに留めていた女物のヘアピンだった。
逆ナンだったら女でも突き飛ばしてやろうかと思っていた。だが、そいつは予想だにしないことを俺に言った。
「あのね。初対面の人にいきなりこんなことを言うのも何なんだけど。この道ね、近所の不良さん達が集まっちゃうような恐い場所だから、一人でいると危ないよ? 特に君、眉間に皺寄せて恐い顔してるから、すぐに絡まれちゃうよ?」
「っせぇな……」
煩かった。まさかそんな鬱陶しい理由で声をかけられるとは思いもしなかったからだ。
いや、何もかもが煩かった。この時の俺にはどんな言葉も煩く感じた。家族と呼べる存在すら、一言口にするだけでも煩わしく思えた声に、どうして他人の言葉が受け入れられる?
煩い。煩い。煩い。煩い。
舌打ちを落として、俺はその場から離れることにした。野郎だったら殴っているところだった。実際、野郎だったわけだけど……。
なのに、こいつは理解ができなかったらしい。
「煩かった? 僕、そんなに大きな声、出したかな? あ、ちょっとちょっと」
首を傾げて、まだなお俺に声を掛けてきた。それどころか、俺の腕を掴んできやがった。
「おいっ、触ん……っ?」
あろうことか、そいつは俺を掴んで近くの電柱へと追いやると、自身も同様に電柱の影になった。何をしやがるんだと、声を上げそうになったところで、奴は口元に人差し指を立てた。
「しー」
「は?」
「ん~……あ、行っちゃった。良かった、良かった」
奴は電柱の隙間から何かを垣間見ており、そして特定の何かがなくなったのか、やんわりと俺から離れた。奴が見ていた方向へ俺が視線をやると、それは抗争中の敵チームの連中だった。
俺を追ってきたというのか? いや、それはないだろう。幹部とはいえ、追われない理由として俺はまだ知名度が足りないのだから。
なぜあいつらが? そう考える俺に対し、この金髪の女はのほほんと自身の意見を口にする。
「恐いよねぇ。あんな顔して闊歩してるなんて将来恐い顔の人になっちゃうよね。もっとこう、にこーって笑ってる方が世の為、人の為だよね」
調子が狂わされる。何なんだ、この女は。無性に腹が立った。何をされたわけではないが、女とはいえ張っ倒したくなるほどに不愉快だった。
そんな感情が顔に出ていたんだろう。女は苦笑したように俺に言った。
「君も相当怒ってるよねぇ。何があったのか知らないけれど、今はそっちの道から出ない方が良いよ。絶対絡まれるから。というか、ウチの近所で喧嘩なんてよしてね。僕の同居人が騒々しいこととか、やかましいことが大嫌いだからさ」
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