上 下
119 / 241
ドキドキ? 学園生活 【穂鳥 side】

しおりを挟む
 ――――――――…



 ―――――…



 ―――…




 この頃は特に寒い冬の日だった。俺は行くあてもなく、ただ初めての街を歩いていた。

 何を考えていたのかなんてもう、覚えてない。あてどなく、俺はその街をさまよっていた。

 そんな時、そいつは突然俺の前に現れた。

「ねぇ、そこのお兄さん。お~い。軟骨にピアスしてるお兄さん。ついでに髪の色も派手で鮮やかなお兄さん……あれ? もしかしなくとも僕と同じ歳くらい?」

「……あァ?」

 何もかもが憎かった。何もかもがうざかった。

 全てに死ねと思っていた。

 死ね。死ね。死ね! 死ね!!

 そんな最悪の時に。

 あいつは能天気な声で俺に話しかけてきた。

「あ、僕と同じ歳くらいだね。良かった!」

 長い金髪に、一瞬外国人かと思った。こんな殺気立っている俺に声をかける能天気な奴だったから、流暢な日本語を口にしていても他所者だと思った。

 けれど、そいつの顔は目を瞠るものがあった。

 紫色の目。それは宝石のようで、驚きをもたせる一部だった。すぐにカラコンだと思ったが、それはそいつの顔によく合っていた。

 合っていた、と思ったのは……そいつの顔立ちが今まで目にしてきたどの人間の者よりも端正だと思わせるものだったから。

 いや、違う。ただ単に好みだっただけだ。俺の好みの顔立ちだった。美人と形容するにはまだ若く、可愛いというには足りないような、そんな顔立ちだった。加えて、金髪に紫の目の色は、そいつの顔立ちをより引き立たせていた。

 小柄で華奢な体躯。赤色の洒落たダッフルコートにジーンズ、そして冬にはぴったりの踵の高いロングブーツを履いていたから、それはどこからどう見ても女だった。いや、これで奴を男だと思う方がおかしい。極めつけはサイドに留めていた女物のヘアピンだった。

 逆ナンだったら女でも突き飛ばしてやろうかと思っていた。だが、そいつは予想だにしないことを俺に言った。

「あのね。初対面の人にいきなりこんなことを言うのも何なんだけど。この道ね、近所の不良さん達が集まっちゃうような恐い場所だから、一人でいると危ないよ? 特に君、眉間に皺寄せて恐い顔してるから、すぐに絡まれちゃうよ?」

「っせぇな……」

 煩かった。まさかそんな鬱陶しい理由で声をかけられるとは思いもしなかったからだ。

 いや、何もかもが煩かった。この時の俺にはどんな言葉も煩く感じた。家族と呼べる存在すら、一言口にするだけでも煩わしく思えた声に、どうして他人の言葉が受け入れられる?

 煩い。煩い。煩い。煩い。

 舌打ちを落として、俺はその場から離れることにした。野郎だったら殴っているところだった。実際、野郎だったわけだけど……。

 なのに、こいつは理解ができなかったらしい。

「煩かった? 僕、そんなに大きな声、出したかな? あ、ちょっとちょっと」

 首を傾げて、まだなお俺に声を掛けてきた。それどころか、俺の腕を掴んできやがった。

「おいっ、触ん……っ?」

 あろうことか、そいつは俺を掴んで近くの電柱へと追いやると、自身も同様に電柱の影になった。何をしやがるんだと、声を上げそうになったところで、奴は口元に人差し指を立てた。

「しー」

「は?」

「ん~……あ、行っちゃった。良かった、良かった」

 奴は電柱の隙間から何かを垣間見ており、そして特定の何かがなくなったのか、やんわりと俺から離れた。奴が見ていた方向へ俺が視線をやると、それは抗争中の敵チームの連中だった。

 俺を追ってきたというのか? いや、それはないだろう。幹部とはいえ、追われない理由として俺はまだ知名度が足りないのだから。

 なぜあいつらが? そう考える俺に対し、この金髪の女はのほほんと自身の意見を口にする。

「恐いよねぇ。あんな顔して闊歩してるなんて将来恐い顔の人になっちゃうよね。もっとこう、にこーって笑ってる方が世の為、人の為だよね」

 調子が狂わされる。何なんだ、この女は。無性に腹が立った。何をされたわけではないが、女とはいえ張っ倒したくなるほどに不愉快だった。

 そんな感情が顔に出ていたんだろう。女は苦笑したように俺に言った。

「君も相当怒ってるよねぇ。何があったのか知らないけれど、今はそっちの道から出ない方が良いよ。絶対絡まれるから。というか、ウチの近所で喧嘩なんてよしてね。僕の同居人が騒々しいこととか、やかましいことが大嫌いだからさ」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【続編】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

花婿候補は冴えないαでした

BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

処理中です...