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ドキドキ? 学園生活♪ 【葉月 side】
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高校受験もいよいよ大詰めってときの、すげぇ忙しい中。柳が受験した学校の合否が発表された。自宅に通知が届く形式だったから、家に帰らなければそれはわからない。だから、柳は学校が終わると、一度だけ「ロワゾ」に寄り、すぐに家に帰宅した。家……つーか。柳が真城の前に世話になってたところ。いや。世話になってたっていうか。世話をしていたっていうか……。
ともかく、柳はすぐに帰った。「ロワゾ」からまっすぐ。家に帰ったはずだった。そりゃあもう、ものすごく興奮してて落ち着きがなかったよ。でも、その通知をすぐに見たかったはずなんだ。だってそうだろ? 自分の進路が決まるんだぜ。
柳にとって、特別の日のはずだったんだ。そしてそれを、誰に聞いてもらいたかったのか。それも知っている。俺たちじゃない。
柳が好きで好きでたまらなかった、ただ一人にだ。
それでも、俺達は柳の声が聞きたかった。合否も気になったけど、それ以上に柳の喜ぶ声を聞きたかった。「受かったよ!」。それを期待していた。
でも、柳からの連絡はなかった。それを、俺達は良い方に解釈していた。何事もなかったんだ。良かったんだって。
そして俺達は解散し、「ロワゾ」を後にした。
普段なら、すぐに家の方に帰るんだけど、その日は俺も進路のことで悩んでいたから、爺ちゃんと親父に相談したいことがあって、自然と病院の方に足を運んでいた。なんだか落ち着かない気分だった。
今思えば、嫌な予感がどこかにあったのかもしれない。
的中なんて、しなければよかったのに。
俺は偶然にも、その場に居合わせてしまった。
『急患?』
救急車が病院へと入っていった。ストレッチャーに乗った人間が、待機していた険しい顔の医師やナースによって運ばれていった。事故だろうか? その時はぼんやりと、そう思った。
患者が運ばれていく現場に居合わせたせいか、俺はやっぱり邪魔だろうと思い直した。親父たちに会うのを止め、家に帰ってから話せばいいと、帰宅することを選択した。俺は何しに来たんだろうって、若干自分に呆れかえりながら。病院から出ようとした。その時だった。
『……え?』
血に塗れて不気味に映るピエロのキーホルダー。それがコテンと、ストレッチャーの通った後の廊下に落ちていた。
冷やりと、嫌な汗が背中を伝った。
『ねぇ、どういうことなの? なんでこれがここにあるのさ?』
独り言のように呟いた。もちろん、返事など返ってこなかった。
偶然にも、俺も同じ物を持っていた。チャリのキーホルダーとして、それを持っていた。ゲームセンターのクレーンゲームで、ワンコインで手に入ることのできる景品。だけど、このキーホルダーは、ピエロの顔が不気味だからという理由から、当時は人気がないキャラクターで、実際に持っている奴なんて他に見たことがなかった。
自分と仲間、そして俺にプレゼントをしてくれた当人である、柳以外には。
俺はそのキーホルダーを拾い上げた。そして、当たらなければいいと願いながら、その先についている鍵の方を確認した。この時ほど、自分の記憶力が馬鹿だったらいいのにと思ったことはない。
だが、現実は残酷だった。
俺は院長室へと駆け出した。
この辺りの記憶は曖昧だから自分が何をして、どう動いたのかは覚えていない。落ちつけと言われて、爺ちゃんに思い切りビンタされた気がするけど。そしてその後すぐに、廻とツインズ、そして楠木さんに連絡した。他の仲間にも連絡しようとしたけれど、楠木さんがそれは止めるようにと電話向こうで宥めてくれた。結果的に、それで良かったと思う。当時は受験の最中で、明日が試験の奴もいたから。
だから、病院へと駆けつけたのは、その四人だった。
廻が、今にも泣きそうな顔で俺に詰め寄った。
『葉月っ……葉月っ……! どうしてっ……どうしてこんなっ……』
信じられなかった。俺もそうだ。どうしてこんなことになったのか、理由がわからなかった。原因も、状況も、何もかもがわからなかった。
ただ、一つ確実だったのは。その手術室の向こう側にいる人間が、俺達の大好きな柳だったということ。
ツインズも、声を荒げて俺に詰め寄った。
『片岡! 一体これはどういうことだよっ! どうしてこんなことになってんだよ!?』
『今日は特別の日のはずだろ! こんなこと、誰も……』
『知るかよ! わかんねぇよ! なんでっ……なんで柳がっ……』
混乱しかなかった。楠木さんが落ちつくようにと声を掛けてくれてたけど、そんなの耳に入っちゃ来ない。終いには、廻がその場で崩れ落ちてしまった。
ガタガタと身体を震わせながら、涙をボロボロと零しながら。祈るように両手を組んで、「お願いします」と繰り返していた。
ともかく、柳はすぐに帰った。「ロワゾ」からまっすぐ。家に帰ったはずだった。そりゃあもう、ものすごく興奮してて落ち着きがなかったよ。でも、その通知をすぐに見たかったはずなんだ。だってそうだろ? 自分の進路が決まるんだぜ。
柳にとって、特別の日のはずだったんだ。そしてそれを、誰に聞いてもらいたかったのか。それも知っている。俺たちじゃない。
柳が好きで好きでたまらなかった、ただ一人にだ。
それでも、俺達は柳の声が聞きたかった。合否も気になったけど、それ以上に柳の喜ぶ声を聞きたかった。「受かったよ!」。それを期待していた。
でも、柳からの連絡はなかった。それを、俺達は良い方に解釈していた。何事もなかったんだ。良かったんだって。
そして俺達は解散し、「ロワゾ」を後にした。
普段なら、すぐに家の方に帰るんだけど、その日は俺も進路のことで悩んでいたから、爺ちゃんと親父に相談したいことがあって、自然と病院の方に足を運んでいた。なんだか落ち着かない気分だった。
今思えば、嫌な予感がどこかにあったのかもしれない。
的中なんて、しなければよかったのに。
俺は偶然にも、その場に居合わせてしまった。
『急患?』
救急車が病院へと入っていった。ストレッチャーに乗った人間が、待機していた険しい顔の医師やナースによって運ばれていった。事故だろうか? その時はぼんやりと、そう思った。
患者が運ばれていく現場に居合わせたせいか、俺はやっぱり邪魔だろうと思い直した。親父たちに会うのを止め、家に帰ってから話せばいいと、帰宅することを選択した。俺は何しに来たんだろうって、若干自分に呆れかえりながら。病院から出ようとした。その時だった。
『……え?』
血に塗れて不気味に映るピエロのキーホルダー。それがコテンと、ストレッチャーの通った後の廊下に落ちていた。
冷やりと、嫌な汗が背中を伝った。
『ねぇ、どういうことなの? なんでこれがここにあるのさ?』
独り言のように呟いた。もちろん、返事など返ってこなかった。
偶然にも、俺も同じ物を持っていた。チャリのキーホルダーとして、それを持っていた。ゲームセンターのクレーンゲームで、ワンコインで手に入ることのできる景品。だけど、このキーホルダーは、ピエロの顔が不気味だからという理由から、当時は人気がないキャラクターで、実際に持っている奴なんて他に見たことがなかった。
自分と仲間、そして俺にプレゼントをしてくれた当人である、柳以外には。
俺はそのキーホルダーを拾い上げた。そして、当たらなければいいと願いながら、その先についている鍵の方を確認した。この時ほど、自分の記憶力が馬鹿だったらいいのにと思ったことはない。
だが、現実は残酷だった。
俺は院長室へと駆け出した。
この辺りの記憶は曖昧だから自分が何をして、どう動いたのかは覚えていない。落ちつけと言われて、爺ちゃんに思い切りビンタされた気がするけど。そしてその後すぐに、廻とツインズ、そして楠木さんに連絡した。他の仲間にも連絡しようとしたけれど、楠木さんがそれは止めるようにと電話向こうで宥めてくれた。結果的に、それで良かったと思う。当時は受験の最中で、明日が試験の奴もいたから。
だから、病院へと駆けつけたのは、その四人だった。
廻が、今にも泣きそうな顔で俺に詰め寄った。
『葉月っ……葉月っ……! どうしてっ……どうしてこんなっ……』
信じられなかった。俺もそうだ。どうしてこんなことになったのか、理由がわからなかった。原因も、状況も、何もかもがわからなかった。
ただ、一つ確実だったのは。その手術室の向こう側にいる人間が、俺達の大好きな柳だったということ。
ツインズも、声を荒げて俺に詰め寄った。
『片岡! 一体これはどういうことだよっ! どうしてこんなことになってんだよ!?』
『今日は特別の日のはずだろ! こんなこと、誰も……』
『知るかよ! わかんねぇよ! なんでっ……なんで柳がっ……』
混乱しかなかった。楠木さんが落ちつくようにと声を掛けてくれてたけど、そんなの耳に入っちゃ来ない。終いには、廻がその場で崩れ落ちてしまった。
ガタガタと身体を震わせながら、涙をボロボロと零しながら。祈るように両手を組んで、「お願いします」と繰り返していた。
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