上 下
110 / 241
ドキドキ? 学園生活♪ 【葉月 side】

20

しおりを挟む
 わけがわからない。けれど、野郎がすげぇ切れてるってことだけは、その殺気染みたオーラでわかる。こいつ、この事態を誰かに見られようが関係がねぇほど、相当頭にキているらしい。

 「ブレット」。その単語を口にして、それがさも俺であるかのように言っただけのことで? はっ。もしもその「ブレット」が、違う「ブレット」だったら、こいつ、その責任が取れるってのか?

 だがまぁ、そういう問題じゃないな。今はこの状況からどう逃げるかだ。さすがに、体格が良くて喧嘩慣れのしている奴ら五人を相手にすんのは無理だ。

 だからといって、ただただやられるのは性に合わない。平和的な解決策は「逃げる」だった選択肢を俺から取り上げたんだ。せめて奴らのHPを半分は確実に落としてから逃げる……が、ボコられる理由くらいははっきり知っておきたいもんだ。

 腹を抑えながら、奴に尋ねた。

「ゲホ……で、俺に……ゴホッ……何の恨みがあるんだよ」

 素直に教えてくれるなんて期待はしていなかったけれど、意外にも草加部はその理由を吐き捨てるように口にした。

「てめぇが転校生だろうが、『circus』のメンバーだろうが、そうでなかろうが関係ねぇ。俺はな、『circus』のヘッドである『ブレット』の名を偽物なんかに軽々しく名乗られたのが気に入らねぇんだよ」

 そう言ってしゃがみ込むと、俺の前髪を鷲掴んで顔だけを上げさせる。眼前の偽物の赤い目が、射抜くかのように鋭かった。

「てめぇは『ブレット』じゃねぇ」

「……」

 よほど、「ブレット」を偽物に語られるってのが嫌らしい。まさか、とは思う。いや、けど。こいつ。

 こいつ。まさか……

「『ブレット』は……女だ」

「……っ」

 マジかよ……。

 ヒュッと喉の奥が鳴る。それと同時に、草加部は俺の頭を乱暴に放り投げた。グラグラと回る目の前で、奴は勝手に語り出した。

「あの橘と一緒にいるくらいだからな。てめぇも何らかの……いや、『circus』の一人なのは間違いねぇんだろう。だからといって、そのヘッドである『ブレット』の名を語ることが許されると思うなよ」

 「circus」のヘッド……「ブレット」。

 その台詞を耳にしながら、俺の脳裏にはある人間の顔が浮かび上がった。

「あれは俺が認めた女だ。他のチームであろうが、んなのは関係ねぇ。だがな、俺はお前ら『circus』を認めたわけじゃねぇんだよ。あくまで俺が認めているのは『ブレット』だけだ」

「……」

『葉月』

 屈託のない笑顔と共に、無邪気に呼んでくれる俺の名前。心地良いほど柔らかい、温もりのある優しい声音。

 ずっと変わらない、あの真っ直ぐな、意思の強いバイオレットの瞳。

 俺の頭の中の彼は、ずっと変わらない存在だった。ずっと変わらない……孤高の存在。

「『ブレット』を勝手に語るな。いや、俺の前で二度と! その名を勝手に口にするんじゃねぇよ」

 それがなんだろう。なんなんだろうね。

 ……なんなんだろうね。本当に。本当に、参っちゃうよな。

 そんな風に言われてさ。そんな風な印象を持たれてさ。そんな風に見られてさ。本当に。本当に……。

 本当に……。

「最悪だよな……」

「あ?」

 グッと地に手の平を当て、そのまま腕に力を込める。這い上がるように身体を起こすと、草加部は怪訝に思ったのか、片眉を上げてみせる。周りの奴らが動いたが、それを草加部が手で制した。

 力が入れば立ち上がりたかったけれど、思ったよりもダメージはでかかったようだ。上体を起こすので精一杯だった。尻餅をついて、奴の顔を睨み上げる。

 ぶっちゃけ、俺は切れていた。

「お前ら、『circus』の何を知ってんの? 何を見て、聞いて、俺らとお前らを一緒くたにしちゃってんの? なぁ?」

 自分でもびっくりするくらい饒舌だった。けれど、切れてる時に冷静に話すことができるんだったら、俺はできた人間だと思う。冷静になれないことが、子供だから仕方がないだとか、甘えるつもりはない。だが、それがなんだ。それがどうした。

 俺は今、目の前のこいつ等にぶち切れているんだ!

「知らねぇようだから言うけどさ。『circus』はお前らの様なチームでも、存在でもねぇんだよ。『circus』はなぁ、俺らの様な……ガキもいいとこガキの、どうしようもねぇガキどもで成り立っちゃいるけど、俺らの様な人間が一番求めているチームなんだよ」

「何、言ってやがる?」

 草加部はたじろぐ様を見せた。それは俺が凄んでいる所為なのか、それとも事態が理解ができない所為なのか……。

 だが、そんなもんは知るか。つーか、てめぇの事情なんぞ知るか。どうでもいい。ふざけんな。

 別になりたくて有名になったわけじゃない。ところかまわず喧嘩したわけじゃない。確かに、強いことや強くなったことは認めるけど、俺らは悪名で通るようなことは一切していない。

 俺らは…… 俺らは……!

「ただのボランティア団体なんだからさ……」

「はぁ?」

 法人格はないから、任意ボランティアだけどな……学生の。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

スキル『日常動作』は最強です ゴミスキルとバカにされましたが、実は超万能でした

メイ(旧名:Mei)
ファンタジー
この度、書籍化が決定しました! 1巻 2020年9月20日〜 2巻 2021年10月20日〜 3巻 2022年6月22日〜 これもご愛読くださっている皆様のお蔭です! ありがとうございます! 発売日に関しましては9月下旬頃になります。 題名も多少変わりましたのでここに旧題を書いておきます。 旧題:スキル『日常動作』は最強です~ゴミスキルだと思ったら、実は超万能スキルでした~ なお、書籍の方ではweb版の設定を変更したところもありますので詳しくは設定資料の章をご覧ください(※こちらについては、まだあげていませんので、のちほどあげます)。 ────────────────────────────  主人公レクスは、12歳の誕生日を迎えた。12歳の誕生日を迎えた子供は適正検査を受けることになっていた。ステータスとは、自分の一生を左右するほど大切であり、それによって将来がほとんど決められてしまうのだ。  とうとうレクスの順番が来て、適正検査を受けたが、ステータスは子供の中で一番最弱、職業は無職、スキルは『日常動作』たった一つのみ。挙げ句、レクスははした金を持たされ、村から追放されてしまう。  これは、貧弱と蔑まれた少年が最強へと成り上がる物語。 ※カクヨム、なろうでも投稿しています。

モブオメガはただの脇役でいたかった!

天災
BL
 モブオメガは脇役でいたかった!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

乙女ゲーム?悪役令嬢?王子なんて喜んで差し上げます!ストーカーな婚約者など要りません!

愛早さくら
恋愛
リジーは公爵令嬢だ。当然のように幼い頃から、同じ年の王太子スペリアの婚約者だった。 よくある政略結婚。 しかしリジーは出来ればスペリアから逃れたいと思っていた。何故なら……――スペリアがリジーの、とんでもないストーカーだったからだった……。 愛が重いを通り越して明確にストーカーな婚約者スペリアから逃れたいリジーの的外れな暗躍と、それを凌駕するスペリアのストーカー力! 勝つのはどっちか? 今、滑稽な戦いが幕を開ける……! ・キャプションには語弊があります。 ・基本的にはコメディベースの明るい印象のお話にするつもりです! ・地味に他の異世界話と同じ世界観。 ・魔法とかある異世界が舞台。 ・CPは固定です。他のキャラとくっつくことはありません。 ・当て馬イッパイぱらだいす。 ・主人公は結局ストーカーからは逃れられませんが多分ハッピーエンド。

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

悪役令嬢?何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号
ファンタジー
過労で倒れて公爵令嬢に転生したものの… 乙女ゲーの悪役令嬢が活躍する原作小説に転生していた。 乙女ゲーの知識?小説の中にある位しか無い! 原作小説?1巻しか読んでない! 暮らしてみたら全然違うし、前世の知識はあてにならない。 だったら我が道を行くしかないじゃない? 両親と5人のイケメン兄達に溺愛される幼女のほのぼの~殺伐ストーリーです。 本人無自覚人誑しですが、至って平凡に真面目に生きていく…予定。 ※アルファポリス様で書籍化進行中(第16回ファンタジー小説大賞で、癒し系ほっこり賞受賞しました) ※残虐シーンは控えめの描写です ※カクヨム、小説家になろうでも公開中です

処理中です...