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ドキドキ? 学園生活♪ 【葉月 side】

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「確か、彼はこの学校の寮ではなく自宅から通学しているんだろう? 君と一緒に自転車で。下校も一緒なのだとしたら、まだ教室にいるのかい?」

 通学状況まで知ってんのか。さすがに突発的な予定変更まで把握してるわけじゃなさそうだけど。

「彼は……今日はもう、帰りました」

「そうか。じゃあ、また明日にでも……」

「神田先生」

 俺は先生の言葉を遮るようにして名を呼んだ。当然、先生は俺を見た。

「彼も……先生とお話がしたいと思います。でも、今は……まだ、無理です」

 先生の言うことはわかる。けれど、まだ俺達は転校したばかりで、この学校に慣れていない。それだけでなく、彼の環境はここ最近、目まぐるしく変わったばかりだった。だから、まだ。まだ早い。

 ぎゅっと拳を握りしめる。

「無理、なんだ……」

 そう言って、昼休みに俺へと向けられた、あの言葉を思い出した。

『僕はもう、諦めないから。逃げないから!』

 ごめん。柳……ごめん。

「片岡君」

 一呼吸を置いてから、先生が俺を呼んだ。

 いつの間にか、先生を直視できなくなっていた俺は、俯いていたらしい。顔を上げると、先生は穏やかな笑みを向けていた。

「どういうことになっているのか、その詳細を僕は知らない。橘兄弟も、君同様に詳しく語ろうとはしなかった。でもね、周りが守ろうとすればするほど、本人の意思というのは聞けなくなってしまう。君たちが守りたい相手というのはそれほど弱い人間なのだろうか?」

「……」

 そう言われて、何も言葉が出なかった。

 ついさっき。尊敬していると言った自分が恥ずかしい。弱い人間なのか? 違う。彼は……柳は、強い人間だった。強い人間だからこそ、俺は惹かれた。憧れた。

 好きになった。

 なのに、俺はあの時から。俺達はあの時から、守られるのではなく、守ると誓って。秘密を作って。言葉で塗り固めて。

 大好きな人を遠ざけた。守ろうとした。それだけだった。

 でも。

 先生は続けた。

「本人の意思はどうだろう? もしも、彼が私と話をしたいと思っているのなら、いつでもここへ来なさい。私はね、書類上でしか彼を見ていないのだよ。しかしそれは情報のほんの一部でしかないんだ。彼、という人間については、この目で確かめて見ないことにはわからない。君たちが活動しているチーム、『circus』の本質は、突き詰めるとそこにあるんじゃないのかな?」

 ああ、そうだよ。と、俺は心の中だけで頷いた。

 同時に、俺達はなんて狭量で、矮小な人間だったんだろうと思わされる。

 けれど、認めることが素直にできなかった。認めてしまったら、それまでの俺達の行動を否定しているようだったから。

 口には出なかった。でも、もう、頷くしかなかった。

『大丈夫だから。だから僕を……』

 そう、だね。そう、言ってたんだよね。柳。

 弱かったのは、俺達だ。

 まさか、たった一日で考えがここまで変わってしまうなんて思いもしなかったけれど、それでも良かった。

 この人が、俺達の味方になってくれて、本当に良かった。

「説教臭くなってしまったね。すまない……だが、まずは君たち仲間同士で、ゆっくりお話をしてみる方がいいだろうね」

「そう、ですね……話をしてみたいと思います」

 上辺ではなく、本心からの返事だった。俺は話し方に抑揚がねぇし、感情が顔に出ないもんだから、解りづらいかもしれないけど。

 先生はわかってくれたようだった。うんうんと頷いている。そんでもって。

「その方が良い。案外、本人はもう動きたいのかもしれないよ。それに、向き合って壊れてしまうような、そんな柔な関係でもないのだろう?」

 最後の台詞は、ニヤリと笑って言われた。

 あ~、それは卑怯だわ。それでいて仕向け方が上手い。俺がさっき、尊敬してると言ったところから確証を得ての発言だ。

 柔な関係じゃない。ああ、そうだよ。

 このくらいで壊れるようだったら、とっくの昔に解散してる。
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