104 / 241
ドキドキ? 学園生活♪ 【葉月 side】
16
しおりを挟む
「確か、彼はこの学校の寮ではなく自宅から通学しているんだろう? 君と一緒に自転車で。下校も一緒なのだとしたら、まだ教室にいるのかい?」
通学状況まで知ってんのか。さすがに突発的な予定変更まで把握してるわけじゃなさそうだけど。
「彼は……今日はもう、帰りました」
「そうか。じゃあ、また明日にでも……」
「神田先生」
俺は先生の言葉を遮るようにして名を呼んだ。当然、先生は俺を見た。
「彼も……先生とお話がしたいと思います。でも、今は……まだ、無理です」
先生の言うことはわかる。けれど、まだ俺達は転校したばかりで、この学校に慣れていない。それだけでなく、彼の環境はここ最近、目まぐるしく変わったばかりだった。だから、まだ。まだ早い。
ぎゅっと拳を握りしめる。
「無理、なんだ……」
そう言って、昼休みに俺へと向けられた、あの言葉を思い出した。
『僕はもう、諦めないから。逃げないから!』
ごめん。柳……ごめん。
「片岡君」
一呼吸を置いてから、先生が俺を呼んだ。
いつの間にか、先生を直視できなくなっていた俺は、俯いていたらしい。顔を上げると、先生は穏やかな笑みを向けていた。
「どういうことになっているのか、その詳細を僕は知らない。橘兄弟も、君同様に詳しく語ろうとはしなかった。でもね、周りが守ろうとすればするほど、本人の意思というのは聞けなくなってしまう。君たちが守りたい相手というのはそれほど弱い人間なのだろうか?」
「……」
そう言われて、何も言葉が出なかった。
ついさっき。尊敬していると言った自分が恥ずかしい。弱い人間なのか? 違う。彼は……柳は、強い人間だった。強い人間だからこそ、俺は惹かれた。憧れた。
好きになった。
なのに、俺はあの時から。俺達はあの時から、守られるのではなく、守ると誓って。秘密を作って。言葉で塗り固めて。
大好きな人を遠ざけた。守ろうとした。それだけだった。
でも。
先生は続けた。
「本人の意思はどうだろう? もしも、彼が私と話をしたいと思っているのなら、いつでもここへ来なさい。私はね、書類上でしか彼を見ていないのだよ。しかしそれは情報のほんの一部でしかないんだ。彼、という人間については、この目で確かめて見ないことにはわからない。君たちが活動しているチーム、『circus』の本質は、突き詰めるとそこにあるんじゃないのかな?」
ああ、そうだよ。と、俺は心の中だけで頷いた。
同時に、俺達はなんて狭量で、矮小な人間だったんだろうと思わされる。
けれど、認めることが素直にできなかった。認めてしまったら、それまでの俺達の行動を否定しているようだったから。
口には出なかった。でも、もう、頷くしかなかった。
『大丈夫だから。だから僕を……』
そう、だね。そう、言ってたんだよね。柳。
弱かったのは、俺達だ。
まさか、たった一日で考えがここまで変わってしまうなんて思いもしなかったけれど、それでも良かった。
この人が、俺達の味方になってくれて、本当に良かった。
「説教臭くなってしまったね。すまない……だが、まずは君たち仲間同士で、ゆっくりお話をしてみる方がいいだろうね」
「そう、ですね……話をしてみたいと思います」
上辺ではなく、本心からの返事だった。俺は話し方に抑揚がねぇし、感情が顔に出ないもんだから、解りづらいかもしれないけど。
先生はわかってくれたようだった。うんうんと頷いている。そんでもって。
「その方が良い。案外、本人はもう動きたいのかもしれないよ。それに、向き合って壊れてしまうような、そんな柔な関係でもないのだろう?」
最後の台詞は、ニヤリと笑って言われた。
あ~、それは卑怯だわ。それでいて仕向け方が上手い。俺がさっき、尊敬してると言ったところから確証を得ての発言だ。
柔な関係じゃない。ああ、そうだよ。
このくらいで壊れるようだったら、とっくの昔に解散してる。
通学状況まで知ってんのか。さすがに突発的な予定変更まで把握してるわけじゃなさそうだけど。
「彼は……今日はもう、帰りました」
「そうか。じゃあ、また明日にでも……」
「神田先生」
俺は先生の言葉を遮るようにして名を呼んだ。当然、先生は俺を見た。
「彼も……先生とお話がしたいと思います。でも、今は……まだ、無理です」
先生の言うことはわかる。けれど、まだ俺達は転校したばかりで、この学校に慣れていない。それだけでなく、彼の環境はここ最近、目まぐるしく変わったばかりだった。だから、まだ。まだ早い。
ぎゅっと拳を握りしめる。
「無理、なんだ……」
そう言って、昼休みに俺へと向けられた、あの言葉を思い出した。
『僕はもう、諦めないから。逃げないから!』
ごめん。柳……ごめん。
「片岡君」
一呼吸を置いてから、先生が俺を呼んだ。
いつの間にか、先生を直視できなくなっていた俺は、俯いていたらしい。顔を上げると、先生は穏やかな笑みを向けていた。
「どういうことになっているのか、その詳細を僕は知らない。橘兄弟も、君同様に詳しく語ろうとはしなかった。でもね、周りが守ろうとすればするほど、本人の意思というのは聞けなくなってしまう。君たちが守りたい相手というのはそれほど弱い人間なのだろうか?」
「……」
そう言われて、何も言葉が出なかった。
ついさっき。尊敬していると言った自分が恥ずかしい。弱い人間なのか? 違う。彼は……柳は、強い人間だった。強い人間だからこそ、俺は惹かれた。憧れた。
好きになった。
なのに、俺はあの時から。俺達はあの時から、守られるのではなく、守ると誓って。秘密を作って。言葉で塗り固めて。
大好きな人を遠ざけた。守ろうとした。それだけだった。
でも。
先生は続けた。
「本人の意思はどうだろう? もしも、彼が私と話をしたいと思っているのなら、いつでもここへ来なさい。私はね、書類上でしか彼を見ていないのだよ。しかしそれは情報のほんの一部でしかないんだ。彼、という人間については、この目で確かめて見ないことにはわからない。君たちが活動しているチーム、『circus』の本質は、突き詰めるとそこにあるんじゃないのかな?」
ああ、そうだよ。と、俺は心の中だけで頷いた。
同時に、俺達はなんて狭量で、矮小な人間だったんだろうと思わされる。
けれど、認めることが素直にできなかった。認めてしまったら、それまでの俺達の行動を否定しているようだったから。
口には出なかった。でも、もう、頷くしかなかった。
『大丈夫だから。だから僕を……』
そう、だね。そう、言ってたんだよね。柳。
弱かったのは、俺達だ。
まさか、たった一日で考えがここまで変わってしまうなんて思いもしなかったけれど、それでも良かった。
この人が、俺達の味方になってくれて、本当に良かった。
「説教臭くなってしまったね。すまない……だが、まずは君たち仲間同士で、ゆっくりお話をしてみる方がいいだろうね」
「そう、ですね……話をしてみたいと思います」
上辺ではなく、本心からの返事だった。俺は話し方に抑揚がねぇし、感情が顔に出ないもんだから、解りづらいかもしれないけど。
先生はわかってくれたようだった。うんうんと頷いている。そんでもって。
「その方が良い。案外、本人はもう動きたいのかもしれないよ。それに、向き合って壊れてしまうような、そんな柔な関係でもないのだろう?」
最後の台詞は、ニヤリと笑って言われた。
あ~、それは卑怯だわ。それでいて仕向け方が上手い。俺がさっき、尊敬してると言ったところから確証を得ての発言だ。
柔な関係じゃない。ああ、そうだよ。
このくらいで壊れるようだったら、とっくの昔に解散してる。
0
お気に入りに追加
590
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【続編】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
花婿候補は冴えないαでした
一
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
運命の人じゃないけど。
加地トモカズ
BL
αの性を受けた鷹倫(たかみち)は若くして一流企業の取締役に就任し求婚も絶えない美青年で完璧人間。足りないものは人生の伴侶=運命の番であるΩのみ。
しかし鷹倫が惹かれた人は、運命どころかΩでもないβの電気工事士の苳也(とうや)だった。
※こちらの作品は「男子高校生マツダくんと主夫のツワブキさん」内で腐女子ズが文化祭に出版した同人誌という設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる