上 下
101 / 241
ドキドキ? 学園生活♪ 【葉月 side】

13

しおりを挟む
 ――――…





 昼食は当然美味かった。柳が作った弁当なんだから不味いわけがない。廻の料理が激マズだからそれに比べて美味い、とかいうレベルでもない。正直、ウチで専業主婦ってるお袋の料理よりも美味いと感じてしまうんだから、彼が俺と同じ男子高校生とは思えない。久々に柳の手料理を口にした真実なんか、美味い美味いといちいち騒がしくてたまんなかった。

 その間、皇は生徒会としての仕事なのか、俺と柳にこの学校の重要事項と規約について簡単に説明してくれた。特に生徒の中で成り立ってしまっている独自の規則や、暗黙の了解など。ツインズのよしみってやつなのか、少しでも俺らに関心を持ってくれたからなのか、ただ単に余計な面倒事を増やさないためなのか。理由はどうあれ、まぁまぁ親切に教えてくれた。

 そして皇はツインズにも用があったらしく、飯を食い終わると早々に、泣き喚く二人を連れて出ていった。こう、襟をむんずと掴んで。引きずっていくように……ざまぁ。

「なんだか一気に静かになったねぇ。僕らも教室に戻ろっか」

「そだね」

 他に誰もいなくなったところで、俺にも用意してくれていた缶コーヒーを飲み干すと、俺と柳は校舎を後にした。

 納得がいったことが一つだけあった。性格についてはともかく、皇っていう男は確かにイイ男だ。猫を何匹被ってんのかはわかんねぇけど、外面良し、頭良し、運動神経よし、喧嘩強し、そんでもって美形ともなれば、ファンクラブやら親衛隊とやらもできるだろう。そりゃあな。そんだけのスペック持った野郎ならモテるだろうさ。加えて、副会長や風紀委員長っていう、見た目がイケメンの部類に入る野郎共もいるんだ。他のクラスからの関心は絶えることがないだろう。下駄箱がいちいち鍵付きになったっていう理由も納得がいく。ファンレターなんて可愛いモンも、束になりゃただの書類だ。それはわかる。わかったさ。

 けどなぁ。ここ、男子校だぜ? 全員が全員、ホモってわけじゃないだろうに。そこんとこどうなのよ? と、俺は自分のクラスに戻るまでの道中、午後から始まる学力テストではなく、きゃあきゃあと野太く湧きあがる歓声に対して頭を抱えていた。

「葉月? 頭痛いの? 大丈夫?」

「ん? ん~……柳がデコ、撫でてくれたら治るかも」

 冗談ぽく、しかし割と本気で撫でてもらいたいと思いながら嘯くと、柳は俺の一回り以上も小さな手を伸ばしてデコを撫でてくれた。嬉しいのはもちろんだけど、ちょっとだけ硬い柳の手がふわふわしてて気持ちいい。ちょっとだけ硬いけど。

「保健室行く?」

「ううん。良くなったからいい」

 なら良かった、と。ほっと息を吐く柳は俺から離れた。

 俺の横に並ぶと、約二〇cmの身長差。俺の方がデカイから、二人が並ぶと先輩後輩の関係に見られる体格差。でも、決して恋人同士に見られることはない二人。

 俺はそう見えて欲しいんだけど。三年前のように。

 ん? となると、俺はホモなのか? 柳は男だし。かといって、柳以外の野郎に興味ねぇし。勃起しねぇし。柳なら同じ野郎の身体であってもヌけるのに。う~ん、わからん。

「ねぇねぇ。葉月」

 再び悩み始めた俺に、柳が俺の袖を引っ張って話かけてきた。

「何? 柳。どったの?」

「うん。あのね……」

 そのとき。

 俺はさっきまで考えていたことよりも、もっと考えなければならなかったことがあったんだっていうことを。この時の柳の顔を見て、思い知らされた。

 柳は首を少しだけ傾けて、そして少しだけ笑いながら。

「ブレット、って何?」

 俺に尋ねてきた。

 そんでもって、とっさに返した俺の台詞が。

「あ~……パン、のことじゃない?」

 苦し紛れだった。顔に出なかったのは、普段から表情筋を無駄に動かさないせいだけど。この時ばかりは自分自身にすげぇと褒めた。すげぇと褒めたけど、パンって何よ。頭回らないにもほどがあるだろ、俺。それにパンならブレッドだ。

 柳がコレを聞いてきたのは間違いなく皇とのあの対面時が原因だろう。あの野郎……マジでムカつく。

 そして柳はといえば。

「そっか。パンのことか……ん? なんで葉月がパンなの?」

「俺、パン好きだし。朝はパン派だし」

「そうだね。葉月、パン好きだもんね!」

「そうそう」

 と、俺の苦し紛れの言い訳に笑顔で付き合ってくれた。

「でもさ……」

 けれどそれで、すんなりと話が終わるわけでもないってことは、親友である俺自身が、一番よく知っているはずだったんだ。

「何か隠してるでしょ?」

「……」

「それってやっぱり、僕に言えないこと?」

「……」

 柳の笑顔は変わらなかった。優しい口調も、気づかう表情も、向かい合う態度も。

 でも、俺は何も言えなかった。いや、何と答えればいいのか、わからなかった。俺は柳に……返してあげられる言葉を持っていなかった。答えを、持っていなかった。

 傍に、廻や真実がいたら、一言だけでも返す言葉があったのかもしれないけれど。俺は自分一人では、この時の柳と向かい合う覚悟ができていなかった。

 情けない話だと思う。けれど、恐かったんだ。俺は柳が好きで、大事に思っていて、特別に感じてて。だからこそ、守りたくて。傷つけたくなくて。

 失いたくなくて。

 なのに俺は。俺達は。

 再び失ってしまうことが怖くて、一番守りたいものから逃げていたんだ。もう二度と、傷つけられないように。もう二度と、傷つかないように。

 柳は俺に言った。

「隠したいことの一つや二つ、誰にだってあるもんね。だから、無理に話すことはないよ。僕だって、海さんと暮らし始めて、一番に言わなくちゃいけなかったことを黙ってたんだから。でもさ、それがもし、僕のためっていう理由なら、皆と改めてお話がしたいな」

 背の高い俺に視線を真っ直ぐ合わせるように、首を上げて、そしてきっぱりと断言する。

「僕、皆が好きだもん。それは葉月達も一緒だと思ってるんだよ? だから、話せる時がきたら話してね。僕はもう、諦めないから。逃げないから!」

 不安なんて言葉、知らないよって言わんばかりの、キラキラとした瞳の奥が、本当に笑ってるんだよってことを、教えてくれていた。

 柳のまっすぐな目。それは俺達が、それまで信じてきた昔と変わらない柳の目。

「柳……」

「ブレットのことも、いつか聞かせてね。……よ~し! 午後のテストもがんばるぞ~!」

 柳は両の拳を握りしめると、午後のテストへと頭を切り替えたようだった。

 俺はどうしたらいいのかわからず、ひたすら頭の中だけで、他の仲間の意見を求めていた。









































 ーーーー…




「……ブレッ、ト? あいつが『ブレット』、だと? ……はっ、はははっ! …………ふざけんなよ。あの金髪野郎」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

スキル『日常動作』は最強です ゴミスキルとバカにされましたが、実は超万能でした

メイ(旧名:Mei)
ファンタジー
この度、書籍化が決定しました! 1巻 2020年9月20日〜 2巻 2021年10月20日〜 3巻 2022年6月22日〜 これもご愛読くださっている皆様のお蔭です! ありがとうございます! 発売日に関しましては9月下旬頃になります。 題名も多少変わりましたのでここに旧題を書いておきます。 旧題:スキル『日常動作』は最強です~ゴミスキルだと思ったら、実は超万能スキルでした~ なお、書籍の方ではweb版の設定を変更したところもありますので詳しくは設定資料の章をご覧ください(※こちらについては、まだあげていませんので、のちほどあげます)。 ────────────────────────────  主人公レクスは、12歳の誕生日を迎えた。12歳の誕生日を迎えた子供は適正検査を受けることになっていた。ステータスとは、自分の一生を左右するほど大切であり、それによって将来がほとんど決められてしまうのだ。  とうとうレクスの順番が来て、適正検査を受けたが、ステータスは子供の中で一番最弱、職業は無職、スキルは『日常動作』たった一つのみ。挙げ句、レクスははした金を持たされ、村から追放されてしまう。  これは、貧弱と蔑まれた少年が最強へと成り上がる物語。 ※カクヨム、なろうでも投稿しています。

モブオメガはただの脇役でいたかった!

天災
BL
 モブオメガは脇役でいたかった!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

乙女ゲーム?悪役令嬢?王子なんて喜んで差し上げます!ストーカーな婚約者など要りません!

愛早さくら
恋愛
リジーは公爵令嬢だ。当然のように幼い頃から、同じ年の王太子スペリアの婚約者だった。 よくある政略結婚。 しかしリジーは出来ればスペリアから逃れたいと思っていた。何故なら……――スペリアがリジーの、とんでもないストーカーだったからだった……。 愛が重いを通り越して明確にストーカーな婚約者スペリアから逃れたいリジーの的外れな暗躍と、それを凌駕するスペリアのストーカー力! 勝つのはどっちか? 今、滑稽な戦いが幕を開ける……! ・キャプションには語弊があります。 ・基本的にはコメディベースの明るい印象のお話にするつもりです! ・地味に他の異世界話と同じ世界観。 ・魔法とかある異世界が舞台。 ・CPは固定です。他のキャラとくっつくことはありません。 ・当て馬イッパイぱらだいす。 ・主人公は結局ストーカーからは逃れられませんが多分ハッピーエンド。

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...