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初☆デート!

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 次の日。

「どうかな……?」

「ええ! すっごく似合ってるわ!」

「ほんと? 魅色ちゃん」

 その場でくるくると回ってみせると、魅色ちゃんがうんうんと満足そうに微笑んだ。そしてそんな彼女の笑顔を見て、僕はほっとすると同時に嬉しくなる。

 魅色ちゃんが僕の為に持ってきてくれた新しい服。それに身を包んだ僕は、自身の目でミラーを確認する。

 魅色ちゃんが女の子だからかな、僕へのチョイスは可愛らしいファッションで女の子っぽくならないか心配だったんだけど、あまりにも似合うと言われてこれはこういうものなんだと納得した。

 ポンチョって言うんだっけ? 僕っていつもパーカーばかり着てたからこういうの初めてで、なんだか落ち着かないけど、意外とあったかくて動きやすい。パールホワイトかベビーピンクで魅色ちゃんが迷ってたけど、白が似合うわということで、カラーは前者になった。ちなみに中はニットのセーターとブルーのジーンズを穿いている。

 人から褒められると嬉しいな。

「ふふっ。柳ちゃんは着せ替え甲斐があるから楽しいわ」

「ありがとう、魅色ちゃん」

「でも……あの男とのデートのために選んでるっていうのが……腹立たしいことこの上ないのだけど」

「あはは……怖い」

 魅色ちゃんは口元だけ笑いながら、手にしていたもう一方のポンチョをこれでもかっていうほどに、ぎゅ~っと握りしめる。僕は苦笑いしか出なかった。

 でも、新婚生活が始まっても、葉月たち曰く「兄弟みたい」な僕らは、特に何があるわけでもなく。お仕事でちょっと帰ってくるのが遅い海さんと一緒に夕御飯を食べて、その日にあった出来事をお話して、テレビを見て、たまにはお菓子を食べたりなんかして、朝が早い旦那さまよりも先に僕が寝るっていうごくごく普通の同居生活を楽しんでいる。 

 あ、最近流行りの格闘ゲームを一緒に遊んだりもするよ。テレビゲームって楽しいんだね。海さんがゲーム強くてびっくりしちゃったけど。僕のキャラ、ボコボコにされちゃったけど。手加減なくて半分泣きかけたけども……あんにゃろう。

 ほとんど家でしか会わないけど、だんだんと慣れてきたあの人との生活。真城での賑やかだったあの生活とはまったく違うけれど、静かでほんわかと感じる温かなこの生活は、僕の心を確実に解いている。

 さて。

 今日のデートは、午後六時の某駅噴水前にての待ち合わせからスタートです。僕は魅色ちゃんの旦那さまであり、海さんの秘書の綾瀬さんに待ち合わせ場所まで車で送ってもらうことになった。

 海さんは今お仕事に行ってていないんだけど、そっちを切り上げてから待ち合わせのそこに来るんだって。わざわざ外で待ち合わせしてからなんて……なんだか緊張するなぁ。

 車の置いてある地下駐車場に着くと、やっぱり心配だから待ち合わせ場所に着くまでは一緒にいてあげると、魅色ちゃんも僕と一緒に後部座席に乗り込んだ。え、助手席じゃなくていいの?

「だって柳ちゃんの方が大切だもの!」

 綾瀬さん。ごめんなさい。

 心の中で謝ると、バックミラー越しに、「気になさらないでください」と綾瀬さんが苦笑していた。

 いざ、待ち合わせ場所へ。

 車は静かに目的地へと向かい出した。

「よいしょっと」

 僕は持ってきたショルダーバックを膝に乗せ、その中からまだ真新しい眼鏡ケースを取り出した。さっきまで着替えていたから、いつも掛けてる眼鏡を外してたんだよね。

 龍一様に貰った大切な眼鏡。僕はそれをコンタクトレンズをしている目の上にスッと掛けた。

「これ……」

「ん?」

 何かを言いかけながら手を伸ばして、僕の前髪を優しく撫でながら、複雑そうな表情を魅色ちゃんは浮かべる。どうしたんだろ?

「まだ外せないのね。あの男は知ってるんでしょう?」

「目のこと? それならもう知ってるけど……」

「いえ、そっちじゃなくて」

「あ、これ?」

 尋ねていることが僕の目の色の事だと思ったんだけど、そっちじゃなかったらしい。どうやら眼鏡を掛けている、本当の理由の方だ。

 これは龍一様から貰ったもので、今じゃ欠かせない大切な物。別に、掛けなかったらどうなるんだっていう話ではないんだけど、お守りみたいなものかな。ちょっと不安になるけど、なくても生活はできるし。

 海さんは最初、目のことだと思って外すように勧めたけど……。

「うん。知ってるよ」

 ある時知っちゃったんだよね。正確には見られちゃったんだけど。

 目の色とは違って、隠すつもりはなかった。他人には隠してるつもりのくせの、隠しきれてないモノ。今じゃ、どうでもよくなってしまった、けれどわざわざ晒したくない僕のソレ。

 理由を知ってからは、海さんは眼鏡について何も言わなくなった。ただ、そうですかと僕の前髪を、今の魅色ちゃんと同じように優しく撫でたんだ。

 僕は小さく笑ってみせる。でも、魅色ちゃんはやっぱり複雑そうだった。

 その後は魅色ちゃんとしばらくおしゃべりをしてたけど、綾瀬さんから「到着しました」という控えめな一言で、会話は中断される。綾瀬さんは僕を送るという任務を果たしただけなのに、魅色ちゃんから「なんで遠回りしなかったのよ!」とどつかれていた。

 重ね重ねごめんなさい。

 僕は車から降りて運転席の方へ顔を出し、謝罪すると同時にお礼を言った。綾瀬さんは首を横に振って、少しだけ微笑んだ。

「じゃあ、行ってきます」

 変わらず後部座席に座ってむすっとした顔の魅色ちゃんと、それに対しても変わらない表情の綾瀬さんに挨拶をして、僕は一歩を踏み出した。

「柳様」

「はい?」

 呼び止められる。意外にも、綾瀬さんだった。

「何ですか?」

「どうか。あの方を信じてください」

 誰? とは、聞くまでもなかったシンプルな一言。

 海さんよりはやや高く、また僕よりは低いその声音には、願いが込められているようにも聞こえた。

 信じる。それは今までの僕だったら簡単に諦めて、頷いていたこと。

 でも、きっととても。本当は難しいことなんだ。

 だからといって首を横に振るなんてことは、ばかな僕にはできないことで。

「私ごときがこのような発言をすることが、おこがましいこととは重々承知です。ですが……」

 僕は「うん」と頷いた。

「信じます。だって僕は海さんの、奥さまですから!」

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