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新婚生活スタートです
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しかし海さんがそれを知るはずもなく、全身を抱え込む僕の耳を食みながら、クスクスと小さく笑いだした。
……なんか怖い。
「お前は耳が弱いですね」
「耳が弱くない人間なんていません……」
「そうですか?」
「って、そんなに食べないでください! だめっ、そこ弱……うやああああ!」
「変な悲鳴ですね。もっと色気のある声を出したらどうですか。はむ」
「バカー!」
「言っておきますが、私はまだお前のことを許したわけではありませんよ。こんなにいい夫を差し置いて、一体どこの馬の骨を想っているのやら」
「それまだ根に持ってるん……ごめんなさいっ! 耳はやめてっ……あはははは! 脇っ、……脇!? 脇はもっと駄目だからー!」
「結婚してまだ一週間です。妻の浮気性を直すのが夫の最初の仕事とは……まったく」
「とかなんとか言いながら擽るの止めてー! うひゃははははー!」
僕の旦那さま、誰か止めてー!!
それから……数分後。
「つ……疲れた……」
若いはずの僕が、一回り近くも年上の旦那さまに体力で負けました。
制裁は終わったのか、ようやく解放された僕は、息をせき切らしながらぐったりと、涼しい顔の海さんの胸に身体を預けております。
「今回はこれくらいにしておきましょう」
そう言って僕のほっぺを撫でる海さん。
これ、やっぱり癖なのかな?
そんなことを思いながら、僕はややずれている眼鏡をかけ直す。
そのとき。
くん。
なんだかスッとした甘い香りが鼻の中に入ってきた。
くんくん。
あ。海さんの肩辺りからする。
くんくん。
なんだろ? 香水? いや、コロン? う~ん……レモンじゃないよね。シトラスかな? いや、でももうちょっとこう甘い感じが……。
くんくん。
よくわかんないけど、いい匂~い。
「柳」
「すん……はい?」
「積極的に擦り寄ってこられることは夫としてはとても喜ばしいのですが……しかしこうも鼻先を擦りつけて嗅がれると、気になるのですが」
と、苦笑交じりに促す海さん。
しまった。香りに夢中で、ついつい行動が露骨に出ちゃった。
「ごめんなさい。でも、何の匂いなんだろうなって思って」
「ああ。香水ですよ。キツいですか?」
「ううん。すごくいい匂い。香水ってもっとこう、キツいイメージがあったけど、これだったら毎日でも嗅いでいたいです。僕は好き」
「……そうですか」
気に入ったことを伝えると、なぜか海さんは一瞬だけ目を瞠った。
でも、すぐに僕に微笑むと、この香水のつけ始めた理由を語りだした。
「これは、知り合いからもらったんですよ」
「知り合い?」
「ええ。彼もこの香りが好きだと言って、自分でなく私にくれたんです」
「どうして?」
「彼の家の者が香水を嫌っていたそうで。しかし、私がつければ私に会ったときにこの香りを楽しめると言っていました」
「ふ~ん」
その知り合いさんグッジョブ。今は僕も楽しんじゃってます。
へ~。海さんの知り合いかぁ。お友達なのかな?
こころなしか、海さんの雰囲気がいつもより柔らかい感じがするし。
「お友達なんですか?」
そう尋ねると、海さんの眉間がピクリと動いた。
そして、その人のことをなんとも思っていないような、そんな冷たい素振りになる。
「いえ……ただの知り合いです。友人などではない」
「そうなんですか? でも、香水をプレゼントするくらいの仲だから……」
「ただの礼だそうです。厄介を抱えるたびに、私の家に上がり込んで居座ってましたから。こちらとしては、いい迷惑でした」
「迷惑……ですか」
すごい知り合いさんがいるんだねぇ。海さんもなんだかこう……もううんざりです~って感じだし。
でも、海さんだったら、魅色ちゃんのときみたいに、ぴしゃりと言っちゃいそうな感じがするのに、それでも効かない人なのかな。だったら、知り合いっていうより友達って感じがするんだけど。違うのかな?
僕が俯いて考え込むと、海さんはグイッと、僕の負担も考えずに顎を持ち上げた。
く、首が……。
「お前のことを言ってるんじゃないですよ。気にする必要はありません」
「へ……?」
な、なんのことですか?
首痛いんですけど……。
「海さん?」
「……」
はてなを浮かべる僕と、顎を持ち上げた海さんが、見つめ合うこと数秒後。
「柳……」
海さんが僕の名前を呟いた。
そして。
「海さん? 顔近い……ってちょっと!?」
なんで僕の顔に近づくの!?
近っ……ものすごく近い!!
これじゃまるでちゅーする体勢……
「キス、しましょうか」
ビンゴー!?
「まっ……待って、くだっ……」
タンマをかけようとするも、海さんの動きは止まらない。それどころか、僕の腰をがっちりホールド。
僕の頭もピッタリホールド!?
「……まっ」
「待たない」
近づく瞳。
かかる吐息。
重なる……
「……っ!」
額と額!!
ゴチン!!!
「……っっっ!?」
「く~~~っ!!」
零距離射程からの渾身の一撃!
ヘッドアタック!!
ぶっちゃけ頭突きを、海さんにかました。
……なんか怖い。
「お前は耳が弱いですね」
「耳が弱くない人間なんていません……」
「そうですか?」
「って、そんなに食べないでください! だめっ、そこ弱……うやああああ!」
「変な悲鳴ですね。もっと色気のある声を出したらどうですか。はむ」
「バカー!」
「言っておきますが、私はまだお前のことを許したわけではありませんよ。こんなにいい夫を差し置いて、一体どこの馬の骨を想っているのやら」
「それまだ根に持ってるん……ごめんなさいっ! 耳はやめてっ……あはははは! 脇っ、……脇!? 脇はもっと駄目だからー!」
「結婚してまだ一週間です。妻の浮気性を直すのが夫の最初の仕事とは……まったく」
「とかなんとか言いながら擽るの止めてー! うひゃははははー!」
僕の旦那さま、誰か止めてー!!
それから……数分後。
「つ……疲れた……」
若いはずの僕が、一回り近くも年上の旦那さまに体力で負けました。
制裁は終わったのか、ようやく解放された僕は、息をせき切らしながらぐったりと、涼しい顔の海さんの胸に身体を預けております。
「今回はこれくらいにしておきましょう」
そう言って僕のほっぺを撫でる海さん。
これ、やっぱり癖なのかな?
そんなことを思いながら、僕はややずれている眼鏡をかけ直す。
そのとき。
くん。
なんだかスッとした甘い香りが鼻の中に入ってきた。
くんくん。
あ。海さんの肩辺りからする。
くんくん。
なんだろ? 香水? いや、コロン? う~ん……レモンじゃないよね。シトラスかな? いや、でももうちょっとこう甘い感じが……。
くんくん。
よくわかんないけど、いい匂~い。
「柳」
「すん……はい?」
「積極的に擦り寄ってこられることは夫としてはとても喜ばしいのですが……しかしこうも鼻先を擦りつけて嗅がれると、気になるのですが」
と、苦笑交じりに促す海さん。
しまった。香りに夢中で、ついつい行動が露骨に出ちゃった。
「ごめんなさい。でも、何の匂いなんだろうなって思って」
「ああ。香水ですよ。キツいですか?」
「ううん。すごくいい匂い。香水ってもっとこう、キツいイメージがあったけど、これだったら毎日でも嗅いでいたいです。僕は好き」
「……そうですか」
気に入ったことを伝えると、なぜか海さんは一瞬だけ目を瞠った。
でも、すぐに僕に微笑むと、この香水のつけ始めた理由を語りだした。
「これは、知り合いからもらったんですよ」
「知り合い?」
「ええ。彼もこの香りが好きだと言って、自分でなく私にくれたんです」
「どうして?」
「彼の家の者が香水を嫌っていたそうで。しかし、私がつければ私に会ったときにこの香りを楽しめると言っていました」
「ふ~ん」
その知り合いさんグッジョブ。今は僕も楽しんじゃってます。
へ~。海さんの知り合いかぁ。お友達なのかな?
こころなしか、海さんの雰囲気がいつもより柔らかい感じがするし。
「お友達なんですか?」
そう尋ねると、海さんの眉間がピクリと動いた。
そして、その人のことをなんとも思っていないような、そんな冷たい素振りになる。
「いえ……ただの知り合いです。友人などではない」
「そうなんですか? でも、香水をプレゼントするくらいの仲だから……」
「ただの礼だそうです。厄介を抱えるたびに、私の家に上がり込んで居座ってましたから。こちらとしては、いい迷惑でした」
「迷惑……ですか」
すごい知り合いさんがいるんだねぇ。海さんもなんだかこう……もううんざりです~って感じだし。
でも、海さんだったら、魅色ちゃんのときみたいに、ぴしゃりと言っちゃいそうな感じがするのに、それでも効かない人なのかな。だったら、知り合いっていうより友達って感じがするんだけど。違うのかな?
僕が俯いて考え込むと、海さんはグイッと、僕の負担も考えずに顎を持ち上げた。
く、首が……。
「お前のことを言ってるんじゃないですよ。気にする必要はありません」
「へ……?」
な、なんのことですか?
首痛いんですけど……。
「海さん?」
「……」
はてなを浮かべる僕と、顎を持ち上げた海さんが、見つめ合うこと数秒後。
「柳……」
海さんが僕の名前を呟いた。
そして。
「海さん? 顔近い……ってちょっと!?」
なんで僕の顔に近づくの!?
近っ……ものすごく近い!!
これじゃまるでちゅーする体勢……
「キス、しましょうか」
ビンゴー!?
「まっ……待って、くだっ……」
タンマをかけようとするも、海さんの動きは止まらない。それどころか、僕の腰をがっちりホールド。
僕の頭もピッタリホールド!?
「……まっ」
「待たない」
近づく瞳。
かかる吐息。
重なる……
「……っ!」
額と額!!
ゴチン!!!
「……っっっ!?」
「く~~~っ!!」
零距離射程からの渾身の一撃!
ヘッドアタック!!
ぶっちゃけ頭突きを、海さんにかました。
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