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新婚生活スタートです

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 ――――…




 時刻は午後五時。

 某マンション最上階にある唯一の部屋、その中にあるだだっ広いリビング。そしてそのソファーの上では。

 旦那さまを怒らせた罪で処罰を受ける、奥さまこと僕の……あられもない姿があった。

「……んんっ! ……ごっ、ごめんなさいっ……海さんっ!」

「謝って済むのなら、そもそもこんなことにはなりません」

「だからっ、それは誤解っ……ひああぁぁぁっ!」

「ああ……すんなり入りましたね。嫌だ嫌だと言いつつも、本当は望んでいたんじゃないですか? 体は正直ですよ」

「そっ、そんなこと……やああっ!」

「大人しくなさい。痛いのは嫌でしょう?」

「やっ……やぁあっ……! い、意地悪、しないでっ……」

「なら、白状なさい……夫以外の一体誰に懸想しているのかを」

「そっそれはっ……ぁっ……ふあぁあんっ!」



































「……全く。お前も強情ですね。こっちは終わりましたよ」

「ふぁ……怖かった……くすぐったかった……怖かった~っ!!」

 旦那さまの合図とともに、僕はぐにゃりとその場で脱力してしまう。その場とは、旦那さまこと海さんの膝。そししてその上のこと。

 まぁ、つまり。僕は、ただいま海さんの膝の上で寝ているってことです。はい。

 そして膝の上でぐったりしている僕を見下ろす海さんは、それを嫌がるでもなく、むしろクスリと小さく笑った。

「そんなに嫌でしたか?」

「うん……怖かった。でも、なんかちょっと気持ちよかったです……」

 耳掃除の刑。

 も~ホントにびっくりした。

 びっくりもびっくり。びっくり続きだよ!

 だってまさかの告白の時に海さんが現れて、しかも誤解されてお仕置きをされるなんて。

 しかも海さん、やってる最中に手が滑っただの、奥に入るだの、怖いこと言うんだもん。

 まぁ、実際はそんなことなかったし、痛くもなくてクリーンもクリーンにしてもらったけれどさ。

 あ、ちなみに今の時間は完全に龍一様がいらっしゃるメッセージで宣言した時間なわけだけど、まぁ見ての通りと言いますか。

 龍一様いらっしゃいません。

 実はね。僕が送ったメッセージを見た後、お仕事中の海さんに電話したんだって。僕が時間通りにマンションに帰れないから、車で迎えに行って来いって。

 で、海さんは下校時刻に僕の学校まで来てくれたってわけ。しばらくは校門で待ってたらしいけど、生徒たちが騒ぐからって僕のいるだろう教室まで迎えに行くことにしたんだって。それで教室を近くの生徒に尋ねたところ、僕が例の場所に呼び出されたこと知って、あの告白にハチ合わせちゃったってわけなんだ。

 そこから先は、まぁあの通り……引きずられて帰ったわけだけど。

 その最中だよ。車でマンションへ向かってる中、海さんの携帯に電話が入ったんだ。もちろん、運転してるのは海さんの秘書さん兼、魅色ちゃんの旦那さまだから、ともに後部座席に座って僕を抑え込む海さんはすぐに携帯の通話ボタンを押した。

 すると、龍一様が「やっぱ当初の予定通りに行くわ」ってかけてきたもんだから、僕は「バカー!」って心の中で叫んだよね。

 そして。

 僕のお仕置きが耳掃除の刑になったのも、その時電話してきた龍一様に、海さんが尋ねた結果だった。何度も僕の携帯にメッセージを送ったのに返ってこないからって。その罰だって。

 龍一様のお茶、めちゃくちゃ濃いのを出してやるって心に決めた瞬間だった……。

「起き上がれますか?」

「うん……」

 ふにゃふにゃに力が抜けちゃってるけど、起き上がれないほどじゃない。僕はのっそりと、上体を起こしてソファに身を任せる。

 しかし、それを許すまいと、海さんが僕を引きよせて自分の横に置く。

 ぴったりと。

「……」

「……」

 ち、近いね。

 だって、海さんが僕の肩抱いて横に置いてるんだもん。ちょうど海さんの息がかかるくらいの位置にいるよ? ぴったりですよ、ぴったり。

 全国の奥さまにお聞きしたいんですけど、新婚さんってこんなにべったりするものなんですか?

「固いですね。もっと楽にして結構ですよ」

 いやいやいや!

 こんなホールドかまされて楽になんてできませんから! この状態で楽になるって、それはつまり海さんに全身預けることと同義ですよ。僕の全体重貴方にかかりますよ。そしてそのまま寝ちゃいますよ。

 僕がふるふると首を横に振ると、彼はしょうがないなとばかりに僕の耳元に口を近づけて……

「はむ」

「うわああぁっ!!」

 耳っ!! 耳食べられたぁ!!?

 何をとち狂ったのか。海さんは美味くないはずの僕の耳を食べた……じゃなくて噛んだ。

 当然、僕の身体からはガクンと力が抜け落ち、そして結果的に、海さんに全身を預けることになってしまった。

「耳……食べ……食べられ……た……」

「ええ。美味しかったです」

 旦那さま。カニバリズム疑惑浮上。

 十七年という短い僕の生涯。いろいろなことがあったけど、なかなかない人生だったよね。

 願わくば、骨は残しておいてもらえると助かるかなぁ……。

 僕のささやかなこの願い。
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