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新婚生活スタートです

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 そして今。

 目の事を告白できなかったことと、雑誌を読んでしまったせいでなんとなく、二人の前でもコンタクトを外せない心境を話して、葉月が応えたってわけ。

「ま、別れてくれたほうがいいんだけど」

 さらりと呟いた葉月は、玉子焼きをひょいっと口に放った。

 反対されるのは少し哀しいけど、僕のことを心配して言ってくれてる。それに、彼の言うとおりバレるのは時間の問題だ。時間が経った後よりも、早いうちに告白した方がいいというのはわかってる。

 わかってるんだけど。

 なんでかなぁ。言いづらいんだよなぁ。

 別に、海さんは僕の外見で結婚を決めたわけじゃない(多分)し、あくまで僕の気に入っているところっていうのが、平凡なところなわけだし。

 嫌われるなんてことは、きっとないと、思う、けど……。

「柳」

「何? ……むぐっ!?」

 唐突に。それまで黙っていた廻は何を思ったのか、俯いてしまった僕を呼んで、口の中に玉子焼きを一つ押し込んだ。

 当然、僕は押し込まれたそれを食べるしかない。

「ふぁにふんの~?」

 口の中に物を入れながら喋っちゃ駄目だって教わったけど、今は目を瞑ってほしい。

 ささやかな抗議をする僕に、廻は一瞬だけ微笑むと、すぐに無表情になって横に座る葉月へと視線を送る。

 一方の葉月は、何かを言いたそうに渋ったけど、じっとみつめる廻に降参でもしたのか、がっくりと肩を落とし、僕に向き直って小さく「ごめん」と呟いた。

 いいよ。

 口をむぐむぐさせながら、僕は首を横に振った。

「でも、まだよかった方じゃない? これで髪の色を俺みたいにしてたら、さらに秘密が増えてただろうし」

 そう言って、葉月が自分の髪を一房摘みあげた。

「染髪のこと? でも、僕は染めないし、それは秘密にならないんじゃ……」

「もしも、地毛も目の色と同じだったら、違う色に染めてたって前に言ってたじゃない」

「言ったっけ?」

「言ってた」

「う~ん、覚えてないけど、葉月の言うとおりかも。その時は黒に染めて隠してただろうし、秘密が増えてたね」

「……」

「葉月?」

「うん。そうかもね。その時は、柳は黒に染めてただろうね」

 葉月? 今なんか、ちょっとだけ様子が……。

「ダメ」

「廻?」

「染髪は、すぐにバレる」

「えっ、そう?」

「一緒に生活すれば、バレる」

 廻に断言されてしまった。

 そりゃあ、そうか。所詮は染めるわけだし。完璧に隠すなんてことはできないよね。まして、一緒に生活するんだから、染髪なんて案外すぐにバレるものなのかも。

 てっきり、そういう意味で廻が言ったのだと思ったんだけど、彼女はやっぱり無表情のまま。

「だって、着替える時とか、お風呂に入ってるところとか見られたら、一発じゃない」

「?」

「陰毛でバレる」

「めっ!!? ぐるちゃん……?」

 そこ!? そこなの!?

 髪の色が落ちるとか、色の不自然さに気づくとか、そんなんじゃなくて!?

 というか食事中なんだけど!?

「その心配は無用だよ。廻」

「どうして?」

 廻の口から出た突然の下の話に、僕があわわと慌てる中、葉月はやけに落ち着いた様子で、マグカップを片手に彼女に告げる。

「柳の陰毛、産毛ほどしか生えてないから」

「はづきくんー!!?」

 何言ってるのー!!?

「ちょっとやそっとじゃ色なんてわかんないくらいうっすらとしか生えてないから。たとえ見られても陰毛でバレることは絶対ないよ。ね、柳」

 フッ、と勝ち誇ったかのようなどや顔で何をバラしちゃってるの!? っていうかそれ、内緒にしててねって言っておいたことなのに! 二人だけの秘密だから、誰にも言わないよって、一体どの口が言ったのさ!?

 思春期なのに自分の体になかなか変化が見えないから、同じ学校の、それも同性の葉月に相談したことだったのに……まさかそれが仇になるなんて……。

「葉月だけずるい。私も見る」

「見せるわけないだろ、ばかー!!」

 とはいうものの。

 葉月たちには言ってないけど、ホテルで初夜を迎えた僕は、すでに海さんにえっちなことをされてるから、もうそれは知られちゃってると思う。

 あえて言われなかったけど、海さんの「まだまだ子供ですね」の言葉の部分には、それも含まれていたんだろう。

 うぅ。気にしてたのに……。

 がっくりと項垂れる僕に、「ま、それは置いといて」と。

 葉月の声音が低くなった。

「ホントに見せちゃ駄目だからね」

「え? う、うん。見せないようにする」

 って、目の事かな。え、結局このまま見せない方がいいの?

 葉月、いきなり真剣になるんだもん。びっくりしてそのまま頷いちゃったよ。
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