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初夜でした

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 ―――――…



「柳ちゃん! しっかりお口を濯ぎなさい! ペッしなさい! ペッ!」

「ガラガラガラ~」

「ちゃんとお口を濯いだら歯磨きをするのよ! それからお風呂に入って、石鹸でくまなく身体を洗いなさいね!」

「しゃこしゃこしゃこ……」

「あの野郎~! 私の可愛い可愛い柳ちゃんの清い唇をたやすく奪いやがって~!!」

 口調が荒くなってるよ。魅色ちゃん。

 まぁ、それもこれも海さんが魅色ちゃんの前で僕にちゅーしちゃったせいではあるけれど。

 当然というべきか、その光景を目の当たりにして絶叫を上げた彼女は、海さんの腕の中の僕を台風のごとく攫い、迷うことなくこの部屋のバスルームまで連れ込んで、ちゃっちゃかちゃ~っと、僕にうがい、手洗い、歯磨きをさせました。

 ……ちょっとどころじゃなく歯茎が痛いです。

 純白の柔らかなタオルで濡れた口元を拭っていると、じっとこちらを見つめている魅色ちゃんと目が合った。

「? なに?」

「本当にあの人と一緒にいたいのね?」

 あの人とは、赤いあの人のことだろう。

「うん」

 僕は頷いた。

「これから先、ずっと一緒ってことなのよ?」

 結婚だもんね。

「同居や同棲とは違う意味なのよ。それを柳ちゃんはわかっていないわ」

「うん」

「それでもあの人と夫婦として一緒になる、と決めたのね?」

 夫婦。

 実際、結婚している魅色ちゃんからの言葉。

 それには、どんな重みがあるのか。

 どれだけの重みがそこにあるのか。

「…………僕は」

「しょうがないわね」

 はぁ~! と。

 魅色ちゃんは僕の言葉を遮るように、盛大なため息を吐いた。……なんか、おじさんみたいなため息だよ、魅色ちゃん。

 口が裂けてもそれは言えないな、と喉から出そうな所で留めると。

 再び息をすぅっと吸い込んだ魅色ちゃんは、息を吐くと同時にクスリと可愛く笑った。

「やってみなさい。夫婦の生活を」

「魅色ちゃん……」

「あの人と一緒にいたいって言ってるのに、それを無理やり引き裂くなんて無粋な真似は、悔しいけど今の私にはできないわ」

 えっと……。 これって、認めてくれたってこと……かな?

「今は、よ」

「今は?」

 そ。

 魅色ちゃんは頷く。

「そりゃあ、最初はあの龍一様に押されて、柳ちゃんはあの人のところへ行ったんでしょうけれど。さっき私の前で言った、一緒にいたいって気持ちは、柳ちゃんの本心なのよね? 私はね、柳ちゃんの言葉なら信じられるの。貴方の言葉には裏がないもの。でも、あの人の……紫瞠海の言葉だけは信じられないわ。貴方がどれだけの情で信じていたとしてもね。だから、今は様子見という形で引き下がる」

 でも今後、柳ちゃんに危害が及ぶようなら容赦なく引き裂くわよ、と続けた。

 魅色ちゃんって、もしかしなくても海さんのことが嫌いなんだろうか? 知り合いみたいだけど、仲はあまり良くなさそうだ。

 なんでだろ?

「海さんは優しいと思うんだけどなぁ」

 僕はポツリと呟いた。

 そりゃあ、さっきみたいに唐突なこともするし、意地悪な顔して意地悪なことするし、愛想もあまりない人だけど。

 でも、やっぱり優しいなって思っちゃうんだよね。

 すると、魅色ちゃんは「それなのよ」と意味深に首を横に振った。

「どうしてあんな人のことを、優しいって思えるのかが不思議だわ。いえ、それよりも……」

 魅色ちゃんがずいっと僕に顔を近づけてくる。

 な、なにかな?

「あの人が自分の隣に他人を置いたり、触れたりする事にびっくりしたわ。たとえ横に女を置いていたとしても、人前で触ることはおろか、キスなんてする人じゃなかったはずよ。それにあんなに柔らかい表情を他人に向けるなんて……いったいどういうこと?」

 どういうことって聞かれても……。

 え?

 どういうこと? そんなに珍しいことなの?

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