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「ゲーム1」5
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叫ぶように伝えたことで、呼吸が荒くなる。肩で息をしながら、俺はくしゃりと顔を歪めた。
「で、できるわけ……なかったんだよ……雅が俺に……キス、なんて……せ、セル達も……そうだろ?」
生死が懸かったものとはいえ、実の兄と……それも、これまで卑下してきた嫌いな兄と一分以内にキスだなんて、頭がイカれてでもない限り、できるわけがない。しかも口の中に舌を入れろときたもんだ。ゲームマスターは、雅の性格を知っていて、このゲームを企てたのか? そうだとしたら、ゲーム内容がクイズからガラリと変わったことについても納得する。
でも、雅が退場したことでプレイヤーは交代した。交代したのに、ゲームの内容は変わらない。『ゲーム1』のままで、内容も一緒だ。ということは、一度出されたゲーム内容はクリアするまで変わらないということだ。『ゲーム1』の1は、はじめはレベルのことかと思ったけれど、ただ区別する為につけられているようだ。
セルやルイス、バイロンは雅のように俺を嫌っているとは思わないが、それでも嫌だろう。その上、この三人は帝国じゃかなりモテる。俺とは違う。たとえば、相手の見た目が地味で平凡な子だとしても、俺みたいなやつは向こうからこっちに告白をしてくれただけで喜び舞い上がってしまう。けれど、この三人はきっとそうじゃない。選り好みができる部類の人達だ。そんな人達が、モサくて根暗でしかも男の俺にキスだなんて、死よりも耐え難い屈辱だろう。セル達に男色の気が少しでもなければ、このゲームは不利だ。
でも……だけど……!
「これをやらなきゃ……やらなきゃ……セルも、ルイスも、バイロンもみんなっ……みんな、雅みたいに……雅みたいに、殺されちゃうっ……!」
あんな残酷な光景を見てしまったんだ。断末魔すら上げられなかった雅の顔は、人とはわからなくなるほど歪み、壊された。痛いなんてものじゃなかっただろう。苦しいなんてものじゃなかっただろう。死んだ方がマシだなんて、もう口が裂けても言えない。
それにもしかしたら、次はもっと過酷なペナルティが待っているかもしれないんだ。それを二度も、三度も見ろだなんて、身体よりも心が耐えられない。異世界にやってきて親切にしてくれた人達が、理不尽なゲームの末路に苦しむ様なんて、見たくない。
カウントは「20」を切った。もう時間がない。
「セ……」
「なるほど。把握した」
「え……? んんぅっ……!?」
一人、何かを納得したように頷くとともに、セルの顔がグン、と近くなる。そして自分の口からくぐもった声が漏れたのはすぐのことだった。
俺の濡れた唇は、しっとりとした何かによって被せられた。それが何かとわかるまでに、時間はかからなかった。
セルの唇が、俺の唇に重なっている。キスだ。
これが人の唇……男だけど。男なんだけど。男の唇なのに、なんかすごく……滑らかで、柔らかい。もっと硬いのかと思っていたから、少し意外だ。というか、キスってこんな感じなんだ……。したことがないから、わからなかった。
「ん、ぅ……」
セルが吊るされた俺の背中に腕を回し、ぴったりと添うように固定する。もう一方の手は俺の頬にずれないように、けれど優しくあてがわれた。上唇と下唇が引き結ばれていて、それが俺の唇に隙間なく重なるよう、セルの方から顔の角度を変えてくる。
これが……キス……。これが……。
急に緊張が身体を支配し、カチコチと硬直してしまう。仕方がないだろう。だってこれ、俺のファーストキスだったんだぞ。ファーストキス……初めての……キス……うぅ。急に悲しくなってきた。命が懸かってるっていうのに。
ちらりと、目線だけをセルの瞳があるだろう位置へと上げてみる。なんとびっくり。セルの両目は、俺をしっかりと捉えていた。キスって……キスって、こんな両目を開けてやるもんなのか? 洋画とかじゃ、だいたい互いに目を閉じてるもんだけれど……というかセルは、これまでに誰かとしたことがあるん……だよな。あるよな。やっぱり。初キスだけど、わかるもん。なんかこう、セルが上手いの、わかるもん。啄まれてるもん。チュッ、チュッ、て慣れた感じで。
でも、俺がなかなか口を開けないもんだから、セルは舌を挿しこめない。
ど、どうやんの? 舌を挿しこむって、いったいどうやんの? いや、俺がそもそも口を開けろよって話なんだが、開けらんないの。開かないの。開けたらなんか怖いの。わかるだろ? わかれ!
どうするんだ? どうするんだ? どうするんだ? ああ、頭の中がパニックになって口が開かないっ。世のイチャコラカップルはいったいどうやってベロチューなんてハードルの高いもんをやってのけてんの!?
「で、できるわけ……なかったんだよ……雅が俺に……キス、なんて……せ、セル達も……そうだろ?」
生死が懸かったものとはいえ、実の兄と……それも、これまで卑下してきた嫌いな兄と一分以内にキスだなんて、頭がイカれてでもない限り、できるわけがない。しかも口の中に舌を入れろときたもんだ。ゲームマスターは、雅の性格を知っていて、このゲームを企てたのか? そうだとしたら、ゲーム内容がクイズからガラリと変わったことについても納得する。
でも、雅が退場したことでプレイヤーは交代した。交代したのに、ゲームの内容は変わらない。『ゲーム1』のままで、内容も一緒だ。ということは、一度出されたゲーム内容はクリアするまで変わらないということだ。『ゲーム1』の1は、はじめはレベルのことかと思ったけれど、ただ区別する為につけられているようだ。
セルやルイス、バイロンは雅のように俺を嫌っているとは思わないが、それでも嫌だろう。その上、この三人は帝国じゃかなりモテる。俺とは違う。たとえば、相手の見た目が地味で平凡な子だとしても、俺みたいなやつは向こうからこっちに告白をしてくれただけで喜び舞い上がってしまう。けれど、この三人はきっとそうじゃない。選り好みができる部類の人達だ。そんな人達が、モサくて根暗でしかも男の俺にキスだなんて、死よりも耐え難い屈辱だろう。セル達に男色の気が少しでもなければ、このゲームは不利だ。
でも……だけど……!
「これをやらなきゃ……やらなきゃ……セルも、ルイスも、バイロンもみんなっ……みんな、雅みたいに……雅みたいに、殺されちゃうっ……!」
あんな残酷な光景を見てしまったんだ。断末魔すら上げられなかった雅の顔は、人とはわからなくなるほど歪み、壊された。痛いなんてものじゃなかっただろう。苦しいなんてものじゃなかっただろう。死んだ方がマシだなんて、もう口が裂けても言えない。
それにもしかしたら、次はもっと過酷なペナルティが待っているかもしれないんだ。それを二度も、三度も見ろだなんて、身体よりも心が耐えられない。異世界にやってきて親切にしてくれた人達が、理不尽なゲームの末路に苦しむ様なんて、見たくない。
カウントは「20」を切った。もう時間がない。
「セ……」
「なるほど。把握した」
「え……? んんぅっ……!?」
一人、何かを納得したように頷くとともに、セルの顔がグン、と近くなる。そして自分の口からくぐもった声が漏れたのはすぐのことだった。
俺の濡れた唇は、しっとりとした何かによって被せられた。それが何かとわかるまでに、時間はかからなかった。
セルの唇が、俺の唇に重なっている。キスだ。
これが人の唇……男だけど。男なんだけど。男の唇なのに、なんかすごく……滑らかで、柔らかい。もっと硬いのかと思っていたから、少し意外だ。というか、キスってこんな感じなんだ……。したことがないから、わからなかった。
「ん、ぅ……」
セルが吊るされた俺の背中に腕を回し、ぴったりと添うように固定する。もう一方の手は俺の頬にずれないように、けれど優しくあてがわれた。上唇と下唇が引き結ばれていて、それが俺の唇に隙間なく重なるよう、セルの方から顔の角度を変えてくる。
これが……キス……。これが……。
急に緊張が身体を支配し、カチコチと硬直してしまう。仕方がないだろう。だってこれ、俺のファーストキスだったんだぞ。ファーストキス……初めての……キス……うぅ。急に悲しくなってきた。命が懸かってるっていうのに。
ちらりと、目線だけをセルの瞳があるだろう位置へと上げてみる。なんとびっくり。セルの両目は、俺をしっかりと捉えていた。キスって……キスって、こんな両目を開けてやるもんなのか? 洋画とかじゃ、だいたい互いに目を閉じてるもんだけれど……というかセルは、これまでに誰かとしたことがあるん……だよな。あるよな。やっぱり。初キスだけど、わかるもん。なんかこう、セルが上手いの、わかるもん。啄まれてるもん。チュッ、チュッ、て慣れた感じで。
でも、俺がなかなか口を開けないもんだから、セルは舌を挿しこめない。
ど、どうやんの? 舌を挿しこむって、いったいどうやんの? いや、俺がそもそも口を開けろよって話なんだが、開けらんないの。開かないの。開けたらなんか怖いの。わかるだろ? わかれ!
どうするんだ? どうするんだ? どうするんだ? ああ、頭の中がパニックになって口が開かないっ。世のイチャコラカップルはいったいどうやってベロチューなんてハードルの高いもんをやってのけてんの!?
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