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甘い蜜 己の罪 1

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 神木が余命宣告を受けたのは、十八の誕生日を迎えた翌日だった。

 膵臓ガン。ステージは最悪。

 当時、沈黙の臓器と言われるそこは、自覚症状が出る頃にはもう遅いと言われていて、加えて神木のように年若いと回復力も早いがその分進行も早かった。

 まさかこの歳でガンなんて誰が思うよ? 腹が痛いと言っていた時も食べ過ぎだろうと思い込んでいたし、背中が痛いと言っていた時も成長痛だと思い込んでいた。そう思い込みたかった。

 なかなか治らない症状に、おかしいと心配した親があいつを診療所へと連れていった。すぐに通院先が医療機器の揃っている病院へと変わり、何日か経った後に診断を受けた。

 俺はすぐに知らせを受けた。いったい何の冗談だよって。俺は笑った。

 ほんと、何の冗談だろうなって。あいつも笑った。

 しかし、時間は俺たちに笑い合って悲しみ合う時間をくれなかった。

 できることはやりましょう、と。手術をする方向になり、入院の準備が始まった。

 あいつのお袋さんは息子の前では気丈に振る舞っていたけれど、隠れて泣いていたのを知っている。病院の廊下で見かけたからだ。

 余命は僅かだったから、俺は家族の邪魔かもしれないと、見舞いも遠慮した。本当は毎日、神木の顔を見たかったけれど、それより辛いのは親や兄弟だろうと思って、お袋さんを通じての連絡のやり取りに留めた。

 でも、手術が終わって数日後、俺はあいつに呼び出された。ブルーレイデッキを入れられたから、観たいブルーレイを何枚か持ってきてくれって。使い走りとして呼び出された。

 俺を使い走りなんて、ふざけんな。俺はすぐに駆けつけた。

 前開きのパジャマを着た、デカい図体のあいつがベッドにデンと寝そべっていた。

『よう。元気だったか?』

 こっちの台詞だ、バカ野郎。

 あいつは酸素マスクをつけ、身体をいろんな管でぐるぐる巻きにされていた。自然と流れる涙を拭うと、あいつは俺にデコピンをかました。

『ばーか。こんなんで俺が死ねるかよ』
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