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第三 海辺の町『トラート』

駅長の話

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 その夜は駅長さんのご厚意で、特別に駅長室に泊めてもらえることになった。
 駅長室には、キッチンやトイレ、ベッド等、宿泊に必要な設備が完備されていた。夜間に臨時列車が来る時には、駅長さん自身、ここに泊まることもあるそうだ。
「お腹、空いてないかい? なにか作ってあげるよ」
 駅長さんはそう言うと、冷蔵庫にあった食材でちょいちょいと料理を作り、ご馳走してくれた。ワニ肉のステーキとカニのスープ。なかなかの腕前だ。
 駅長さんによると、この『トラート』は海辺にある小さな田舎町。住んでいる人のほとんどが、観光業と農業で生計を立てているという。
「ねえ、レイリア西部鉄道はどこまで続いているの?」
 ワニ肉を頬張りながら聞くと、駅長さんは苦笑いを浮かべながら、
「さあ、今はどこまでだろうねえ」と言った。
 微妙な言い回し。
「もともとレイリア西部鉄道は、その昔、レイリアの外から上陸した人間達が、開拓のために作ったと言われている」
「どういうこと?」
「人間達、つまり私達の先祖がこのレイリアを発見して上陸するまで、ここには大陸全土に渡って手つかずの自然が残っていた。それを私達の先祖は木々を伐採したり山を切り崩したりしながら資源を採取し、同時にどんどん自分達の住む場所を広げていったんだ。そして住む場所が広がると、それなりの交通手段が必要となる。そこで、私達の先祖は鉄道を開設した。それがレイリア西部鉄道さ」
「へえ、そうだったんだ」
 相づちを打ちながら、僕はカニのスープをスプーンですくい、口に運んだ。
「その後も人間達の住む場所は広がり続け、それに比例する形でレイリア西部鉄道の線路も長くなった。要するに、人間達の開拓が進むに連れて、レイリア西部鉄道の線路は伸びていき、その都度、終点の駅も変わっていったというわけ」
「ふーん」
 僕はしばらく考えてから、「それじゃあ、今後も開拓が進めば、レイリア西部鉄道の終点は変わる可能性があるってこと?」と尋ねた。
「そういうことになるね」
 駅長さんは頷いた。「今現在の終点がなんという駅かは忘れてしまったけど、ここ最近は終点に変更はないはずだよ。開拓が進んでいないのかな。まあ、こんな田舎町に住んでいれば、ずっと遠くにあるレイリア西部鉄道の終点がどこかなんてあまり関係ないけど、もしも変更があれば、さすがに駅長の仕事をしている私のところに連絡があるはずだからね」
 料理を食べ終えると、駅長さんは家族の待つ自分の家に帰って行った。
 駅長室にひとり残された僕は、部屋の隅っこにある小さなベッドで横になり、朝まで寝かせてもらった。

 次の日の朝、出勤してきた駅長さんに起こされた僕は、始発列車で『トラート』駅を出発することにした。
 駅のホームに、黄色い機関車が小豆色の客車を引き連れて入って来た。煙突から煙をモクモクと吐いている。
 僕は列車の中に乗り込むと、窓側の席に座った。窓ガラス越しに改札口を見ると、列車から降りた乗客の相手をしながら、駅長さんが手を振ってくれた。僕は窓を開け、身を乗り出して駅長さんに手を振った。
「いろいろありがとう」
 列車はゆっくり動き始めた。
 窓から、外の景色をぼうっと眺める。
 しばらくすると、住宅街が見えた。住宅街といっても、狭い敷地に小さな家が密着して建っている日本の住宅街とは違う。どの家も大きくて、広い敷地にゆったりと建っている。
 住宅街を通り過ぎると、次に現れたのは、視界一面に広がるさとうきび畑。さとうきびはレイリアを代表する生産物だという。昨日の晩、トラートの駅長さんが教えてくれた。
 延々と続いていたさとうきび畑が終わりを見せると、それまで西海岸沿いの平野部を北に向かって走行していた列車は、徐々に進行方向を東向きに変え、渓谷を登り始めた。内陸に広がる熱帯雨林のジャングルへ足を踏み入れたのだ。
 ジャングルに入ると、視界は急に狭くなった。生い茂る木々や草が列車に迫る。
 その後、列車は山に掘られた長いトンネルを幾つも通り抜け、崖と崖の間にかけられた橋を幾つも渡り、やがて目的の駅に到着した。
『クラスタ』
 僕はそこで列車を降りた。
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