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第一 レイリアって……どこ?

あんなところからこんなものが

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 家の近くまで来ると、僕は二階にある優奈の部屋を見上げた。窓ガラス越しに、いつものように外を眺めている優奈の姿が見えた。僕の家の前には、広い原っぱがある。原っぱは近所の子供達の遊び場になっていて、優奈は毎日、自分の部屋の窓辺に立ち、原っぱを走り回るほかの子供達のことを羨ましそうに見ているのだ。
「ただいま」
 玄関を開けて家の中に入ると、僕は駆け足で階段を上り、優奈の部屋に向かった。ドアを軽く二回ノックし、返事を待たずにドアノブを回す。そして、窓際にいる優奈にこんな質問をした。
「ねえ、ユウナはレイリアにどうやって行ったの? レイリアが世界のどこにあるかを知りたいんだ」
「レイリア?」
 お兄ちゃん、なに言ってるの? とでも言いたげに、優奈はきょとんとした表情で僕のことを見ていたが、やがて思い出したように「ああ、私が見た夢の話ね」と口を動かした。
 結論から言うと、優奈はレイリアまでの行き方を知らなかった。
「気が付いたら一人で白い砂浜に立っていて、そこらじゅうに桃色のタンポポが咲いていたの。だから、その場所が世界のどこにあるかなんて分からないし、その場所がレイリアという名前だっていうのも、別に誰かから教えてもらったわけじゃなくて、ただなんとなく、直感でそう思っただけ」
「そうかあ」
 まったく参考にならない。「それならば、他にレイリアのことで覚えていることはある? なんでもいいんだけど」
「うーん、そうだなあ」
 優奈は夢の中での記憶を辿っているのか、しばらくの間、目線を上に向けながら黙って考え込んでいた。「とにかく景色がきれいで、とても静かな場所だったの。私以外は誰もいなくてね、聞こえるのは波の音だけ。波打ち際まで行ってみると、海の水が透き通っていて驚いちゃった。ほとんど透明といってもいいくらい。海の底に沈んでいる砂の粒まで、はっきりと見えたわ。あとは……」
「あとは?」
 優奈はしばらく沈黙した後、
「あとは覚えてない」そう言って、真っ赤な舌を覗かせた。
 僕は優奈の無邪気な笑顔を見ながら、がっくりと肩を落とした。
 結局、優奈からもレイリアの場所について有力情報は得られなかった。でも、桃色のタンポポの生息場所として本にまで書かれているのだから、レイリアは絶対に実在する場所のはずだ。
 僕はそう信じることにした。

 自分の部屋に入ると、僕はカバンの中から『世界の不思議な植物』の本を取り出し、勉強机の上に置いた。もう一度、桃色のタンポポのことを確認しておこうと思ったのだ。
 椅子に座り、ページをめくる。そして、桃色のタンポポが載っている十四ページと十五ページを開いた時、
「あれ?」僕は口をぽかんと開けたまま固まってしまった。
 なぜなら、十四ページと十五ページの見開きを開くと同時に、長方形の紙切れが現れたからだ。つまり、ページとページの間に挟まっていたことになる。
 おかしいぞ。学校の図書室でこの本を開いた時には、こんな紙切れはなかったはずだ。
 その長方形の紙切れの大きさは、縦五センチ、横八センチくらい。見たところ、少し厚みがある。そして、僕から見える面は真っ黒で、なにも書かれていなかった。
 実のところ、僕はその紙切れに見覚えがあった。この間の夏休みのことだ。僕は一人で特急列車に乗り、都心から離れたところにあるお婆ちゃんの家に泊まりに行った。そう、今、僕の目の前にある長方形の紙切れは、その時に乗った特急列車の乗車券によく似ているのだ。
 僕はゆっくりとその長方形の紙切れに手を伸ばすと、ためしに裏返してみた。
 ビンゴ!
 思った通り、その紙切れは電車の乗車券のようだった。
『特別急行  戸船台駅→レイリア』
 と太文字で書かれている。
 戸船台駅とは、僕の家から歩いて十五分の場所にある私鉄電車の駅。ということは、この乗車券を持って戸船台駅から電車に乗れば、レイリアまで行けるということなのだろうか。
 僕は乗車券を左手に持ち、不思議な気持ちでそれを眺めた。そして、まじまじと太文字以外の内容に目を通す。
 ふと、僕は乗車券のある部分に目を止めた。
 よく見ると、『戸船台駅』と太文字で大きく書かれているすぐ下に、小さな文字で[九月八日、午前三時○○分発]と書かれている。
 心臓が激しく動き始めた。今にも破裂しそうな勢い。
 なぜなら、そこに書かれていた日付と時間は、その日の深夜だったから。
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