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幼馴染の設定は最強だ!

第29話 「君の名は?」

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「うわぁあぁぁ!」

 イマダンは始め、自分の置かれた状況が理解出来ず戸惑いフリーズしていたが、甲冑少女と抱き合っているこの状況に驚き思わず雄叫びを上げながら彼女を力一杯、突き飛ばしてしまった。
 
「なんなんだ⁉︎」
「……⁉︎」

 イマダンも驚いていたが、甲冑少女も突き放されて驚いている。

「……おれ、おれたち犬太郎を倒したんだよな……」

 イマダンは自分の両手を見ながら呟いた。
 爺の剣は甲冑少女に拾い上げられた際に手離して地面に落ちている。
 彼は甲冑少女を突き飛ばした無礼な行為の事より、自分の記憶がどんどん改竄されていく工程への戸惑いの方が彼の脳内を支配して動揺しているようだ。

 甲冑少女は初めは戸惑い、それから哀しげな表情に変わったように見えた。

 俺は目の前の二人を青春ドラマのテレビを見ているかのように眺めていた。
 見ている事しか出来なかった。
 今日はもうイマダンの身体を操る事が出来ないのだから。

 【Score      5000
  Hi score 5000】

 ゲームモニターがある部分で数字が現れた。
 今回のボス戦の得点だ。
 前々回のレッドキャップ戦と同率一位だ。
 この配分はどうなっているんだ?
 この地域のボスのブラックドックが2000点でリュパンは三匹で3000点だと計算したら合うのか?

 【EXP 40  Total EXP 90
  coin 40】

 これはどういう事だ⁉︎
 数字が合わない!
 ……レベルが上がったから? 女神が言っていたレベルが上がると経験値とコインが減るって……こういう事か?

 ……レベルの上がる前に甲冑少女が倒したリュパンは10として、レベルが上がったあとのリュパンは……一匹7.5として二匹で15。
 ボスのブラックドックは15! それで計算すれば……40だが……それで合っているのか?
 ひとつレベルが上がるだけでここまで経験値とコインが減らされるのか。
 だから女神はヤリクリをしっかりと忠告したのか。

 ゲーム操作盤の新しいボタンを見つめながら、次のレベルアップではどう進化するのか不安になった。
 可能性としては2P用に横に同じレバーとボタンが付くかもしれない。
 だが、それは意味がない。
 
 まあ、考えても神のする事だから分からない。
 とにかくレベルアップによる数値の減少率の高さに、今後のゲームに不安を残す結果となった。

「なんでエルミナを突き飛ばすノ!」

 妖精っ娘がイマダンの頭を叩いて怒っている。

「痛、痛、ちょっと辞めて!
 えっ……エルミナ?」
「えっ? シマッタ!」

 妖精っ娘は口を手で塞いだでも、今更間に合わない。

 イマダンは突き飛ばした甲冑少女を見下ろした。
 甲冑少女はイマダンの視線をそらした。

 彼女の名前はエルミナ……男性でも女性にも使われる名前でもある……でも、そんな事は関係ない。
 
 彼女はエルミナ。

 イマダンは甲冑少女にゆっくりと近付いた。

「き、君……エルミナっていうのか。
 ……エルミナ・デイナ……」

 デイナ……だと! どういう事だ?

 イマダンを見つめ続ける甲冑少女は驚きのあと、身体を震わせながら一筋の涙を流した。

「ウソー! 思い出したノ?
 ワタシの名前、ワタシの名前ハ?」

 イマダンの頭で暴れていた妖精っ娘が、頭の上から前髪を鷲づかみながら逆さまになって顔を覗き込んだ。
 妖精っ娘のドアップで怯んだイマダンだが、しばらく考え込んで言い放った。

「ピィオ!」

「ヤッター! アタリだヨ!
 思い出してくれたンダ!」

 妖精っ娘は喜んでイマダンの頭の上ではしゃいでジャンプしている。
 その度にイマダンの頭が上下に動き、痛そうだ。

「わたしは、わたしは?」

 今度は詩人少女が自分の名前を言って欲しくて胸を揺らして近付いて来た。

「……ミリル……ミリル・デポネア!」

「スゴイ、スゴイ~! 記憶が蘇ったわん!」

 いつもの倍、胸を弾ませて喜んでいる。

「フフフ……どうやら思い出したようだな。
 オレの名前を言ってみろ!
 よもや、このセクシーな淑女の名前を忘れたとは言わせんぞ!」

 魔童女はなぜか最後に子供が考えるようなセクシーポーズを決めてイマダンに聞いてくる。

「……」

 イマダンは少し考えているようだ。
 魔童女はワクワク腰をくねらせながら自分をアピールしてる。

「…………ロリ!」
「なんだぁ?」

 思わぬ言葉に魔童女は聞き返した。

「おまえはロリだ! ロリで充分だ!」

「キ、キサマ~」

 魔童女は両腕を交互に上げての激オコポーズでカンカンアピールだ。
 あとから加わった魔童女の名前は出てこないようだ。

「ティリル! ロリとはなんだ?」

 また怒りの魔童女から質問が来た。
 でも、それよりティリルって名前だよな。
 イマダン、いやモトダンの名前なのか?

「……ティリル……
 おれの名前はティリル……ティリル・パズドール……」

 イマダンも魔童女がつい口を滑らした言葉が自分の……モトダンの名前である事に気付いたようだ。

「これがおれの名前……わっ!」

 自分のフルネームを口ずさんだイマダンに、詩人少女は思わずその豊満な胸が潰れるくらい強く抱きついた。

「良かった! 良かったわん!」

 驚きのイマダンは初め固まっていたが、詩人少女の胸圧の誘惑に負けてヤツのそのいやらしい手で震えながら彼女の背中に回してハグをしようとした。

「ティリル! 自分の名前も思い出しター!」
「ふがぁ!」

 妖精っ娘はイマダンが完全に記憶を思い出したと勘違いして、喜びのあまりイマダンの顔に全身でダイブした。

「ふがぁ! ふがぁ!」

 自分の顔を全身で抱きしめられたイマダンは鼻が潰れて呼吸困難になったのか、苦しそうな手で震えながら妖精っ娘を剥ぎ取ろうともがいた。

 甲冑少女はその場に留まっていたが喜びで一杯の表情だ。

「ロリってなんだ?」

 魔童女はイマダンの背中を引っ張りながら返答を求めている。

 それにしてもどうしたことだ?
 なぜ皆んなの名前も自分の名前も知っている?
 頭の中の記憶も身体の一部であるから『身体が覚えている』の定義に当てはめて良いのか?

 くっ、こんな時に神はもう現れてくれないなんて……

「とりあえず国に報告だ。
 ボスのケンタロウを倒したんだ。
 これは大金星だ。
 ……フフフフフ……
 金だ、大金が舞い降りるぞ!」

 え~! 魔童女はお金には目がない腹黒キャラなのか?
 カワイイ童女の真の顔は欲のツラだったのか!

「これでバアヤを楽させられる。
 稼いだ金は全部持ってこいってバアヤは言ってるからな。
 これからも稼がなくては!」

 魔童女は老婆の喜ぶ顔を思い浮かべて悦に浸っている。
 良かった……やはり魔童女は見た目通りの無垢な少女であった。
 逆に老婆に貢いで、いいように扱われてはいないか?
 全部って全額、老婆に渡す気らしい……本人が良いのなら口を挟む義理はないが……

 魔童女が右手の甲を空に向けた。

「天が落ち、押し潰さぬ限り、破られる事なし、我は十六番目の戦士!」

 天空に光り輝く丸い紋章が現れた。

「我は二次後発隊、第四番隊、若枝の旅団……リュパン三匹討伐……及びに北部アノスター地区のボス、ケンタロウを討伐……」

 国に報告している魔童女の顔は自信と達成感の笑みで満ち溢れていた。

「はぁ?
 ……ケンタロウだ! そんなのいないだど!
 北部アノスター地区のボスといったらケンタロウしかいないだろ!
 ケ、ケ、ケン……
 ……そうです、ブラックドックです……ブラックドックのケンタ……いえ、なんでもないです……
 はい、はい、わかりました……」

 さっきまでの自信と達成感の笑みは消え、憔悴しきった曇り顔の魔童女がそこに立っていた。
 察しはつく。
 ブラックドックの事を犬太郎と呼んだから国に通じなかったのだろう。
 やはり魔童女が勝手に名付けたのだ。
 好きに名前を付けるのは童女らしくて微笑ましいが大人ましてや国に通じる訳もなく、いじけて肩を落としている。

「ヤツの情報を見た時、名前にケンタロウって書いてあったのに……」

 魔童女には相手のステータスが見えると言うのか? 幻じゃないだろうな、子供特有の……

「まあまあ、終わった事だし、そろそろ帰りましょうにゃん」

 詩人少女が子供をあやすように魔童女の頭を撫でながら帰宅を提案した。

「そ、そうだな……早く帰って早く寝よう!」
「おう! にゃん」
「オウ!」

 一応リーダーである魔童女の掛け声に詩人少女と妖精っ娘が反応してこぶしを高々と上げた。

「おう……」

 思わずイマダンも釣られて、恥ずかしげにこぶしをちょっと上げた。

 帰りは一塊になって村を目指した。
 ボス戦で皆んな疲れているのだろう、少しだらけた感じで歩いている。
 
 今日の収穫はボスに勝った事より、皆んなの名前を知れた事だ。
 イマダンはティリル、甲冑少女はエルミナ、妖精っ娘はピィオ、詩人少女はミリル、魔童女はロリ……あれ?

「今日はイイ事尽くめだ。
 ティリルが皆んなの名前を思い出したからな……あれ? オレの名前はまだ呼んでもらってないぞ!」

 そうだ、まだ魔童女の名前が分からない。

「おいティリル! オレの名前を言ってみろ!」

「……?」

 魔童女の質問になかなか答えが出せないイマダン。

「ロリ!」
「えっ?」
「おまえはロリだ! ロリでいい!」
「キサマ~! ロリってなんだ?」

 プンプンの魔童女、いつもの二人って感じだ。
 
「もういい!」

 怒った魔童女は先頭を切って歩いた。
 イマダンの隣の空いたスペースに甲冑少女が入って来た。
 彼女はイマダンに笑みを見せた。
 だがイマダンは気付かず正面を見ている。
 それでも彼女は嬉しそうに横を歩いた。
 
 なんだ?
 うしろから見ている俺の胸にチクリと痛みが走った。
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