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第二章~自由の先で始める当て馬生活~
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どうしようかさんざん迷った挙句、私はオーリーに尋ねた。
やっぱり今度も彼らの会話をぶった切って。
「ねえ、私気になっている事があるのだけれど……」
ほぼさっきと同じ言い回し。またかと言いたげに三人の注目が私に集まる。
「あのね、オーリー?」
「何だよ」
言いづらい。
私はチラリとエリンを見る。やっぱり二人が返った後にすれば良かった。
けれど言い出したからには止められないと思い切る。
「どうしてあの時、私に抱き付いたの?」
「……は?」
困惑げに声を漏らしたのは、オーリーでもエリンでもなくイヴ。
目を丸くして固まったかと思えば、長めの沈黙の後ブルッと頭を振って首を傾げた。
「………………へ?」
イヴは気を失っていたし、リビングで寝ていたから知らなくて当然驚くわよね。
エリンの事があるから、私だってできれば蒸し返したくないの。
なので、そんな目で見ないでほしい。
何にせよ、これを放置するというのはお世話になったオーリー達に対して、大げさかもしれないけれど不義理な行為といえる。
なんとなくで終わらせてはいけない事ってあるの。
「スライムが出て行った後。あなた銃を下ろしたと思ったら、銃をアクセサリーに戻して私に抱き付いたでしょ?どうしてかなって……」
「あれは……」
オーリーが言い難そうに私から顔を逸らし、窓の外に視線を逃がす。
この場で話すと決めても、気まずいものは気まずい。
私も怖くてエリンの顔が見れないから、そんなオーリーの後頭部を見つめる。
「あれは、安心して……つい、だ」
言い難そうに途切れる言葉。オーリーの耳がほんのり染まる。
「安心ってエリンに言われたから?」
「そうだよ」
オーリーがこちらを振り向いた。
ベッドに肘を付き、未だ痺れる体で懸命に耐えている。
振り向いた拍子に乱れた髪が、オーリーの真剣な眼差しの半分を隠した。
「俺はむやみやたら、人に銃を向けたりしねぇよ。いつも一緒に狩りをしている、あんたは…………いわば仲間みたいなもんだろ?仲間に銃を向けずに済んだんだ。あんな風になってもおかしくないだろ」
――ギリッ
――はあぁぁぁ……
歯を喰い縛る音がすぐ近くから聞こえた。それに被さるように、私も大げさにため息を吐いた。
「ただそれだけ?本当に?」
「それだけってなんだよ!?俺にとっては大事なっ」
「あなたが一番大事にすべきは、自分の命よ」
オーリーが言葉をなくし、目を瞬かせる。
オーリーには突拍子もない事の様に思えたのかもしれない。
けれどこれは、私がこれまで何度も言われてきた言葉で、今でも真実と胸を張れる言葉。
いつだって、私は私を大事にしてきた。
私を大事だと言ってくれる人たちの為。
この間はちょっとだけ無理をしたけれど、それだって逃げられるなら逃げるつもりでいた。
まあ、結局崖から落とされてしまったのだけれど。
それでも良く頑張ったと思うの。
私を守ってくれる人は誰一人いないのに、最後まであきらめずに逃げ切ったんだもの。
いつもなら必ず誰かが側にいて、私が大事な事を忘れてしまったような時には叱ってくれた。
訓練場でジージールが私を叱った様に。
だから今回は私がオーリーを叱る番だ。
私はグッと奥歯に力を入れる。
「それとは関係な……」
「関係ないわけないでしょう? 私がその気なら、あの時にあなたを殺せたのよ?」
「俺を殺そうとするやつが、エリンやイヴを命がけで守るのか?」
オーリーは厭味ったらしく薄っすら笑みを浮かべていて、妙に癇に障る。
「それこそ、私がエリンを洗脳して言わせているだけかもしれないじゃない。もしもそうだったら銃を構えていないあなたなんか……簡単に捻り倒せるわよ?」
今度はオーリーがため息を吐く番だ。
「エリン、お前洗脳されてたのか?」
「されたように見えた?」
エリンが静かに返した。
「いいや……見りゃわかる」
ほら見た事か。
自分の判断の正しさを証明したと、オーリーが鼻で笑い勝ち誇る。
「え……」
自信に満ちた笑みの裏にあるのは、間違いなくエリンへの信頼。
唐突に見せつけられた幼馴染な関係は、私を真顔させるだけの威力を持っていた。
ちょっと待って。
――お前の事なら分かるに決まってんだろ。何年一緒にいると思ってんだよ――
みたいな台詞が、今、脳内で再生されたわ。
やっぱり二人は幼馴染で、かなり付き合いが長いに違いない。
それこそ、勝手知ったる他人の家といった具合に。
酸欠かしら。頭がくらくらしてきたわ。
「ちょっと待ってちょうだい。つまりエリンが違うというから、私は敵じゃないと判断した……という事で良いのかしら?」
「まあ、大体そんな感じだ」
オーリーが自信満々に頷いた。
まず何から突っ込むべきかしら。
エリンとの関係を深堀すべき?
二人のエピソードも知りたい気はするのだけれど、イヴとはどうなのかも気になるし、もしそこにいたのがエリンではなくてイヴなら警戒を解かなかったのか否かって結構重要よね。
それによって今後の展開が変わってくるんだもの。
後はこんな事を言うオーリーについて、二人がどう思っているかも気になるわ。
当て馬としては三人の関係をしっかりと把握して、立ち位置を見極めて、今後に生かして…………
「……って違うわ!」
「いきなりなんだよ!」
この時の私は鼻息もあらく、とても元王女とは言えない顔で叫んでしまっていた。
やっぱり今度も彼らの会話をぶった切って。
「ねえ、私気になっている事があるのだけれど……」
ほぼさっきと同じ言い回し。またかと言いたげに三人の注目が私に集まる。
「あのね、オーリー?」
「何だよ」
言いづらい。
私はチラリとエリンを見る。やっぱり二人が返った後にすれば良かった。
けれど言い出したからには止められないと思い切る。
「どうしてあの時、私に抱き付いたの?」
「……は?」
困惑げに声を漏らしたのは、オーリーでもエリンでもなくイヴ。
目を丸くして固まったかと思えば、長めの沈黙の後ブルッと頭を振って首を傾げた。
「………………へ?」
イヴは気を失っていたし、リビングで寝ていたから知らなくて当然驚くわよね。
エリンの事があるから、私だってできれば蒸し返したくないの。
なので、そんな目で見ないでほしい。
何にせよ、これを放置するというのはお世話になったオーリー達に対して、大げさかもしれないけれど不義理な行為といえる。
なんとなくで終わらせてはいけない事ってあるの。
「スライムが出て行った後。あなた銃を下ろしたと思ったら、銃をアクセサリーに戻して私に抱き付いたでしょ?どうしてかなって……」
「あれは……」
オーリーが言い難そうに私から顔を逸らし、窓の外に視線を逃がす。
この場で話すと決めても、気まずいものは気まずい。
私も怖くてエリンの顔が見れないから、そんなオーリーの後頭部を見つめる。
「あれは、安心して……つい、だ」
言い難そうに途切れる言葉。オーリーの耳がほんのり染まる。
「安心ってエリンに言われたから?」
「そうだよ」
オーリーがこちらを振り向いた。
ベッドに肘を付き、未だ痺れる体で懸命に耐えている。
振り向いた拍子に乱れた髪が、オーリーの真剣な眼差しの半分を隠した。
「俺はむやみやたら、人に銃を向けたりしねぇよ。いつも一緒に狩りをしている、あんたは…………いわば仲間みたいなもんだろ?仲間に銃を向けずに済んだんだ。あんな風になってもおかしくないだろ」
――ギリッ
――はあぁぁぁ……
歯を喰い縛る音がすぐ近くから聞こえた。それに被さるように、私も大げさにため息を吐いた。
「ただそれだけ?本当に?」
「それだけってなんだよ!?俺にとっては大事なっ」
「あなたが一番大事にすべきは、自分の命よ」
オーリーが言葉をなくし、目を瞬かせる。
オーリーには突拍子もない事の様に思えたのかもしれない。
けれどこれは、私がこれまで何度も言われてきた言葉で、今でも真実と胸を張れる言葉。
いつだって、私は私を大事にしてきた。
私を大事だと言ってくれる人たちの為。
この間はちょっとだけ無理をしたけれど、それだって逃げられるなら逃げるつもりでいた。
まあ、結局崖から落とされてしまったのだけれど。
それでも良く頑張ったと思うの。
私を守ってくれる人は誰一人いないのに、最後まであきらめずに逃げ切ったんだもの。
いつもなら必ず誰かが側にいて、私が大事な事を忘れてしまったような時には叱ってくれた。
訓練場でジージールが私を叱った様に。
だから今回は私がオーリーを叱る番だ。
私はグッと奥歯に力を入れる。
「それとは関係な……」
「関係ないわけないでしょう? 私がその気なら、あの時にあなたを殺せたのよ?」
「俺を殺そうとするやつが、エリンやイヴを命がけで守るのか?」
オーリーは厭味ったらしく薄っすら笑みを浮かべていて、妙に癇に障る。
「それこそ、私がエリンを洗脳して言わせているだけかもしれないじゃない。もしもそうだったら銃を構えていないあなたなんか……簡単に捻り倒せるわよ?」
今度はオーリーがため息を吐く番だ。
「エリン、お前洗脳されてたのか?」
「されたように見えた?」
エリンが静かに返した。
「いいや……見りゃわかる」
ほら見た事か。
自分の判断の正しさを証明したと、オーリーが鼻で笑い勝ち誇る。
「え……」
自信に満ちた笑みの裏にあるのは、間違いなくエリンへの信頼。
唐突に見せつけられた幼馴染な関係は、私を真顔させるだけの威力を持っていた。
ちょっと待って。
――お前の事なら分かるに決まってんだろ。何年一緒にいると思ってんだよ――
みたいな台詞が、今、脳内で再生されたわ。
やっぱり二人は幼馴染で、かなり付き合いが長いに違いない。
それこそ、勝手知ったる他人の家といった具合に。
酸欠かしら。頭がくらくらしてきたわ。
「ちょっと待ってちょうだい。つまりエリンが違うというから、私は敵じゃないと判断した……という事で良いのかしら?」
「まあ、大体そんな感じだ」
オーリーが自信満々に頷いた。
まず何から突っ込むべきかしら。
エリンとの関係を深堀すべき?
二人のエピソードも知りたい気はするのだけれど、イヴとはどうなのかも気になるし、もしそこにいたのがエリンではなくてイヴなら警戒を解かなかったのか否かって結構重要よね。
それによって今後の展開が変わってくるんだもの。
後はこんな事を言うオーリーについて、二人がどう思っているかも気になるわ。
当て馬としては三人の関係をしっかりと把握して、立ち位置を見極めて、今後に生かして…………
「……って違うわ!」
「いきなりなんだよ!」
この時の私は鼻息もあらく、とても元王女とは言えない顔で叫んでしまっていた。
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