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第二章~自由の先で始める当て馬生活~

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 秋も深まり、目に見えて寒さが増していく、そんなある日。
 オワリノ国の北部に位置するサンミンクの町では、もうじき開かれる祭りの準備で慌ただしくなっていた。


 正午も過ぎ、昼食を食べ終えた人々が午後の仕事に手を付け始めようかという時分の事だ。

 薄いオレンジ色の髪をなびかせ、本屋の前を通り過ぎようとした時、エリンは呼び止められ立ち止まった。


「エリン!どこに行くの?」


 勢いあまり一歩足を踏み出し、振り返る。

 エリンを呼び止めたのは友人のイブリンだった。


「イヴ……どこって、ウォーカーさん家に行くの、お母さんに野菜を届けろって言われね」


 エリンの手には巾着の様に口が閉じられた、大きな籠がぶら下がる。

 美しい娘の称号である稲穂娘の称号を持つ友人は、知っているといわんばかりにニタリと笑みを浮かべた。


「ははぁん?オーリーがいると良いねぇ」

「はぁ?べっつに、関係ないし」

「そんな大荷物で走って、説得力ないよ。そろそろ素直になった方が良いじゃない?」

「しつこいんだけど?」

「えぇ!? ゴメンって! 私暇なんだけど手伝おうか?半分持ってあげるよ」

「……別に良いよ。私一人で」

「気にすんなって」


 イブは籠の持ち手を片方、エリンから奪うと先に歩き出した。エリンは複雑な心境で引かれるまま歩き出した。

 他人の色恋が好きな友人の事だ。私がオーリーを前にしてワタワタしているのが見たいんだろう。前にそう言っていたし。


 一応、応援してくれているらしい友人は町で一番の美人と評判で、空の色を思わせる青髪艶めき、褐色の肌とよく似合い、活発な雰囲気を醸し出している。
 けれど、彼女の所作は繊細で美しく、しとやかな女性を思わせた。


 エリンはこれが彼女の努力の賜物だと分かっているから、イヴを尊敬しているし、いつか彼女みたいになりたいと憧れる。

 けれど、エリンとイヴが並び立った時、町の男たちは二人を見比べイヴの美しさに頬を緩ませた。
 オーリーとて例外ではないとエリンは思っている。


 女の子と遊ぶのが大好きで、お酒も好きなオーリーは、イヴが来ると鼻の下を伸ばしすし、出来るだけ引き伸ばそうと会話を繋げた。

 イヴは知ってか知らずか、こうして時折付いて来てはエリンの反応を見て楽しんでいる。


 エリンがついてこないでと言わないのは、例え、イヴが付いてこなかったとしてもオーリーが女遊びを止める事はないし、イヴを探しに町へ繰り出す事も止めないのを知っているからだ。


 エリンは諦めているのかしれない。もしくはイヴならオーリーと恋人になっても良いと考えているのかしれない。



 オーリーに恋焦がれはするものの、オーリーとの未来を夢見ていない。それがエリンだった。
 

 
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